第104話|ココ編【……まったく】
ココはヘルに、厳重に口止めしていた。
パックの件はもちろん。
魔族の仲間の件も当然。
だが、それ以上にココが念を押したのは、自分がパックを“私の中の勇者”と口走った件だった。
ヘルは口元が緩むのを止められなかった。
(……パックのやろう……ココ様と“そういう仲”だったのかよ……)
(……うらやまけしからんな……)
隣でずっとニヤニヤしているヘルを横目に、ココは俯いて耳まで熱くしていた。
そうしているうちに、パックたちのいる場所が近づいてきた。
ココは先に事情を説明するため馬車を降り、パックたちの元へ向かった。
ヘルは両手を頭の後ろで組み、空を見上げた。
(……初めて会った時は、見すぼらしいガキだと思ったのによ……)
(……俺の人生、丸ごと変えられちまったな……)
———
アーラは横たわりながらも、索敵を続けていた。
反響音を捉える。
「……小僧、小娘が来る」
パックが顔を上げた。
「……それと、人間を一人、連れてきている……用心しろ……」
「……えっ」
パックは一瞬驚いたが、心当たりが一人だけいた。
パックの心臓がうるさくなっていく。
「……まさか……」
すると木々の奥からココの姿が見えた。
「——ココ!」
パックは思わず叫んでいた。
ココが手を振り、走ってくる。
「……誰を、連れてきたの……」
ココが笑顔になる。
「……アーラが気づいたの?さすがね」
「そうよ、パックも知ってる人」
「——!」
パックの手が震えた。
「……まさか……」
ココは口に手を添えた。
「……その、まさかかも……」
パックも釣られて笑顔になる。
「……ヘルだ、絶対ヘルだ」
ココは人差し指を立てた。
「……正解っ」
アーラが鼻を鳴らす。
パックの音を聞いて、警戒を解いた。
「……小僧、そいつは本当に“安全”なんだろうな?」
パックが振り返り、一瞬黙る。
「……」
「……大丈夫だと思う……多分……」
アーラがため息をつく。
「……なんだその間は……」
「……多分ってなんだ……全く」
「……俺が動けないの分かってるだろうに……」
徐々に独り言に変わっていく。
パックがココを見て肩をすくめる。
「……アーラ、最近小言が多くてさ……」
ココはそれを聞いて吹き出した。
「……とりあえず、ヘルを呼んでくるわ」
「あっ、うん……あ……僕も行く」
パックはココについて行った。
エルザはアーラを見た。
「……大変ですね……」
アーラもエルザを見た。
「……だろ?」
———
ヘルは寝転がって空を見上げていた。
遠くから懐かしい声で名を呼ばれた。
「——ヘル!」
「——!」
ヘルは飛び起きた。
紛れもなくパックだった。
「……あ……」
第一声で詰まる。
「——ヘル!」
パックが走ってくる。
笑いが込み上げた。
「——ハハッ」
ヘルは駆け寄り、パックの肩に手を回した。
「てめぇ……元気そうじゃねぇか……なんだあの手紙はよ……ったく」
「……それより、おめぇ……」
ココとの関係の話が喉まで出かかり、ハッとする。
恐る恐るココを見た。
やはり、こちらを睨んでいた。
ヘルは喉を鳴らしてから、拳でパックの頭をぐりぐりして誤魔化した。
「……元気そうだなおい……」
パックが笑う。
「それ、さっきも言ってた」
「……ヘルも元気そうで良かったよ」
パックはヘルの腕から首を抜いて、拳を出した。
ヘルは歯を見せて笑った。
「ハハッ」
コツン。
もう、拳を合わせた二人に気の利いた言葉は必要なかった。




