第131話|ココ編【……無念だ】
——ウィリアム邸
「……」
孤児院長は部屋に入ると黙った。
「……やり過ぎだ……どういうつもりだ……」
ウィリアムの声は震えていた。
「……何でも良いから何とかしてくれ……そうおっしゃったのは伯爵です」
孤児院長は笑顔を崩さず言った。
「——あそこまでやれとは言っていない」
ウィリアムは振り向いて孤児院長を指差した。
その指先は震えていた。
「……私は無関係だ……良いな?……」
繰り返し指差した。
「……それは……」
孤児院長が懐に手を入れた。
「……もう、無理です」
右手が空を切った。
——トッ
「……!?」
「——っ!?」
ウィリアムは声が出せなくなった。
ナイフが喉に深く刺さっていた。
「……私の依頼主が、あなたも殺せと……ね」
「——っ!?」
ウィリアムは机に倒れ込み、少しもがいた後、しだいに動かなくなった。
「……」
孤児院長は静かに近づき、ナイフを抜いてウィリアムの手に持たせた。
そのナイフにはウィリアム家の紋章が入っていた。
扉の外にいた会計係が静かに部屋に入り、使用人が戻るのを待った。
やがて、紅茶を持って使用人が戻ってきた。
扉が開いたままの部屋を不審に思ったが、外から声をかけた。
顔だけで部屋を覗いた。
「どうかなさいまし——っヒィッ!?」
使用人は紅茶を乗せたトレイを落とした。
会計係は慌てた様子を作り、使用人に言った。
「——医者をっ!ウィリアム様が自ら喉をっ」
使用人は口を押さえ何度も頷いた。
そして躓きながら走っていった。
「……」
「……では、あなたは帳簿の方を……」
孤児院長の顔から笑顔が消えていた。
「差し替えるだけになっています」
「……流石ですね」
孤児院長はウィリアムに一度視線を移してから、自分の靴にはねた紅茶をハンカチで拭った。
………………
…………
……
——数日後
新聞の見出しには、『ウィリアム伯爵がデズモンド侯爵暗殺に関与した疑い。本人は発覚を恐れ自殺か』と書かれていた。
デズモンドの長男は新聞を閉じ、窓際に立った。
「……」
窓の外を見た。
(……父上……さぞかし無念でしょう……)
ぐしゃっと新聞を握り締めた。
(……今はここまでが限界です……ウィリアム亡き今、真相は闇の中……)
(サンデルまでの繋がりが追えない……)
(……急ぎ、家督を継いだが……デズモンド家を守らなければならない……)
(……許してください……父上)
デズモンドの長男は固く瞼を閉じた。




