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Boneborn~魔素を喰らい、世界を知る~  作者: 和冬陣


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18話 伝説の錬金術


魔鉱石の錬金を行うのは、あれから数日後のことだった。

俺の感知はよほど群を抜いて精度が高かったらしく、カヤマの分析の上をいく出来だったらしい。

驚きと同時に、悔しがるカヤマの表情はけっこう忘れられない。

伝説なんて言われているが、仕事人や職人という呼び名の方が余程しっくりくるな。

素材の選定も分析も終わり、いよいよここからが本番だ。

錬金。

名前だけなら何度か聞いているが、鍛冶みたいに叩くのかな?魔鉱石を。

具体的なことは知らないが、今日は伝説と言わしめたカヤマの技を拝見できる。楽しみだ。


「こんちゃーーーーすっ!」

「来たか」

扉を開けた瞬間、熱気が顔を撫でる。

金属と薬品の匂いが立ち上る。焦げたような、鼻の奥が少し痺れるような匂い。

配管やポンプがずらりと並び、中には天井を突き破るんじゃないかって物まである。

細い管や配線が幾重にも取りついて、中心に抽出路の最終出口と思われる透明な箱があった。

あそこで出来上がるのかな?

まったく訳の分からない器具たちが異様な光景で立ち並んでいるのに、不規則な統一感がある。

俺たちがキョロキョロしてると、カヤマが一言。

「始めるぞ」

「はいっす!」

「……絶対触るなよ」

「……はいっす!」

ルビィに一言。わかるぞ。入った瞬間、うずうずしてたもんな。

俺も軽く釘を刺して、作業台に視線を戻す。

俺とルビィは黙って作業の様子を眺めた。


「まずは精製だ」

そう言い、天然魔鉱石を幾つも投入する。

透明な溶液に魔鉱石が沈められる。

少し時間が経つと、繋がれた配管の中を色のついた煙のようなものがゆっくりと移動していった。

青、緑、様々な色が流れている。……これって魔素?

あ、俺が見えるから魔素だってわかってるのか?普通の人色とかわかるのかな?

魔素が、糸のように魔鉱石から剝がれて、色を薄くする。


「次、流路を組む」

そう言って、カヤマは壁際から細長い金属板を何枚も取り出す。

板の表面には、溝が刻まれていた。

「……配管?」

「違う」

即答。

「魔道回路だ」

机に並べられた金属板を、慣れた手つきで次々と組み立てていく。

組み合わせるたびに、細い管が繋がり、複雑な模様ができていった。

川……?

そんな言葉が浮かんだ。

あ、いや、道路っぽいな。

ぐちゃぐちゃしてるように見えて、規則性があるというか。

「魔素は流れ方に癖が出る」

工具で固定しながらカヤマが言う。

「水と同じだ。細い場所を急に広げれば乱れる。曲げすぎれば淀む。相性の悪い魔素同士はぶつかる」

やっぱり川?……いや、工学だな。

俺が想像してた錬金術と違う。

もっとこう、光って「ボワァ!」ってなるやつかと。

俺が思っていたより、工学や力学に近いんだな。


「次、流路を固定する」

組み上げた回路を前に、カヤマは工具箱を開いた。

中には見たこともない器具が並んでいる。

細い棒。先端が輪になったもの。妙に平たい金槌。針みたいな工具。

医療器具みたいだ。あれで叩くの?

「固定って叩くのか?」

「微調整だ」

眉間に皺を寄せて、目を細めるカヤマ。

全体を隅々見て回った後に、今度は金属板の継ぎ目に細い棒を差し込む。

カチ。

……今、音が鳴った?カヤマがほんの少し押しこんだように見えた。

すると――

ギィ……

金属同士が僅かに動いた。

え?

「……動いた?」

「〇・二」

「は?」

「〇・二ミリ」

数字を言われても。

カヤマは気にせず続ける。

カチ。

ギィ……

カチ。

ギィ……

そのたびに溝の位置が少しずつ変わっていく。

ぱっと見、違いがわからない。

だが――

「……あ」

青い魔素の流れが変わった。

さっきまで壁際にぶつかっていた流れが、滑るように中央へ集まっていく。

「流れた……?」

「当たり前だ」

カヤマは工具を置いた。

「魔素は、生き物」

「狭すぎても駄目。広すぎても駄目」

「速すぎても、遅すぎても駄目」

「通り道を作るのが、錬金師の仕事だ」

言葉少なくとも、伝えてくれた。神経を張り巡らせているのが分かる。

こんな作業に立ち会ってっていいのか?俺たち絶対、邪魔だろう。ルビィが花提灯作ってるぞ。

回路をつなぎ、最後の管を固定し、透明な箱へと移動させた。

「流路……確認、乱れ無し」

カヤマが大きく息を吐いた。

それまで動き続けていた手が止まる。

工房の空気が、一瞬だけ静かになった気がした。

俺も思わず息を止める。


カヤマが壁際に設置された大きなレバーへ向かう。

いや、そんなものあったのか?

「圧縮開始」

次の瞬間。

ブゥゥゥゥゥン……!

低く重い音が工房全体に響いた。

床や棚が微かに震える。壁際の工具がカタカタと音を立てる。

配管がガタガタと揺れ、透明な管の中を流れていた色付きの煙が一斉に加速した。

「うわっ!?」

思わず声が漏れた。ルビィの花提灯は衝撃で弾ける!

巨大生物が目を覚まして、目前に存在するような圧迫感……!空気が、重い!

中央の装置に並ぶ計器の針がゆっくり上がっていく。

一〇。

二〇。

三〇。

カヤマの目線は一点も逸れない。

計器。流路。配管。計器———。

目線の移動は確認か――いや、そうじゃない。

迷いがない。

確認してるんじゃなくて、確定を見極めてるのか!

「———圧力二十八維持」

「———左流路、微減」

「———第三配管……問題なし」

独り言みたいに呟きながら、工具を手に取る。

カチ。

ギィ……

ほんの少し。

ほんの少しだけ位置を動かす。

計器の針が、ぴたりと止まった。

「…………」

言葉が出ない。この、伝説と言われる職人の仕事を間近で見れて、俺は子供みたいに高揚していた。

そんな俺をよそに、カヤマはすぐに振り返らない。

荒い呼吸のまま、もう一度流路を確認する。

計器。配管。中央装置。最後に出来上がった産物に視線を落とす。

魔素の色が静かに収束していくのが目に留まる。

さっきまで暴れていた流れが止まった。

そして、心臓みたいに一度だけ脈打った――。

目を閉じて、カヤマは大きく息を吐いた。

「終わったぞ」

掠れた声でカヤマが漏らす。

かなり消耗しているのがわかる。ただ、その表情はやり切った男の顔だった。


工房に響いていた低音が、ようやく止まる。

心なしか、高揚した気持ちもどこか静まりを見せていった。

あぁ、あれが―――。

今回の商売の要、国を覆う大規模装置の中核。

中央で鈍く光る産物――リアンナの再生石の完成だ!







【和冬のどうでもいい錬金知識】

錬金術と聞くと、光って爆発して「完成だ!」みたいなものを想像しがちですが、本作の錬金はかなり工学寄りです。

魔素の流れを整え、通り道を作り、ほんの少しずつ歪みを直して配分を調合していきます。

つまり派手な奇跡ではなく、地味な調整の積み重ねです。

カヤマは伝説の錬金術師ですが、本人のやっていることは限りなく職人です。

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