第103話|ココ編【……あれ?……私、今、なんて言った?】
———翌朝
空は白み始めていたが、日はまだ昇っていなかった。
「さ、出発しましょ」
「……急でごめんなさい……でも、あなたを信用しての依頼よ」
ヘルは頭を下げた。
「いえいえ、いつもありがとうございます」
「救護用品を被災した村に届けるなんて、光栄でございます」
ココは南の空を見た。
「……」
「……詳しい事情は、馬車で話すわ」
「……」
ヘルはココの横顔に、わずかな違和感を覚えた。
それでも、笑顔は崩さなかった。
王都を出て、人けがなくなると、ココは話し出した。
「……パックのところに行くのよ」
「——っ!?」
ヘルの顔から笑顔が消える。
「……あいつ、怪我したのか?無事なのか?」
ココの目が優しくなる。
「……だからあなたにお願いしたの……安心して、彼は無事よ」
「……」
「……怪我したのは、彼の仲間よ」
ヘルは溜め息をついた。
「……そう、ですか……」
「……ただね」
「……その仲間が問題なのよ……」
「……」
ココはヘルをじっと見た。
「……今までの、あなたを見ていて分かったの。あなたは“こっち側”だって」
ヘルは喉を鳴らした。
「……こっち側……とは……穏やかじゃないですね……」
ココは前を向いた。
「……あなた、魔族をどう思っているの?」
ヘルが鼻を鳴らす。
「……クソですね」
ココは目をつむる。
「……その常識を捨てて欲しいのよ」
「……」
ヘルの喉が詰まる。
以前から疑問に感じていたこと。
“魔族に寝返った人間の噂”
それがパックではないかという疑念。
ヘルは、手綱を持つ手が震えるのを感じた。
笑いが引きつってしまう。
「……へへ……怪我した仲間って……まさか、魔族だって言うんですかい?」
「……」
ココはヘルを見て、目を離さなかった。
「……」
ヘルの顔が青ざめる。
「……へへ、ご冗談が過ぎます……」
「……」
「……マジですか……」
「……」
「……んだよ……パックのやろう……言えよな……」
「……言えねぇか、こんなこと……」
「……」
「……俺が行って、いきなり食われたりしませんか?」
ココが笑う。
「……そうよね……そう思うのが普通……でも大丈夫」
「……その魔族は紛れもなく“味方”よ」
「村を襲った魔族と戦って、負傷したのよ」
「……」
ヘルは言葉を失った。
だが、目の前の“勇者”が嘘をついているとは思えなかった。
ココはまた前を向いた。
「……巻き込んでしまって、ごめんなさい……」
「……パックを知る人間で、彼の味方は……あなたしかいなかったから……」
「……」
ヘルはココの言葉を聞いて、震えた。
幼い頃夢見た“勇者”。
今、自分がその背中を支える者として、認められたような気分だった。
「……お役に立てるかどうか、分かりませんが……」
そして、商人としても、信用されたことを“誇り”に感じた。
「……頑張ります……」
ヘルは我ながら、幼稚な返事だったと思った。
ヘルはハッとする。
「……まさか、パックも“勇者様”なんですか?」
「……」
ココは顎に手を添えた。
「……勇者ではないけど……」
ココが笑顔になる。
「……私の中では“勇者”ね……」
そう言ってから、ココは数拍遅れて口元を押さえた。




