第144話|ココ編【……よく動きますねぇ……】
——教団召喚術研究室
召喚術士は慌ただしく召喚に関する資料を鞄に詰めていた。
「……隊長からの連絡が途絶えたと思ったら、王都に魔族が来るなんて……」
「……」
「隊長は生きているのか……」
召喚術士は助手に向かって怒鳴りつけた。
「——おいっ!その資料は絶対に失くすなよっ!」
「お前の命より大切な記録なんだからな!」
「——!?」
助手は肩を跳ねさせた。
「……」
召喚術士は目を血走らせた。
「こんな所で終わってたまるか……」
「まとめたら、馬車に積み込め!魔族に襲われる前に脱出する!」
………………
…………
……
——ヘルの馬車
ヘルは人けの無くなった街の中を馬車で駆けた。
「……おい、本当にこっちにココ様がいるのか?」
「うん」
パックは建物の向こうに見える教会の鐘を見すえた。
“お節介な風”はパックにココの居場所を知らせていた。
パックは拳を握りしめた。
(……ココ……今行く……)
しばらく走り、路地を曲がると公園の入り口が見えた。
その公園の中心には教団本部がある教会が、物々しくそびえ立っていた。
——ドドォン……
城壁の向こうから戦闘の音が響いた。
「……ここからは一人で行くよ」
パックは教会から視線を外さなかった。
ヘルは視線を落とした。
「……パック……すまねぇ……」
「……逃げる俺を許してくれ」
パックは首を横に振った。
「……ううん、ここまで付き合ってくれてありがとう」
「ヘルがいなかったらこんなに簡単に王都に入れなかった」
ヘルは拳を突き出した。
「……死ぬなよ」
「……うん」
パックは拳を合わせた。
パックは辺りを見回した。
「……誰もいないよ、ピット」
しゅるっと音を立てて、ピットが馬車から降りた。
そしてすぐに地面と模様を合わせた。
「……絶対に死ぬんじゃねぇぞ!」
ヘルは今にも泣き出しそうな顔だった。
「うん、ありがとうヘル」
パックはヘルに手を上げ、教会へと走っていった。
ピットもパックの後を追った。
——教会
サンデルの目はもう笑っていなかった。
「……勇者ココよ……少し、私と話をしようじゃないか……」
声だけは柔らかかった。
そして一歩、また一歩、ココに近づいた。
……はーっ、はーっ、はーっ……
ココはじゃりっと音を立てて左足を大きく下げ、オーブを構えた。
ココの動きを見て、術士隊三人と、近衛兵が腰を落とした。
ココは遠距離からも攻撃できるため、“壁”はココから目を離さなかった。
術士隊三人はサンデルからの指示無しには先制攻撃が出来なかった。
「……さぁ、そのオーブをしまいなさい……」
サンデルの目が細まった。
(……あと、少し……)
「——っ」
ココのオーブが光を吸い込み、次いで眩く光った。
体に雷を迸らせ、残像を残して消えた。
「——っ!?」
“壁”は目を疑った。
咄嗟にサンデルを魔法障壁で守った。
次の瞬間。
魔法障壁が火球を弾いた。
「——ちぃっ!」
ココは舌打ちした。
教会の壁を蹴り、ジグザグに方向を変える。
サンデルはもちろん、術士隊三人と近衛兵たちはココの動きを追えない。
ココは魔法障壁の無い背後へと回り込んだ。
オーブが紅く輝いた。
「——これでっ!」
ココは再度、火球を放った。
だが、“壁”も読んでいた。
サンデルの背後に魔法障壁を張り替えた。
魔法障壁が火球を弾いた。
弾かれた火球は教会の石の壁に当たり、静かに消えた。
「……」
サンデルはゆっくりと振り返った。
「……いけませんねぇ……これは……叛逆行為です……」
その声は、まだ柔らかかった。
ココが着地し、眉をひそめた。
(……それならば……至近距離で……)




