21話 人と魔素
国王様からの問いに、体が硬直する。
この国で一番偉い人間が名指しで指名してくること、そして大戦、魔素と人……俺が今一番悩んでいることじゃないか!
なんて答えるのが正解なんだろう……と、一瞬でぐるぐる悩み少しずつ青ざめていく中、裾を引っ張られる感覚を覚えた。
―———ルビィだ。
こちらには一切目を合わせないが、力強く国王様を見て俺の裾を握ってる。
…………まず深呼吸だ。
すーーーはーーーっ。
どうせ悩んでいても、国王様が望む答えにたどり着くことなんてできないだろう。
自分の言葉で、自分の考えを伝えていこう。
「ご指名賜りました、モルセラ商会会長モルガ・セラントと申します」
「私は、先の大戦に一民兵として参加いたしました。多くの人間や魔物が死んでいく中で、私は自分の友人が目の前で死んでいく姿を目の当たりにしています」
「国に対して反発心は毛頭ありませんが、どんな理由があれ、戦争は嫌いです。親しい人たちがこの世から消えていく姿をこれ以上見たくありません」
シル姐、カヤマ、ミント、そしてルビィが目を据えながら話を聞いている。
国王様も黙って聞いていた。
「大戦で得た魔素資源、物流はこの国、延いては世界にとって有益なものです」
「しかしこの国の下層や近隣諸国の現状を見れば、魔素は人にとってエネルギーであることと有害であることを切り離すことはできません」
「…………」
ここまで言って、俺は言葉に詰まった。
自分の言葉を振り返って、骨の俺の言葉を思い出した。
―——魔素は人の精神。
俺を含め、みんなが魔素をエネルギーにしている現状。
そして有害と言っている自身の愚かさに立ち止まる。
自分の言った言葉なのに、自分が一番人の心をないがしろにしているのではないか……と。
「……」
「だからこそ」
決めろ。軸をぶらすな。心を強く持て。
「私は今以上に魔素を使い、魔素によって人の生活をより良いものにしていくことが、今後の人間社会が豊かになる一番の共存方法だと考えます」
―————言い切った。
魔素が人の精神であること。
俺はそれを思い、吸収をためらっていた。
でも、資源として見ている俺も確かに存在している。
魔素を切り離すことはできない。
だからこそ、多くの人のために魔素を使っていくことが今後の展望になると……今はそう思う。
話が終わったのを察し、国王様がゆっくりと口を開く。
「魔素を使うこと自体が、人体に有害であると仮定するなら、その考えはいささか危ういのではないか?」
「……現時点で魔素を消費している以上、これ以上の酷使をさせないために新たな技術革新を行っていく必要があり、そのための魔素が必要になります」
「……それでまた、大戦が起こることになってもか?」
—————ドクンッ。
大戦の記憶が蘇りそうになる。
嫌だ、もう、あの出来事は――――。
「それは嫌っす!!」
ルビィ!??
一斉に、俺含め背後のルビィに注目が集まる。
見ると、むすっと眉間に皺を寄せていた。
「戦争は嫌っす!せんぱい、さっき言ってたっすよ!話聞かなかったんすか!?」
おいおいおい、やめろやめろ、不敬だぞ、処される!
怒りと言うより、正しさを押し通すような、まっすぐな声色。
さっきと別な意味で青ざめていく俺に目もくれず、ルビィが止まらない。
「意地悪な質問っす!戦争が嫌なら協力すればいいっす!王様はそんなこともできないっすか!!」
おーーーーー、これは。あっ、やったな。
俺が目を閉じかけながら覚悟を決めると、国王様は目を見開いて、声を上げる。
「ハハハハハッ!」
玉座に大きな声が響く。先ほどの重厚な声に軽やかさが加わった。
「確かに的を射ている。協力するに越したことはない」
「そうっす!」
「これは王の領分だ。失敬」
えーーー、なんで丸く収まってるの??
俺の仰天顔をよそに、してやったりなルビィ。ちょっと、おまえすごいな。
「モルガ・セラント」
国王様から一瞥あり、俺は「はい」と応じる。空気が変わる。
「貴殿らの心の内、しかと聞き入れた」
「先だって、文官やミントからの報告も相まって、錬金術師カヤマ殿を引き入れた人物がどれだけの御人か試したくなった」
高らかに笑っている。え、そんな理由?
「次いでは、国力向上におけるリアンナの政策、国の代表として感謝申し上げる」
「貴公らには、報酬を用意してある。不足があれば申し立てよ」
そう言い、文官殿が読み上げる。
国王様……意外と話が通じる方なのか?
ルビィのこと、もっと怒られると思った。
師匠には白金貨1枚と金貨200枚だそうだ。
白金貨なんて人生で見たことがなかったので、通り過ぎるものをまじまじと見る。
一生、お金に困らないぞ……!
カヤマは金貨はいらん、と突っぱねていた。
その代わりに魔鉱石を見繕ってほしいと要望。国に対してそれが言えるのがすごいのよ。
ミントは金貨150枚と身分証のアップグレード。
商会組合における身分証のアップグレードは上層や政府との取引も増えていくことになる。いいなぁ。
「モルセラ商会モルガ・セラント会長」
「はい!」
金銭感覚が狂いそうになるが、ここまで聞いたことのない額の金貨が飛び交っている。
期待してしまうぞ!
「まずは、この度の発案及びカヤマ殿の勧誘、これらをもって金貨200枚を贈呈する」
ようっっっし!!
ルビィと二人で小さくガッツポーズ!やった!
「次いで、シルベルトカンパニーその他商会との連携における功績から身分証のアップグレードを行います」
おぉーー、地味にうれしい。商売の幅が広がるな。
「そして、最後に」
ん、まだあるの?
「それらを踏まえ、第169回キースウェン祭開催における最高責任者に命ずる」
―——は?
「期待しているぞ。モルガ・セラント」
―———————お?…………えぇーーーーーーーーーっ!?
【和冬のどうでもいい国王心理】
「それができたら苦労しない」「結局そこを目指すしかない」
国家運営責任者として、忸怩たる決意を表するのは並大抵ではないのです。
しかし、童心というものは心を露わにしてくれるものですね。
何が最善か、民と世界に問い続け、険しい頂に立たされているそのお立場に敬意を表します。
ちなみにルビィ(とモル)はこの後、文官たちにしっかり怒られています。
幅広い見識をお持ちの王様で良かったね。




