第127話|ココ編【……まずい、まずいぞ……】
——ウィリアム邸
ウィリアムは新聞を握り締め、爪を噛んだ。
膝が小刻みに揺れた。
「——っ!」
新聞を床に叩きつけた。
紙面の見出しには、『捜査院の証拠品保管庫襲撃される。襲撃犯は何も取らずに逃走』と書かれていた。
ウィリアムの部屋の扉がノックされた。
「——何だっ!……」
「……孤児院長が寄付のお願いでお見えです……」
「——っ!?」
ウィリアムは音を立てて立ち上がった。
「——通せっ!」
「——はいっ」
使用人は扉の向こうで、声を裏返した。
走る足音が遠ざかっていった。
「——っ」
ウィリアムは新聞を拾い上げ、どかりと椅子に座った。
そして再度、扉がノックされた。
「——入れっ」
ゆっくりと扉が開かれ、孤児院長の笑顔が現れた。
ウィリアムは孤児院長の表情を見て、新聞で机を叩いた。
「……何を笑っている……」
その声は震えていた。
「……外に聞こえてしまいます……どうか落ち着いて……」
孤児院長は笑顔を崩さなかった。
「——さっさと閉めろ」
ウィリアムは新聞で扉を指した。
使用人は震える手で静かに扉を閉めた。
ウィリアムは血走った目で孤児院長を睨みつけた。
「……どういう事だ……これは……」
新聞を孤児院長へと投げつけた。
新聞は途中でバラけ、床に落ちた。
孤児院長は微動だにしなかった。
「……事実です……」
「……想定外に、警備が強化されていたようで……」
「……正体までは割れていません」
「——当たり前だ!っ……ゲホッ、ゲホッ……」
ウィリアムが喉を詰まらせ咳き込んだ。
「……」
ウィリアムは水で喉を潤した。
「……はぁ、はぁ、はぁ……」
袖で口を拭い、孤児院長を再度睨みつけた。
「……このままでは……私に辿り着いてしまう……」
ウィリアムは両手のひらを上に向けて、目を見開いた。
「……」
孤児院長はゆっくりと息を吸った。
「……いただいている報酬は返せませんが……別の方法で……何とかしましょう」
「——何でも良い、何とかしてくれ」
「……ここで、躓くわけにはいかないんだ……」
ウィリアムは両手で頭を抱えた。
「……では、また……」
孤児院長は音もなく後ずさり、扉を開けた。
そして、ウィリアムに背を向ける事なく、ゆっくりと扉を閉めた。
扉が閉まる瞬間、孤児院長の口角が上がった。




