20話 国王陛下とご対面
「身分証の提示をお願いします」
慌ただしい日々が過ぎ、国王様との謁見当日を迎えた。
俺はというと、提供するリアンナの性能や規模の全容をとにかく叩き込んだ。
商品説明ができない商人がどこにいる、という話だ。
配置や段取りといった今後の展望は色々あるがその辺りは師匠がすでに手を回していたらしく、本当にお呼ばれしました感覚でお城の前にいる。
そりゃ、そうか。
これだけの規模で動いて、先方からお断りしますなんて言われたら大損もいいところだ。
ミントの提案で動き出す直後に、入念で迅速な打ち合わせを実行しているところは流石の段取りで見習いたいと素直に思う。
それだけのコネ、俺にはないが……!
「お城初めてすっ!」
「俺も記憶にあるような、うん、ないような……」
カヤマもないのか。だとしたら意外だな。……本当にないのか?
「私は何度か来てますわよ」
「私も打ち合わせで何度か」
ミントと師匠は来てるのか。当然と言えば当然か。
それにしても師匠。お城に着いたので腕組んで歩くのはもうやめましょうね。
はい、離れて。
嫌っ!という抵抗する師匠をなんとか……なんとかっ!振りほどき、身分証と今回お披露目する小型試作モデル機リアンナSS-TWの点検を行う。
持ち込むリアンナの製造過程やら中身やら色々調べられた後に、改めて俺たちの荷物検査などを行う。
お城に入るのも、物を持ち込むのも一苦労だ。
「問題なし。通行を許可する」
近くから見ても華美な建物というわけではない。
だけど、堅牢で重厚な城門を通り抜けると、空気が変わった。
石畳は隅々まで磨き上げられ、視界に入る庭木も一本たりとも乱れがない。
行き交う兵士や使用人たちも慌ただしく動いているはずなのに、不思議と騒がしさを感じなかった。
誰もが自分の役割を理解し、決められた場所で決められた仕事をしている。
そんな空気が自然と伝わってくる。
「機械みたいっすね!!」
声がデカい!!
「うむ、一糸乱れぬ動きだ」
こっちは感心してる。
城内へ案内する兵士さんの肩が僅かに震えた気がした。
「失礼。こちらです」
聞こえてるじゃねぇか。邪魔してすみません。
長い廊下を進む。
壁には歴代国王と思われる肖像画や見たこともない景色の絵画が飾られていた。
どれも高そうだ。
というか、下手したら一枚で俺の店が潰れる価格だろう。
「あの壺に何が入ってるっすか?」
いや、どうみても飾りだろうよ。兵士さん無視してやってくれ。
「あの壺には、先祖の霊が奉られています。国王様直系の霊が宿る場所と言い伝えられております」
「「えっ!?」」
俺とルビィが場内にそぐわない声を上げる。
「そんな代物をお城の通り道において大丈夫ですの……?」
ミントが珍しくまともなことを言う。
「いえ、失敬。これはツアー客に対する冗談です。あの壺は飾りですよ」
場を和ませようと思いまして、と伝える兵士。
ちょっと!びっくりするじゃない!
と思いつつ、少しだけ俺の緊張も解けた気がした。兵士さんやさしい。
その後はあれはいくらだ、これは高そうなど、馬鹿話をしているうちに、兵士さんが足を止めた。
目の前には一際大きな扉。
金属の装飾が施されたそれは、今まで通ってきたどの扉よりも重厚だった。
「国王陛下がお待ちです」
兵士さんが静かに告げる。
和らいだ雰囲気も、帯を締めるように引き締まる。
……さて。
商人人生最大の商談相手。
まさか国王様相手に商品説明をする日が来るとはな。
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扉の向こうは想像以上に広かった。
高い天井を支える白い石柱が等間隔に並び、その中央を赤い絨毯が真っ直ぐ奥へ伸びている。
絨毯の先には数段高くなった壇上があり、その中心に玉座が据えられていた。
左右には甲冑姿の近衛兵。
玉座の周囲には文官らしき人物や騎士らしき人物が整列している。
想像よりもきらびやかな感じじゃないな……むしろ、会議室に近いような、いや失礼だ。
その中心――玉座に座るのが、ラバル・ディゴルフェスト・キースウェン第17代国王陛下だ。
「シルベルトカンパニー代表、シルヴィア・シルベルト様」
「錬金術師、カヤマ・キチノスケ様」
「ミンティア商会会長、ミント・ミンティア様」
「モルセラ商会会長、モルガ・セラント様」
順に名前が呼ばれていく。
師匠がお辞儀をしているので、それに倣う。
どんな内容になるのか見当もつかないが、この重厚な空気感に圧迫されそうだ。
「それでは、兼ねてよりシルヴィア・シルベルト殿からご検討いただいた新型モデル機リアンナSS-TWに関しての制作工程とその実績を発表してもらう。シルヴィア殿、前へ」
玉座から見て右に佇む文官がそう告げた。
師匠は臆することなく、顔を上げて答えた。
「ご指名を賜りましたので僭越ながらリアンナに関してご報告とご紹介を申し上げます」
「まずは今事業において、国王陛下並びにその臣下の皆様方に多大なるご配慮とご尽力を頂けましたこと、心から御礼申し上げます」
おぉ、慣れてる!
「先だって文官の皆様にはお伝えすることができましたが、この度の新型リアンナは国を挙げての大事業となります」
「先の大戦での禍根はわが国でも未だ癒えておらず、各要所で魔素による被害、及び人的災害は今後下層のみに留まりません」
「観測センターからの定例監査では、数年先に中層まで被害が拡大することが予測されております」
「そこで、ミント並びにモルガの発案を持ってカヤマ殿の協力の下、新たな魔鉱石、通称再生魔鉱石を軸に魔素を吸収しながら、新たな空気を排出する半永久循環型のリアンナの作成にこの度成功いたしました」
「実験結果では、再生石の消耗や損失はなく、体調に異を唱える人間もおりません」
「此度は、試作型としてこの城を覆う規模のリアンナをご用意しました。是非お使いいただければと存じます」
そう言って、師匠が深く頭を下げる。
完璧すぎて言葉が出ない。さすがです!
「シルヴィア・シルベルト殿よりお言葉を頂戴いたしました」
文官が淡々と答える。
なんだが蚊帳の外ってわけじゃないが、つつがなく終わりそうだ。
師匠があまりにすごかったので、少し気が緩んでしまう。
「続いてラバル・ディゴルフェスト・キースウェン国王陛下よりお言葉を申し上げます」
おっと。
てっきりこのまま文官様とのやり取りが続くと思っていたのに。
少しだけ胃がキュッとなる。
玉座の上から視線が降りてくる。
国王陛下はしばらく無言だった。
師匠を見る。
ミントを見る。
カヤマを見る。
そして――
「……モルガ・セラント」
「…………はい?」
え、呼ばれた?
国王様に?師匠じゃなくて?
「貴殿は先の大戦をどう見る?」
「そしてこの先の、魔素と人との問題をどう捉えている?」
「答えよ」
え、えぇーーーーーーーーー!?
【和冬のどうでもいい王城知識】
王様のお城と聞くと金ピカなイメージがありますが、実際に国を動かす場所なら会議室や執務室の方が重要だったりします。
どれだけ立派な玉座があっても予算会議からは逃げられません。
文官たちが今日も頭を悩ませています。お疲れ様です。




