第136話|ココ編【壊れた竜と、正気の竜……か】
——上空
アーラの声が低くなった。
「——見えてきたぞ」
パックとピットは前方を見た。
「——!?」
視界のはるか向こう。
白金に輝く竜と、その後ろに黒い竜。
白金の竜が放つ輝きを、黒い竜が銀色に反射していた。
鱗の一枚一枚が流れるように反射し、パックたちは視線を奪われた。
アーラは目を細めた。
「……おそらくだが、向こうもこちらに気づいている……相手にされていない……」
「……」
パックは喉を鳴らした。
「……そして、やはり後ろの黒い方は正気を保っているかもしれん……」
「——だが、感情が昂ぶっている音がする……」
アーラは目を伏せた。
「……話せる相手では無いかもしれん……」
「……」
「……近づいて話しかけてみるか……だが油断はするな、攻撃には備えておけ」
「……僕は滑空出来るから、落ちても拾わなくて良いよ」
ピットは冷静に答えた。
「——!?」
パックがピットの方を向いた。
アーラは目を細めた。
「……それは頼もしいな」
「……ピット……飛べるの?……どうやって……」
パックは言葉を失った。
「……え……飛べないよ?……滑空するだけ」
「……滑空……」
「——それくらいにしろ」
アーラがそう言った直後、黒銀の竜がこちらに顔を向けた。
黒銀の竜の口角から、炎が漏れ出た。
「——っ!?」
アーラが咄嗟に回避行動をとった。
——だが、攻撃して来なかった。
「——牽制?……だとすると、話せるかもしれん」
アーラは軌道を修正して慎重に近づいた。
「……」
パックは喉を鳴らした。
アーラは慎重に口を開いた。
「お前たちも召喚されたのか……」
黒銀の竜は口角から出る炎を揺らしながら答えた。
「……その背中に乗せている種族をこちらに渡せ……」
「——!?」
アーラは目を細めた。
「——理由を聞かせてくれ」
「根絶やしにする」
「——っ!?」
「——どうして」
パックは身を乗り出した。
黒銀の竜は目を細めた。
「——話せるだと?」
アーラは目をつむった。
これまで、ともに行動してきたパックの姿が頭に浮かんだ。
「……」
そして静かに目を開けて、口を閉ざした。
パックは視線を落とした。
「あの白い竜は……正気を失っているの?……」
「貴様らの仕業だ」
パックは拳を握りしめた。
「……ごめん……」
パックは顔を上げた。
「——でも、あの街には僕の大切な人たちがいるんだ……」
「——!?」
黒銀の竜は一瞬だけ動きを止めた。
「……我は」
黒銀の竜は白金の竜を見た。
「……妻の意思に従う……」
そして、パックたちに向き直った。
「……邪魔するものは、容赦しない」
「……」
アーラは黒銀の竜のわずかな揺れを感じとった。
「竜よ……俺も、我々を召喚し、壊す者たちを憎んでいる」
「——だがコイツは違う」
「……」
黒銀の竜は何も答えなかった。
アーラは続けた。
「そいつらを裏で操っているのは——」
「っ!?」
そう言いかけた時、アーラの視界の端に白金の竜の姿が映った。
アーラの顔から血の気が引いた。
白金の竜がこちらに向かって口を開き、喉の奥を光らせていた。
「——くっ!」
咄嗟に回避しようとした。
「——痛っ!?」
飛行型魔族との戦闘で受けた傷の跡に痛みが走った。
わずかに回避が遅れる。
白金の竜の口から巨大な火球が放たれた。
——迫る火球。
アーラたちは火球の光で赤く染まった。
その瞬間。
突風がアーラたちを吹き飛ばした。
白金の竜が放った火球は空を切った。
「わぁっ!」
パックがアーラの背から吹き飛んだ。
「パックっ!?」
アーラがパックを追う。
パックは森に向かって落下していった。




