08話 伝説降臨
伝説の錬金術師、カヤマ・キチノスケ。
錬金術って言うのは魔素工学を応用したようなもの。
専門職すぎて俺にも詳しくはわからないが、魔素通信の確立や魔素結晶化なんて言うのもこの人が立ち上げたらしい。すげぇな。
で、どこにいるんだ?
ジファナ山脈に拠点があるって本当か?聞いたことも見たこともないぞ。
「あ、せんぱーーいっ!こっちっす!」
「?」
ルビィが先ほど通りかかった敷地を指さし、大きな声を上げる。
「表札あったっすよーー!」
な、なにぃーーーー!!
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……ほんとに表札がある。
しかし、かなり大きな家…いや工房も兼用してるのか。
「なんだ」
自分たちの背後からつぶやくような声が聞こえた。
それでも、その一言がこちらに重く突き刺さるような、存在感のある声だ。
「仕事の依頼か?」
振り向くと自分の背丈の倍以上にも見える大男が立っていた。
その巨躯に見合う武骨な顔つき。目つきがこえぇ。
「こんちわーーーすっ!モルセラ商会っす!カヤマさんっすか!?」
おそらく本人だろうが……ビックリするくらい物怖じしないな、ナイス!
「そうだ」
「仕事の依頼にきたっす!」
「断る」
「え、なんでっすか!?」
え、なんで!?
「野暮用でな。詳細は言えないが……まぁ、大事な仕事だ」
「楽しいっすか!?」
「ん?」
ん?
「その仕事楽しいっすか!?」
「うん、いや、まぁ……行き詰っている」
「うちの方が楽しい仕事っすよ!一緒にやらないっすか!?」
うん……うん?
カヤマと目が合う。ルビィの雰囲気に飲まれているのか、なんとも言えない表情。
だが、好都合だ。
「カヤマさん、初めまして。モルセラ商会会長を務めているモルガ・セラントです。お忙しい時分に申し訳ないのですが、一つお話だけでも聞いていただけないでしょうか?」
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「—————と言う訳です」
「……ふむ」
話を聞きカヤマが黙る。
そうだよなぁ、大それてるよなぁ、この提案。国家規模の魔鉱石構築なんてさすがに無理がある。
おいルビィ!よそ様のうちの引き出しを勝手に開けない!
「わかった」
「……はい?」
「その依頼、承諾しよう」
え……えぇーーーーーーー!?なんで?国家規模だぞ?簡単に承諾できるの?
どういう基準で決断してるの?天才がわからん!
「……失礼ながら、今回の提案はカヤマさんでも難易度の高いものと考えます。即答された理由を聞いてもよろしいでしょうか?」
「うん……いやなに、もともと俺はどんな依頼でも引き受けている。今回は少し大事な仕事を抱えててな。うん、そっちを優先してた。そのあとだったら引き受けるつもりではいた」
「では、今回の依頼はその仕事が終わった後…ということでしょうか?」
「いや、すぐに取り掛かる」
「……?それはなぜでしょうか?」
「……お前さんたちは、都市の魔素を改善するために、と言っていた。うん、俺も色々見てきてな、つくづく疑問に思っている。どれだけ優れた魔鉱石を錬金しても、それを使って生活の質が向上しても、この世界に魔素が存在する限り、魔素汚染や魔素浸食は常に考慮すべき災害だ」
「はい」
「大都市はまだマシだが、世界は広い。この魔素に対して俺たちが対抗できる算段なんてものは特に持ち合わせていないのさ」
「…………」
「それをあんたらはリアンナで世界を変えたいと言っている。うん……!一介の商人にしては語り口だが、良い気概を受け取った。最近の金や名声目当ての奴らにはない骨のある心意気だ」
骨のある心意気。俺、骨だけに……。やめろ!
「とりあえず話くらいは汲んでやる。今やってる案件はもう俺の手に負えんだろうし、正直やりたくもねぇし」
手に負えないって、そんなことあるのか?でも、本音だ。ありがたい!
「ありがとうございます!では母体と魔鉱石の規模など詳細を詰めていきましょう!」
「待て」
「?」
「報酬の話が先だ」
あ、まずい。
「この俺に依頼をする、ってことはそれ相応の物を用意してるんだろう?意気込みだけで仕事は成り立たねぇからな」
おおとっ。早くも詰み。用意してないなんて言えない。手持ちの金貨で足りるか?無理だろ!
「どんな魔鉱石を用意したんだ?」
ん?魔鉱石?
「お金じゃないっすか?」
「金なんて死んで持って帰れるわけじゃねぇ。俺が欲しいのは純度の高い魔鉱石。魔鉱石にはまだまだ未知の可能性が宿っているからなぁ。一錬金術師として創作と発見を怠りたくねぇのさ」
おぉ、職人の鏡だ。
「生憎、今日は挨拶だけでも来たもので手持ちの魔鉱石を持ってきていないのです。差し支えなければ、今回の報酬に見繕うほどの魔鉱石がどんなものか聞いてもよろしいでしょうか?」
「そうだなぁ……。天然物だ。人工魔鉱石は好きじゃねぇからな。その上、とりわけ頑丈なものがいい」
「わかりました。いくつか見繕ってからまた来訪します」
「よろしく頼む…えー」
「モル、で結構です」
「そうか、モル。……お前さん、その堅苦しい喋りはやめろ。似合ってねぇぞ」
う、交渉用の喋りは駄目だったか……ショックだ。だけど助かるな。
「わかった、遠慮はしないからな」
「らしくなったじゃねぇか。よぉし、次を楽しみにしてる」
そう言い残し、カヤマは工房で作業に移り、俺たちは街へ戻る。
魔鉱石、か。んー、やっぱりアレをやるしかないよなぁ。
「せんぱい、当てはあるんすか?」
「うーーーーん、無いことにはないが、やってみてだな。ひとまず、成果の報告だ」
その後、ミントに交渉結果を伝えると誇らしげに高笑いしながらこう語る。
~高笑いのミント~
「さすがはモルちゃん!あなたに不可能はないということね!」
~終~
いや、勝手に終わらせるな。今からそれをやるんだぞ!?
はぁ。
……確証はない。
ただ、確信をもって夜のジファナ山脈に向かうのであった…!
【和冬のどうでもいい人物紹介】
カヤマ・キチノスケの家には普通に表札があります。
存在しない人に仕事は任せられません。
家は仕事のために魔改造しています。
工房の独特な匂いが癖になるとマニアに大人気。




