第132話|ココ編【あの時……私が……】
——森の中
召喚術士隊長は、地面に召喚術式を描き終え、魔法陣の一部を崩した。
「——よし」
「……今度こそ、あのグリフィン型を超える魔族を……」
助手が召喚術士隊長を見た。
「……ですが、良いのですか?……勝手に召喚の儀を進めて……」
「……ふん」
「良いに決まっている……サンデル様も必ずや喜んでくださるとも」
召喚術士隊長は両手を広げ、天を仰いだ。
「……」
助手は魔法陣を見つめた。
「……何をしている、さっさと供物を並べろ」
召喚術士隊長の声が低くなった。
助手の肩が跳ねた。
「——はいっ」
助手は教団兵士に指示を出した。
「供物を並べるぞ」
「ハッ」
教団兵士たちが敬礼した。
次々と召喚の準備が進められていった。
「——よし」
助手が額の汗を拭った。
すると、召喚術士隊長が前に出た。
助手は召喚術士隊長を見た。
その横顔には、身震いをするほどの笑みが満ちていた。
「——!?」
「……」
助手は魔法陣に視線を戻した。
召喚術士隊長が詠唱を始めた。
魔法陣が光り輝いた。
助手はもう一度、横目で召喚術士隊長を見てしまった。
「——っ!?」
魔法陣の光に照らされた、狂気の笑顔に背筋が震えた。
急いで視線を戻した。
魔法陣から放たれる、眩い光が辺りを白く霞ませた。
次の瞬間。
地鳴り。
そして突風。
魔法陣の上に出来たつむじ風が、竜巻のように落ち葉を巻き上げた。
ピシッ……パキッ……ピリリ……
魔法陣から稲妻が迸った。
そして、魔法陣から白金色の角が現れた。
「おおぉ……」
召喚術士隊長が両手を広げた。
「……これは」
助手と教団兵士たちが後ずさった。
白金色の鱗に覆われた頭部が現れた。
「おおぉぉぉぉぉ……」
召喚術士隊長がじゃりっと音を立てて歩を進めた。
助手が召喚術士隊長の袖を掴んだ。
「——隊長!下がって」
「——っ!うるさいっ!離せっ!」
召喚術士隊長は、袖を掴む助手の手を振り払った。
「ハ……ハハ……フハハハハ……」
「……見ろ、美しい……何だこれは……竜の頭部に見えるぞ……書物でしか見たことがない……」
——ココ邸
ココは数日前から部屋に引きこもっていた。
使用人は、ココの部屋に運び入れた食事がほとんど手つかずなのを見て、ため息を吐いた。
執事長も残された食事を見て眉間に皺を寄せた。
「……せめて、食べていただかないと……」
使用人は目を伏せた。
「……はい」
「……」
執事長は静かに目をつむった。
(……こんなになったのは、トール様の時以来か……)
「食事だけは、いつでもすぐ召し上がれるよう、準備しておくように」
「はい」
——ココの自室
ココは、デズモンドからもらった菓子の箱をぼーっと眺めていた。
「……私の……せいだわ……」
「……あんな……」
箱を持つ手に力が入った。
「……お願いさえ……」
手が震えた。
「……しなければ……」
大粒の涙が頬をつたった。
「——っ……」




