第141話|ココ編【……やれやれだぜ……】
アーラはパックに近づいた。
「……パック、必要に迫られたらダメ元で俺を呼べ」
「俺は音を拾うのが得意だ。お前の声は精霊たちが俺へと届けてくれるだろう」
「……うん」
「……あ、マフラー邪魔じゃない?」
「ああ、これか……このままで良い」
「それより、死ぬんじゃないぞ」
アーラはそう言って飛び立っていった。
「……」
ヘルは、ごく自然に魔族を受け入れている自分に鼻を鳴らした。
「……ハハ」
「出発するぞ、とばすから掴まっとけ」
ヘルが声を出し、手綱を鳴らすたびに馬車は速度を上げた。
「……ところでよ……擬態ってどの程度まで出来るんだ?」
パックは荷台に乗るピットを見た。
「……ピット、ちょっと擬態してみてよ」
「良いよ」
ピットは馬車の荷台の模様に似せて擬態した。
「出来たよ」
パックがヘルに向かって言った。
ヘルは荷台を見た。
「……ほう……大したもんだな……ぱっと見わからねぇ……」
ピットは舌を出してチロチロ振った。
「……」
ヘルは前を向いた。
「擬態中に舌は絶対に出すなと言っとけ」
「分かったよ」
「ねぇ、ピット。擬態中に舌は絶対に出すなってさ」
パックはピットに向かって言った。
「出してないよ」
ピットは舌を出してチロチロ振った。
「……」
パックは見なかったことにした。
「……僕はどうするの?」
「……ああ……お前は俺の親戚って事にする。門番は顔馴染みだから大丈夫だろ……」
「良いか、こういう非常事態の時はな、大抵ゴタゴタしてんのさ。堂々としてりゃ案外すんなり入れるんだよ」
「……」
パックは黙った。
(……大丈夫かな)
やがて王都の門が近づいてきた。
案の定、王都から外へと避難する人たちでごった返していた。
ヘルは顔見知りの門番を探した。
だが、人が多すぎて見つからない。
(……まずいな……まさかこれ程とは……)
そうしていると、普段あまり見かけない門番が近づいてきた。
「中に入るのか?」
「通行証は?」
「魔族が襲来しているのは知っているのか?」
口調は乱暴で立て続けに質問してきた。
ヘルは通行証を見せながら答えた。
「……知っています。急ぎの用事を済ませたらすぐに出ます」
そして馬車を降りて、ピットが擬態している荷台の端と反対側の幌を自らめくって見せた。
「すぐ出るんだな?」
「用事が済んだらすぐ出ます」
「よし——」
門番がヘルの方を向いてそう言おうとした時、ピットが舌を出してチロチロ振った。
「——!?」
ヘルの指が跳ねた。
「——ん?……今、荷台で何か動いたか?」
ヘルは幌を大きくめくってピットの顔に被せた。
「……んー、そんな筈はないんですが……猫でも入り込んだかな?」
ヘルが荷台に登ろうとすると、門番が止めた。
「あーもういい。気のせいだろ。通れ」
「すいません……では……」
ヘルはそう言ってそそくさと御者台に乗り、出発しようとした。
「——待て」
「——!?」
ヘルの肩が跳ねた。
「……戦闘はすでに始まっている。気をつけてな」
「……はい」
ヘルは小さく息を吐いた。
門番はちらりとパックを見たが、すぐに次の馬車へと向かった。




