第105話|ココ編【——っ!?】
再会の余韻を残したまま、ヘルは手のひらにじっとりと汗をかいていた。
ココとパックの少し後ろを、硬い足取りで歩いていた。
ココとパックはひと言も喋らなくなったヘルにちらちらと視線を向けた。
パックが小声でココに言う。
「……なんて説明したの?めちゃくちゃ怖がってない?」
ココが少しムッとする。
「……失礼ね、脅かしてなんかいないわ。あれが、普通の反応なの」
「……みんながあなたみたいなわけないでしょ、もう……」
パックはアーラを初めて見た時のことを思い出した。
(……たしかに……)
アーラは三人が近づいてくる音を捉えた。
ココとパックはいつもの音。
そして、その後ろを歩く人間の音を聞いて、溜め息をついた。
(……めちゃくちゃ怯えてるな……)
(……どうする……)
(……拳を合わせるやつはできないしな……)
(……考えても分からん……)
三人が戻ると、衝撃の光景が飛び込んできた。
驚いたのはココとヘルだった。
「——っ!?」
エルザがアーラにキスをしていた。
ココが立ち止まる。
わなわなと両手が震える。
「……あれは……何をしているの……」
パックがあっけらかんと答える。
「……何って、蜜を与えてるんだけど……」
ヘルもつぶやいた。
「……カオスかよ……」
ココがパックに激しく突っ込んだ。
「与え方よ!!」
パックが後ずさる。
「……え……あぁ、だって……エルザは、手でできないし……」
ココがパックの胸を人差し指で突く。
「あなたがスプーンでやれば良いじゃない」
パックの笑いが引きつる。
「……僕は色々忙しくて……水汲んできたりとか……」
ココが頭を抱えてしゃがみ込む。
「……チューするなら、私にしてほしかった……」
ヘルは目を見開いてココを見た。
(……そっち!?……)
気づくと、ヘルは恐怖が吹き飛んでいた。
ヘルは頭を掻いた。
「……何だこれ……何を見せられてんだ……俺は……」
「……ハハッ……」
ヘルはアーラを見た。
思わず、息を呑んだ。
(……でけぇ……)
(……だが、傷だらけじゃねぇか……)
(……魔族同士で戦ったのか……)
「……」
「……物資を運んでくるわ……パック、手伝ってくれ……」
ヘルとパックは馬車に戻った。
まずは、テントの設営だった。
テントを広げると、白地に赤の救護紋がデカデカと入っていた。
「……」
ココが黙る。
そしてヘルを見た。
「……目立つわね……他にないの?」
ヘルの笑いが引きつる。
「……ハハ……村に設営すると思ったんで……」
「……あ、軍用のやつが一つあったな……」
広げると迷彩柄だった。
全員が納得した。
ヘルは、ココの顔を潰さぬよう、最新の医療器材を仕入れていた。
その結果、魔族の救護には立派すぎる救護所が出来上がった。
ココは腰に手を添えた。
「……よし」
「……これで、しばらくは大丈夫ね」
ココはそう言うと、消毒液を取り出した。
ココはその薬を知っていた。
すごく、しみるやつだった。
「……」
緊張するココ。
アーラがココの音を捉えた。
「……待て」
「……それは大丈夫なやつなのか……」
「ちょっと待って」
パックがココを止めた。
「……アーラがそれは何だって、心配してる」
「……」
ココは少し黙ったあと、パックに説明した。
「……消毒液よ、ちょっとしみるわ……」
ココは配慮したつもりで言った。
パックが笑顔で訳す。
「……消毒するんだって。薬草みたいなものだよ。ちょっとだけしみるってさ」
「……」
アーラは納得したが、ココの音が普通じゃなかった。
「……」
ココは喉を鳴らした。
「……いくわよ……」
そして、瓶を傾ける。
アーラの息が荒くなる。
「……ちょっ……待て……やっぱり……やめ……」
——遅かった。
消毒液がアーラの傷口を洗い流す。
「——っ!?」
アーラは、声を殺して叫んだ。




