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Boneborn~魔素を喰らい、世界を知る~  作者: 和冬陣


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17/23

17話 爆散


どう……どうって……。


「どうしたらいいんだ?」

振り返って考えても、答えなんて出ない。

仮に魔素が、人間の精神だったら俺は人の精神を喰って人間になってるってこと……だよな?

……だめだ、今は考えるな。

喉と肺の途中まで流動しかけた嘔吐感を鎮める。

背後に誰かがいるような冷や汗が止まらない。

考えないようにしても、同じ考えが浮かんでくる。

俺は―――――俺は、人を喰っていた?


『どうしたらいいのかわからないくらい、お前はまだ何も知らない』


「……」


『まずは己の在り方を見直せ』


「在り方……」


『……時間だ』


「時間?」


言った瞬間、意識が反転した。なにかが揺さぶられてる。

骨の俺が遠くなる。

俺どうしたらいいんだよ。くそぉ。

そして、意識が戻る。



―—————————



「せんぱあーーーーーーい!!!」

―—瞼を開けようとする前にルビィの声が響く。

あれは……夢?にしてははっきり覚えてる。怖いくらい鮮烈だ。

「これはこっちで合ってるっすかーー?」

「いや、ここはこうじゃないか?」

カヤマも……ん?なにやってるんだ?


目を開けると、骨化の俺。

一つ一つの骨がばらばらに飛び散らかっており、ルビィとカヤマが組み立てていた。

「せんぱい!起きたっすか!?」

え、なにこれ?

頭だけを動かしてカクカクっと答える。よかったすー!と言いながらまた作業に戻るルビィ。

…………え、なんだこの惨状。

「もしお前さんがこのまま人間に戻った時に、散らばった骨の状態で戻ってたら肉体も散らばった状態になってしまう可能性があるからな」

そこでちょっと待ってろ、と言うカヤマ。真顔で怖いことを言うな。

って、待てよ。だとしたら肉体の俺も無傷じゃない可能性があるのか?

骨が散らばってるなら、人間の時も同じ状態だとして……。

もし今、筋肉生成を始めたら……ひ、ひぃーーーーーー!

も、戻れ!俺の骨ーー!

「ルビィ、それはここじゃないか?」

「え、肋骨ってここっすよね?」

それは鎖骨!上!うーーーえ!

「腕と足の骨ってむずいっすね」

「……うん、見分けがつかんな」

逆だ!ぎゃく!左右も上下も逆!

俺は言葉を発せない分、カクカクと頭蓋骨を動かしている。

何もできない……くやしい!

「……せんぱいがなんか言ってるっす!」

「……場所が違うみたいだな。もう一度おさらいしてみよう」

そんなこんなで、俺の必死のジェスチャーが伝わり―――日が暮れる頃、骨、完成。


―—————————


俺は、大きく深呼吸をした。

正確に言えば、頭蓋だけカクっと動かしただけだが。

全ての骨の位置を確かめた。

俺の骨だ。間違えるわけない……!ほんとうに!?

妙な確証はあるが、それを信じていいかわからない。ただ、人間に戻れないのは困る。

やってやるぞ!

ルビィとカヤマが固唾を飲んで見守っている中、決意を固めた。

【筋肉生成実行!】


【筋肉生成を実行します】


光の収束が始まる。

いつものように、だがいつもよりも遅く感じる。緊張や焦りでそう見えてるだけなんだが。

光の収束は徐々に収まり、俺は――――人間に戻れた。


「———おぉ、もどった!戻った!」

「せんぱいが人になったっす!!」

「……うむ」

無事、人化成功。見た目からも、自分としても違和感はない。人間の俺だ。

あの数の骨を元に戻せたのは、二人のおかげだ。

「二人とも、ありがとう!」

感謝を伝える。ほんとうに爆散してなくてよかった…………なんで爆散したんだ????

「ルビィ……おまえ、俺とカヤマが話してる時なにしてたんだ?」

「ギクッす」

おいおい、やったな、なにした。キャインバルーンだけであんなになるのおかしいからな?市販の子供用のお菓子だぞ。

「えっとすね、キャインバルーンにダイスラを混ぜると大きくできるって聞いたんで」

「ここくらい広いところは街の中に無いっすから、どれくらいいけるかなーって試してみてたら」

「止め時が分からなくなったっす!」

「「——————」」

ダイダイスライム。キャインバルーンと合わせると外はカチカチ、離せばガッチガッチになると子供たちの間で話題を呼んだ代物。

当然、今回みたいなことが起きないようにキャインバルーン本体の数はかなり制限されて販売しているし、ダイスラは大人と一緒じゃないと買えない。

問題はルビィの行動もだが、これだけの大きさを作れちゃう量をカヤマが持ってたこと。

「……ぜんぶ食べたのか?」

「はいっす!好きなだけって言ってたっす!」

「…………」

落ち込んでる。もしかして、キャインバルーン好きなの?どんだけため込んでたの?

はぁ。

「ルビィ、今回で俺は死にかけてる。だから今後はこんなことが無いように周りに注意するんだぞ」

「……はいっす。二度としないっす」

珍しい。ちゃんと重みを理解してる。何事も限度があるからな。

「カヤマ、キャインバルーンは新しいのを買ってくるから許してやってくれ」

「……………………うむ」

間が長い。どうした。

「何かまずかったか?」


「…………限定のスマイルもぐもぐ味が」


―——あ、ごめん!

この後、二人で謝罪をした。

カヤマが珍しく落ち込みから立ち直れず、夜まで謝罪とキャインバルーンの限定品を購入してくる約束を交わしたりして、ようやく機嫌が直ってきた。

色々考えたいことはある。

でも、カヤマの機嫌を直すのが先だ。

終始下向いてたカヤマ。下手したらルビィより手が付けられない。

ルビィがこれだけ他人に謝っているのも珍しいな、と思いつつ俺たちは夕飯の買い出しに向かった。





【和冬のどうでもいい魔工学】

今回のダイダイスライムですが、元ネタはダイラタンシー(せん断増粘現象)です。

片栗粉+水を叩くと硬くなるアレですね。

ただしダイラタンシー単体だと、力が抜けたあと柔らかく戻るため「巨大硬化風船」にはなりません。

そのため本作ではスライム側に粘弾性保持を追加し、準架橋ゲル化による構造固定を起こしています。

なお、その結果として圧力勾配由来の周期的ガス輸送現象が発生し、最終的にモルが爆散しました。

和冬も何を言っているのかよくわかりませんが、報告書が上がってきたので読み上げます。

なお、和冬は文系です。詳しいことは聞かないでください。

途中雑になってますが、疲れています。拾わないでください。もう二度としない!




―———————————————————

シルベルトカンパニー 魔工学現象観測報告書


文書番号:SC-ME-R/DAI-017

分類:内部検証資料/事故解析対象

件名:キャインバルーン―ダイダイスライム複合系における異常膨張・構造固定および周期的ガス輸送現象について


概要

本報告書は、キャインバルーンおよびダイダイスライムを併用した複合魔工学系において発生した、異常膨張、構造硬化維持、周期的気体排出吸入、および最終的な骨格構造崩壊事象(以下、爆散事象)について、現象論・材料工学・複合流体力学的観点から解析を行ったものである。

初期観測時、本事象は単純な膨張過多による風船破裂事故と判断された。しかし観測記録、構造変化、応力履歴から、単独要因では説明不可能な複数の非線形現象が確認された。


現在では本現象を、「非平衡状態下における複合レオロジー系の構造相転移および圧力駆動型ガス輸送事故」として暫定分類している。


1. 構成材料

1-1 キャインバルーン

空間魔素および内部供給魔素を利用し継続的膨張を行う魔工素材。

通常用途では低圧域での伸縮特性に優れる。

特徴:

内部魔素圧依存型膨張

低密度

自己保持型膜構造

一定条件下で継続的容積増加

問題点:

内部圧力上昇に対する自己制御機能を持たない。

1-2 ダイダイスライム

高粒子濃度スライム系材料。

通常スライムと異なり、外力依存的粘度変化特性を有する。

暫定モデル:

高粒子懸濁型非ニュートン流体ならびに、準架橋型粘弾性ゲルとして扱う。

観測特性:低せん断領域:流体的挙動高せん断領域:急激な粘度上昇:硬化挙動確認。


2. 初期反応

キャインバルーン膨張開始後、内部圧力上昇に伴いダイダイスライム内粒子密度変化が観測された。

一定閾値到達時、Dilatancy的挙動を示す。

より正確には:Shear Thickening Transition(せん断増粘転移)発生。


現象:

せん断速度γ増加→粒子再配置困難化→流動抵抗急増→見かけ粘度 η上昇→流体→準固体化

通常ダイラタンシーでは応力消失後に緩和し流体へ復帰する。

しかし本件では復帰が確認されなかった。


3. 構造固定機構

追加解析の結果、ダイダイスライム内部で以下現象発生が推定される。

粘弾性記憶効果(Viscoelastic Memory)及び粒子ジャミング(Jamming Transition)

高応力下で粒子群が相互拘束。

さらにスライム高分子構造が、準架橋ゲルネットワーク形成。

これにより通常なら一時的な硬化状態が保持された。


模式:

高せん断→増粘→粒子拘束→準架橋形成→応力除去後も構造固定

結果:

異常大型硬化体形成。


4. 周期的ガス排出・吸入現象

構造固定後、被験体は周期的ガス流動を示した。

観測:

「プシュー」

「ズゴォ……」

「プシュー」

「ズゴォ……」

当初、生体反応または魔素脈動が疑われた。

しかし解析結果では、内部応力勾配による圧力勾配駆動型ガス輸送現象の可能性が高い。


機序:

内部高圧域発生→局所応力緩和(Stress Relaxation)→ガス排出→内部圧低下→外気圧逆転→ガス吸入→再平衡失敗→反復

別表現:粘弾性ネットワークにおける動的圧力平衡振動

現象:俗称:「なんか呼吸しているように見えるやつ」

5. 爆散事象

長時間の膨張維持により、内部構造へ不均一応力蓄積。

以下発生。

局所構造疲労

応力集中

魔素圧偏在

骨格支持点過負荷

最終的に、臨界点到達。

推定:局所構造破断→圧力波伝播→骨格連結破壊→全体崩壊

骨散乱範囲から見て、爆発というより、急速構造相崩壊現象に近い。


結論:

本事故は風船事故ではない。

またスライム事故でもない。

分類上は複合魔工学事故に該当する。

本件は、キャインバルーンの持続膨張特性、ダイダイスライムのせん断増粘性、粘弾性記憶、準架橋形成、圧力緩和振動、複合応力集中、

以上が非線形相互作用を起こした結果発生した、非平衡複合レオロジー構造体の相転移事故である。

なお、今後同系統実験は十分な安全管理下で実施すること。


追記:

実験補助者ルビィは事故後も終始「なんかすごかったっす!」と供述。

参考資料価値:低。

※なお、本資料は機密指定により一部内容を秘匿処理済み。


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