19話 優雅に食べたい
うーーーーん。
迷う。
鉱脈内。誰も到達できないであろう地下を爪ドリルで掘り進む。
これまでたくさんの圧縮と吸収を行ってきた。
魔素は人の―――――
あの出来事以降、頭からこの言葉が離れない。
実際に、そうであってしまっているなら……考えるだけであの後何度か嘔吐した。
合理的に考えたら、もうこの世にいない人のことを気にする必要はないのかもしれない。
だけど、俺にも倫理があって、そう簡単に人だったものを喰らうなんて決断できない。
骨として生きていくだけなら、魔素を吸収しなくてもいい。
だけど、人として生きていくには、魔素を吸収しなければいけない。
……………。
うーーーーーーーーん。
さっきから、ずっとこんな調子で悩んでいた。
比較的日課になっていた、夜間魔素吸収作業だったが俺は行動できずにいる。
倫理と現状の狭間に揺られている。魔素……うーーーん。
とっかかりが見えない俺は、爪ドリルを止めていた。
圧縮した天然魔鉱石をじっと眺めながら、座り込んでいる。
……無機物にも魔素は宿る。
人の精神だけが魔素じゃない、ってなことを言ってた。
元々は石だったこれは、どこから魔素を宿してたのだろう?
大気中の魔素が凝縮したってのが通説だけど、今度は大気中の魔素ってなんだ?って話になる。
…………。
うん。
やめよう。
もしも、人間が死んで魂が魔素化しているなら大気に溶け込んでいる可能性が高いと思う。
それらが、この魔鉱石に宿っているなら、おれは人を――死人を喰らっていることになる。
誰かも知らないが、人の尊厳を踏みにじっていくわけにはいかない。
これまで喰らった皆さん、ごめんなさい。
その場で深く頭を下げると同時に、天然魔鉱石を脇に置く。
これからは無暗に魔素を吸収出来ない。
けど、魔素を吸収しないと俺は人間になれない。
残りの保有時間も限られている。代替案を見つけていかなければ……!
はぁ。
せめて人か、そうでないか認識できたらいいんだけどなぁ。
この世界に使われている魔素の真相。
俺の骨が言ってることだから、必ずしも正しいわけではないのだと思う。
でも……もしかすると、仮定の事実を鵜吞みにした時が怖い。
どうしても必要になっている魔素を、今後俺はどう向き合っていけばいいのか。
すっーーーーぅ、はぁーー。
どうしよう。
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「あなた、顔がしょぼくれていらして?」
む。
「そんなこと、ない」
ミントとの会合。
正直、俺たちが企画発案とはいえシルベルトカンパニーとその子会社、そしてカヤマが動き始めた以上そっちに任せた方が顧客信用度が高いのでは?と思うのだが、そうもいかない。
「いいえ、見ればわかりますこと。覇気というものがありませんわ」
元々持ってないと思うが……。そんなことない!
「でも、気持ちはわかりますわ」
ん?
「いわゆる元気がないという状態ですわね。これからのことを考えると私も少々気落ちいたしますの」
ミントが?そんなことあるか、と思い優雅に紅茶を飲む。うーん、スパイシー。
「何と言っても私たちの商品を、国王にお届けするのですから」
紅茶を吹き出す。
ルビィが咄嗟に「きたないっす!」と指摘する。
あなたも口の周りのホイップクリームを拭いなさい!俺はテーブルを拭きながら答える。
「え……国王?国王!?」
「はい。なにか不備がございまして?」
「あ、いや、えっ……国王?」
さっきから馬鹿丸出しである。
「馬鹿の一つ覚えに言わないでくださいまし」
……おっしゃる通りで。
「一番最初に私は言いましたわよ。本来は大臣たちに伝えるつもりでしたが、予想以上の成果が出てきたので国王御自らご対面なさってお話を聴きたいとおっしゃっていましたわ」
「……聞いてないぞ」
「今、伝えましたわ」
なんだこいつ。
落ち着きを取り戻すために、紅茶を……。
いや、やめよう。汚いし。
新しい紅茶を店員さんに注文。
便乗してルビィも注文した。「モロッコシューシューふたつっす!」と大きな声で。
え……いや、うーーーーん。
悩んだ末、俺も追加でもう一つ、と伝える。
生地がフワフワでうまいんだよなぁ。
「あくまで、今回の主案は私たちミンティア及びモルセラ商会にある、という意見は商会組合からもお墨がついていますわ。だからこそ、私たちが国王への謁見とご報告に上がりますの」
武者震いがしますわ!と言い、手元のフロマー・リ・ボムをフォークで区切って優雅に頬張る。
ルビィはテーブルに届いたモロッコシューシューを、ミントを見習って優雅に頬張ろうとする。
モロッコシューシューはクリームの量が格段に多いため、勢いよくお皿にこぼれる。あーあー。
俺も届いたシューを頬張る。
ヴァニラ風味のカスタードと生クリームの2つが重なって、幸せな甘味を味わう。
あーーー、幸せ。そして当然のように、俺もお皿にこぼした。
優雅に口を拭いながら、紅茶を挟み、落ち着きを整えた俺は答えた。
「えっ、俺も行くの?」
「無論ですわ」
すでにミントの中では決定事項らしい。
ということは、商会全体、ひいては謁見の段取りも整えてあるということである。
国王……王様に会うの?
一商人、いや一庶民が?
この国の一番偉い人に会うなんて、そんなことあるの?生きてて起こるイベントなの?
ミントは普通なのか?武者震いだけ?どんな胆力だ!?
お、俺……あ、謁見用の服とか買わないといけないのかな?いつまでに……どうすれば……。
だ、だいじょうぶか――――――――????
俺は、混乱の中でシューを頬張る。
糖分が取れて頭が働いたのか、余計にいらない考え事がはかどった。
その後、ミントから「しっかりなさい」とお叱りを受け、今後の段取りを決めていく。
本当に大丈夫なのか???ミント!
【和冬のどうでもいい人生知識】
どれだけ自身がセンチメンタルになろうと、仕事や学校はやってきます。
自分のことを自分ごとに考えてくれる他人はほとんどいません。
他人に期待しすぎず、でも伺いすぎずに、目の前と向き合っていくしかないのかもしれませんね。
ちなみに今回のモルの葛藤は、18話「伝説の錬金術」で“数日後”と飛んでいた間のお話です。
モルは裏でずっと「魔素ってなんなんだ……」と悩んでいました。
なお、悩んだ結果うーーーーーーーーんとなって、国王との謁見です。
あんた、すごいね。




