第113話|ココ編【声っ!?】
——猪型魔族の鋭い牙が迫る。
“お節介な風”は突風をパックに浴びせた。
——音が止まる。
牙が、パックの脇腹を掠めた。
パックは吹き飛んだ。
服が裂け、赤い雫が宙を舞い——
そして、パックと同時に、大地に落ちた。
「——かはっ!」
「少年っ!?」
捜査員は苦痛に顔を歪ませながら叫んだ。
ハッとして、猪型魔族を見た。
猪型魔族の方にも異変が現れていた。
唾液を大量に流し、息を荒くしていた。
ブフーッ、ブフーッ……
視線を落とすと、足が紫色に変色し、大きく腫れていた。
「……なんだあれは……」
「ゲホッ、ゲホッ……」
パックが咳き込みながら起き上がった。
「——痛っ!……」
咄嗟に脇腹を押さえた手が、ぬるりと滑った。
「——っ!?」
手のひらを見ると、真っ赤に染まっていた。
ハッとして突き飛ばした捜査員を見た。
捜査員は猪型魔族を見ていた。
「——良かった」
パックも猪型魔族に視線を移した。
「……っ!……毒?」
ブフーッ、ブフーッ……
猪型魔族は荒い鼻息で、唾液を飛ばしながら、背中で息をしていた。
こちらを見ているが、突進してこない。
「今のうちに……痛っ……」
立ち上がろうとしたパックは、脇腹に痛みが走り、もう一度傷口を見た。
破けた服の隙間から、裂けた皮膚が見えた。
パックは下唇を噛んだ。
(……痛い……けど……皮膚だけっぽい……)
立ち上がり、足を踏ん張ってみた。
「——いける」
その時、真横の茂みから声が聞こえた。
「……僕の声は聞こえる?」
パックの肩が跳ねた。
「……誰?」
「やっぱり聞こえるんだね」
「ずっと見てたけど、あいつ狂ってるみたいだし……君、困ってるみたいだったから……」
「……余計な事、したかな……?」
「……余計な、こと……?」
パックは猪型魔族に視線を戻した。
「……毒を喰らわせたのは、僕なんだ」
「——!?」
「……君はさっきの蛇?」
「……蛇って何のことか分からないけど、噛んだのは僕だよ」
猪型魔族が蹄で地面を掻きだした。
「——!?」
パックはじゃりっと音を立てて腰を落とし、ナイフを構えた。
横目で捜査員を見た。
木の影でうずくまっていた。
(……あの場所なら、魔族からは死角……)
「——大丈夫か、人間!」
蜂たちが集まってきた。
「……すまねえ……引きつけてたつもりだったんだが……」
「……大丈夫、助けに来てくれてありがとう……傷は浅いよ」
「——で、どうする?」
「……うん……また注意を引いて欲しい……」
「……あの魔族を……止めなきゃ……」
パックは下唇を噛んだ。
“お節介な風”が木の葉を揺らした。
「……」
「……うん。風さんたちは攻撃出来ないもんね……」
「……僕が」
「止める」
——猪型魔族の体が沈んだ。
——ドッ!
「——!?」
だが、先ほどまでの勢いは失われていた。
蜂たちが、猪型魔族の目の前を塞いだ。
猪型魔族は、蜂たちに目もくれずに抜けてくる。
牙が迫る。
——キィィィン
鋭い金属音が森に響いた。
パックのナイフが光を反射した。
猪型魔族の牙の、先端部分が宙を舞い回転し、大地にポトリと落ちた。
「……」
パックは猪型魔族に向かってナイフを構え直した。
「——やっぱりこのナイフ……すごい」




