第118話|ココ編【あなたは無力なんかじゃない】
パックは猪型魔族を見つめていた。
……ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……
猪型魔族の呼吸がしだいに浅くなっていく。
「……」
パックは拳を握りしめていた。
パックの背後から、ココがそっとパックの拳を両手で包んだ。
ふっとパックの両肩からわずかに力が抜けた。
「……」
「……僕は、何もできない……」
パックの肩が震えた。
ココは包んだパックの拳を、強く握った。
「——そんな事ないわ」
「あなたは守ったじゃない」
パックはココの方を向いた。
「……」
パックの瞳が揺らいだ。
そして、猪型魔族の音が静かに止まった。
「……」
パックは猪型魔族に近づき、膝をついた。
手のひらでそっと、猪型魔族の瞼を閉じた。
ココはパックの脇腹を見た。
破けた上着が赤黒く染まっていた。
パックの背中を見て、震えた。
胸が苦しくなった。
両手が自然と前に出た。
一歩。
また一歩。
ココは途中で止まった。
前に出した手を握りしめ、瞼を固く閉じた。
もう、止められなかった。
ココはパックの背中を包んだ。
パックは一瞬強張ったが、しだいに力が抜けていった。
そして、ココの手に自分の手を重ねた。
微かな風が二人を撫でた。
葉の揺れる音だけが聞こえてきた。
パックが動くと同時に、ココも立ち上がった。
二人は無意識のうちに手を繋いでいた。
二人の音は同期し、共鳴していた。
——アーラの救護所
「……」
アーラはそれぞれの一連の音を捉えていた。
「……終わったな」
エルザはアーラを見た。
「パックさんは!?」
「無事だ」
「……全員な」
「お前の子どもたちもだ」
アーラは目を細めた。
「……良かった……」
エルザは胸の前で両手を握った。
「……」
アーラはパックたちの方を向いた。
(……小僧……大したやつだ……精霊たちの支援があったとはいえ……な)
(……俺は、小僧を過小評価しているのかもしれんな……)
——猪型魔族の戦場
パックは捜査員たちがこちらを見ていないことを確認した。
蛇型魔族が隠れる茂みに向かって低い声で言った。
「……僕が良いって言うまで、出てこないで……」
「……」
「……分かった」
蛇型魔族は茂みの中に潜んだ。
ココは猪型魔族が息絶えたのを捜査員たちへと告げた。
「……」
「……終わった、んですね……」
捜査員二人は顔を見合わせ、深くため息をついた。
「……ココ様はこの後、どうするおつもりですか?」
「……」
ココはパックの方を向いた。
「……彼と話があるの……それが済んだら屋敷に戻るわ」
「……そうですか」
「我々も、一旦戻ります」
「私が近くの街道まで、馬車を呼んでくるわ」
「あなた達は安静にしてて」
ココは愛馬の待つ場所へと向かおうとした。
捜査員たちは顔を見合わせた。
「——ココ様、実は……我々は“魔族の骨”の捜査で来ていました」
「——!?」
ココは足を止めた。
「証拠の“骨”は向こうの茂みにあります」
「それを回収したいので、手伝っていただけませんか?」
捜査員は痛みを堪え“骨”を回収するため何とか立ち上がった。
ココはゆっくりと振り返った。
「……分かったわ」
(デズモンド……もう証拠を押さえたのね……流石だわ)
「肩を貸すわ」
ココは捜査員の腕を肩に担いだ。
「あそこです」
捜査員は茂みを指差した。
捜査員は声を低くした。
「ココ様、教団にはくれぐれも気をつけてください」
「……我々は、教団が魔族の骨を村に仕込むのを現認しました」
「——!?」
ココは目を見開いた。
「……分かったわ……忠告ありがとう……」
「証拠となる骨を持ち帰り、デズモンド様に報告します」




