第014話|トール編【理を理解してないから、そうなる】
一瞬にして辺りが紅く染まる。
音は無い。
業火の雨が空を覆い尽くした。
トールが吠えた。
「味方ごと焼くつもりかっ!!」
トールが頭上に剣をかざす。
辺りが暗転する。
上空に雷雲が渦を巻くと、無数の稲妻が迸る。
轟音と共に雷撃が火矢を砕いた。
だが、雷撃の隙間を火矢がわずかに通り抜けた。
炎はすぐに木々の枝を焼いた。
そのうちの一本が不運にも一人の兵士に当たってしまう。
それはトールが叫ぶのと同時だった。
「——避けろっ!!」
トッという軽い音だが、肉に深く潜り込む。
肩に刺さった矢を見る兵士。
「……え?」
何が起きたか分からず立ち尽くす。
少しずつ状況を認識しはじめた。
「あ?……あぁっ……あぁあぁぁっ!!」
炎が髪を焼く。
パニックを起こした。
「うわぁぁぁぁっ!!」
兵士は火を消そうと倒れ込んだ。
火が消えない。
混乱と恐怖が交錯する。
叫び、そして喚いた。
近くにいた同僚が消火しようとおろおろする。
燃え広がる炎の熱が肌を刺し、全身が熱さと痛みで震える。
トールが駆け寄る。
消火しようとしたその時。
スッ……と炎が消えた。
「———!!」
トールの口元がわずかに緩む。
「……さすがだ」
森に火を放つ愚行に憤ったのは——
“誇り高い火”だった。
トールは兵士に刺さった矢の位置を見て言う。
「生きてるな、急所は外れている」
「……もう、戦うな」
辺りの空気が変わる。
兵士たちの手から、槍が滑り落ちた。
トールが立ち上がる。
「……サンデル……どこまでも」
言葉を飲み込む。
その視線は、まっすぐに敵陣を射抜いていた。
——教団軍本部
銀の聖杯をクイと煽る。
「……消えたな……何故だ」
側近は顎に手を添えた。
「……分かりません、先日の雨で湿っていたのでしょうか……」
指輪の宝石を光にかざす。
「……ふむ……雨、か」
「……火矢、再度斉射」
側近は軽く頭を下げた。
「……はっ」
「弓隊、火矢を再度一斉射撃せよ!」
指揮官は右手を上げた。
「弓隊ィッ! 一斉射撃準備!」
「火矢、目標、広範囲!!」
——ザッ
斉射準備に入る弓隊。
「構えぇーぃ!!」
キリリ……と弦が鳴る。
その瞬間。
教団軍の全ての炎が消えた。
サンデルは椅子から背を離した。
「……ふむ、一緒にいた子どもだな」
「火を操る……か」
「……だが、何故攻撃して来ない」
サンデルが側近に指示を出す。
「索敵班に伝令、付近にいる子どもを捕らえよ」
側近は目を伏せた。
「……はっ」
サンデルは続けて言う。
「おそらくは、“火”の祝福を持っているぞ……抜かりなくな……」
「———っ!!」
側近は目を見開いた。
“守る”側と“奪う”側、戦いの局面は少しずつ変わり始めていた。




