06話 肉がうめぇんだ
中層へ戻った後、打ち上げと称し中層の高級レストランに向かった。
こいつは少しなら酒を飲めるんだが、今日に限っては「あのお水の感動を心に留めておきたいっす…!」と頑なに乾杯を拒んでいた。一個だけ自宅用に取っておけばよかったな。
俺はというもの、上層での商売というものの経験がほとんどなかったため今回の商売で柄にもなく浮かれている。
そう……
こんな高級ステーキを頼んでしまうほどにな!
目の前に置かれた霜降り肉。焼かれる前から艶やかな赤身を見て興奮したが、目の前の滴る肉汁と香ばしい燻製の香りに二人してよだれが止まらない。
「…ゴクッ。せ、せんぱい。こんなお高いお肉食っていいんすか…?」
「じゅる……今日は俺のおごりだ。遠慮はいらん。たらふく食うぞ!」
「では」
「「いただきまーーす!!」」
ルビィが勢いよくかじりつく。声にならない叫びをあげている。ナイフを使え。
とはいえ、テーブルマナーをひとしきり熟知している俺も、これにはかじりついた!
なんだぁ、これ。うんんんんんんめぇ。肉汁が次から次へと溢れてくる。重くない油、歯の裏側でバターのように蕩けるなめらかさ。
至福……。
「おかわりいいっすか?」
「はえぇな、おい」
味わって食べなさい。いいけど。
ルビィがおかわりを待つ間に俺は優雅に一口を噛みしめる。まじうまい。
「今日の利益ってどれくらいっすか?」
「今回は他が介入してないから、単純に売り上げから原価を差し引き金貨20枚ってところだ。かなり儲けたな」
「金貨20枚!金貨20枚…20枚…」
あ、夢の世界に飛んで行った。無理ないな。上層での金巡りはそういうもんだし。てかあの反応だともっと吹っ掛けてもよかったんじゃないか?もっと下調べすればよかった、反省。
「せんぱいはこれを元手にまたなんかやるつもりなんっすね!?」
「え」
あ、やべ何も考えてなかった。今肉がうめえから。うん、そういうこと。
「次はもう少し大きな魔鉱石を使うのがいいっすよね!」
「大きな?って言うと?」
「今流行りの空気調整設備っす!通称リアンナ!」
あー、あれか。エアコンのことか。
リアンナ。もともとは魔素濃度緩和のために使用されていた空調設備を家庭用に応用したもの。何が優れてるって人体の魔素濃度に呼応して空気の循環と温度設定を行ってくれるのだ。
内蔵されている調整石によって効果に差が出る。うちのは中層用の冷暖機能付きだ。いつもありがとう!
「リアンナ、うちでどっすか?」
「いいけど、当てはあるのか?」
「もう話は付けてあるっすよ!それはぁ…あ、肉来たっす!」
ルビィが一心に食べ続ける。おいおい、一番良いところ。しかも、え、お前商談の打ち合わせじゃなくて事後報告してる?話進んでんの?だれと?
「お待たせいたしました。食後のデザートです」
透明なグラスに美しい弧を描いた純白の氷菓子。俺は―――そこで理性を失った。
―—————————————
うんまかったーー。
最後のアイス、しゃりっと音を立てる歯ざわりでありながら下の奥で溶けていく淡い甘味。
ステーキを食べた重厚感をほんのり包んでくれるような優しさを感じた。締めはこうでなくちゃ。
結局ルビィの話は聞けなかった。
デザートも感激しすぎたのか、その話しかしてこなかった。忘れた?
ともあれ、ブツがブツだ。他の商会とも連携しないと。一応他にも候補は見繕っておくか。
そう考えながら、俺はジファナ山脈に向かっていた。
睡眠をとるつもりだったんだが、昨夜徹夜したにも関わらず眠気はゼロ。
おそらく骨化状態のときは人化の睡眠や食事を肩代わりしてくれているのか。便利すぎる体だ。
この恩恵を最大限利用して空いている時間は鉱脈付近の魔素吸収を行う。
ちょうど試したいこともあるしな。
(魔素感知)
対象物:石
濃度:2%
純度:低
色:緑
骨化で感知。この色って意味あるのか?絶対あるんだろうけど。わからない。
それともう一つ。おれは骨密度を強化している。鉱脈は長年魔素を吸収しているからこそ天然の魔鉱石が生まれている。もし鉱脈の奥に未開の魔鉱石が眠っているとしたら?そうでなくとも蓄積を帯びた魔素石はここよりもはるかに吸収がいいのでは?
ドリルのように爪を立て石を、削る!
ザクッザクッ!
おぉ、意外と掘れる。すごい、手に何の違和感もなく削れてる!
最初に試してないからどれくらいが素の力かわからないけどシャベルみたいに進めている。
このまま突き進むぞ!
―————————5時間後
ここらでいいか。
(魔素感知)
対象物:石
濃度:24%
純度:低
色:緑
………あがりすぎじゃね。
そもそも魔素が濃いと魔物が多くなるし人体にも危険。……まぁ、今の俺にあんまり関係ないか。
しかしちょっと進んだだけで―――いや、5時間は掘ったか。こんなに上がるのか。……吸収!
え?
あれ……?なんだ、また船酔い?
視界が何回転もしているみたいに、意識がゆらゆらする。徹夜の時と一緒だ。
原因は魔素濃度に対して俺の体が許容量を超えていたことか……!!
やばい、本当に意識を失いそうになる。意識失ったらどうなるんだ?倒れるだけならいいが、意識が戻らなかった場合の保証がまったくない!
一回でこれなのか?徹夜の時の分も含まれてんのか?
どうしたら………いや、賭けてみよう。方法は一つだ。
(現在の魔素量の50%を使用して骨強化実行!)
《保有魔素量の50%を骨強化に移行します》
《➡骨密度上昇》
《➡疲労軽減持続時間上昇》
《➡魔素感知上昇》
《➡魔素圧縮会得》
体が薄い光の気泡のようなものに包まれ、収束する。
次第に視点が定まってきて吐き気も収まってきた。読み通り、骨強化には蓄積魔素を許容する%の上限が含まれている。よかった、一時はどうなることかと……。
―——————最後、なに?
【和冬のどうでもいいお店紹介】
今回モルたちが訪れたのは中層高級料理店『グラン・ミレーユ』です。
肉料理と氷菓子が人気のお店。
商談が上手くいった商人たちが、財布の紐を緩めることで有名です。
ルビィの食べっぷりにお店の人もにっこりしています。




