第111話|ココ編【……声が……】
「——っ!?」
捜査員は目の前で盾になった人物を見た。
まだ、少年だった。
「……」
「——早く立って」
捜査員はハッとした。
剣を握り直し、立ち上がった。
「……君は……村の子か?」
「……違う。来るよ」
パックはじゃりっと音を立てて腰を落とした。
「……同胞の……敵……」
「——!?」
パックは猪型魔族の声を聞き、ナイフを握り直した。
「……」
捜査員は、少年の先に視線を移した。
猪型魔族は砂塵が目に入り、顔を擦っていた。
もう一度剣を握り直し、喉を鳴らした。
「普通の猪じゃないよ」
「……分かってる。君こそ危ないから下がっていなさい」
捜査員は一瞬だけ少年を見て、猪型魔族に視線を戻した。
捜査員の剣先はまだ震えていた。
(……こいつ相手に、少年を守りながらなんて……無理だろ……)
すると、猪型魔族が頭を振って、こちらを見た。
「——っ」
パックと捜査員は同時に喉を鳴らした。
猪型魔族の体勢が沈んだ。
「来るっ!?」
猪型魔族が飛び出そうとした瞬間、再度突風が吹き荒れた。
砂塵が舞い上がる。
猪型魔族の突進が止まる。
——はずだった。
猪型魔族は一瞬怯むが、そのまま突進して来た。
「——!?」
パックと捜査員は、その一瞬の隙でかろうじて避けた。
猪型魔族は視界が不十分のまま走り抜けた。
そして、その先にあった泥で滑り、転倒した。
「——っ」
パックはナイフを構え、一気に間合いを詰めた。
「……助ける……」
「——!?」
猪型魔族の声が聞こえ、ためらった。
「……」
捜査員は剣を構えたまま、唖然としていた。
(……さっきの突風と、また……)
捜査員は目だけで少年を見た。
(……偶然か?……それとも……)
その時、倒れた猪型魔族が叫んだ。
ブヒィィィィ!!
もう一人の捜査員が猪型魔族に剣を突き立てた。
「……くっ」
パックは奥歯を噛み締めた。
(……止めることなんて……出来ない……)
「——何してる!チャンスだ!」
剣を突き立てた捜査員が叫んだ。
「——っ」
パックの近くにいた捜査員が駆け出した。
続けて剣を突き立てた。
ブヒィィィィ!
だが、捜査員は魔族との戦闘経験が無かった。
腹側から刺した捜査員が、倒れたままの猪型魔族に蹴られ、飛んだ。
「——ぐふっ!」
背後の木に打ち付けられた。
そのまま倒れ、うずくまった。
「……ごほっ、ごほっ……おえぇぇ……」
脇腹に激痛が走った。
「……ぐぅぅぅ……」
猪型魔族の背中側にいた捜査員が後ずさった。
「——ひっ……ひぃぃぃ……」
捜査員がパックを見て叫んだ。
「——君っ!……さっきのは風の魔法かっ!?……戦えるのかっ!?……」
「——!?」
パックは猪型魔族から視線を外さずに答えた。
「……魔法じゃない……」
「……戦えるかは……分からない……」
「……ごめんなさい」
パックは眉間に皺を寄せ、目を細めた。
「……」
「……ハハ……そうだよな……すまん……」
捜査員は肩を落とし、猪型魔族に視線を戻した。
すると、猪型魔族がもがきながら、再び立ち上がった。
「——っ」
捜査員は慌てて距離を取った。
そして、剣先を激しく揺らし、喉を鳴らした。
猪型魔族が倒れた捜査員を見た。
「——っ!?」
パックと捜査員の顔から血の気が引いた。
パックが駆け出すのと同時に、猪型魔族の体が沈む。
猪型魔族の後ろ足が地面を蹴った。




