16話 心
光の収束を終えて、自分の体をよく視る。
うん、何も変わってない。——と思った束の間、世界の景色が一変した。
視認しているだけで、魔鉱石の色や流れを捉えている。
―—え、お、魔鉱石の中ってこんな動きしてるのか?
生き物みたいだ。すごい!
天然だからか魔素の密度や色がはっきりしている。
改めてみるときれいだなぁ。
思わず見とれてしまっていると、カヤマがこちらをじっと見ているのに気が付く。
あ、そうか、今喋れないんだ。
骨化で意思疎通ってできないのかな?部分的に人化するとか……いや、絵面が怖い。だめだ。
……一旦、戻ろう
【筋肉生成実行】
元に戻る。いや、人の姿になる。
……お?
あれ、さっき視認できていた流れがあんまり見えなくなってる。
魔素感知の時もそうだったけど、基本的にこの能力は骨化の時に最大限効果を発揮するのか?
人化すると筋肉とか色々増えるし、そのせいか……。あ。
そういえば、臓器とかって筋肉なのか?俺、心臓ある?
―—あ、ある。いや、あるんかい!
「どうだった」
俺の奇行を黙って見ていたカヤマが口を開く。
「えっと、流れとか色々見てた」
「……そんなことまで捉えられるのか?」
「えっ、うん」
カヤマがまた黙りこむ。……不安だ。
「流れの箇所を詳しく教えてくれ」
「お、わかった」
今見た情報を口頭で伝えた。詳しいことはわからないのでかなり抽象的な話になってしまう。カヤマがわかりやすく疑問を投げかけてくれるおかげで説明がしやすかった。
「ふぅ……」
一通りの説明を終えた後、珍しくカヤマが少し大きめなため息を吐いた。
「おまえさんは、おかしい」
なんだと?
「錬金術師ってのは魔素の性質を組み替えていくが、そのためには器に宿る魔素を把握しないと話にならない」
「魔鉱石に宿る魔素……いや、そもそも魔素を視覚で捉えるってだけでかなりの労力がいる」
「長い時間と人の知恵をかけて習得するのが普通だ」
「そんなもん簡単にやられちまったら、こっちは飯の食い上げになる」
……なんだ、褒められてるのか、貶されてるのか。
でも確かに、魔素濃度気象観測も当てにならないことが多い。まだまだ魔素に関して知らないことが多いのが現状だよな。
「お前さんを疑う訳じゃないが、俺の方でも今言ってくれたことが正しいかどうか確認してみる」
ちょっと待っててくれ、と言うとまた魔鉱顕微鏡を使い始めた。
どれくらい待てばいいのか。うーん、とりあえずルビィを探すか。
―—————————
庭に出た瞬間、突如として目の前を覆う壁が出現していた。
な、なんだこれ!こんなの来るときなかったろうに!
「へぇふふぁーーーーーーぃ!!!」
ルビィの声!どこだ!どこにいる!
「ふぉふぉふぇぃーーーーーふぅっ!」
壁を横切り、声のする方へ向か―――目を疑った。
口からキャインバルーンを膨らませている。その高さおよそ3メートル。
「な、な、なにやってるんだ!?」
「ふぁひぃふぇふぇふぇ」
「なにいってるんだ!!?」
だめだ、どうすればいいのか全く分からない。
いや、まずはルビィの口にくわえたものを切り取るのが先だ。
え、いや、待って、これそんなに固くないよな?すぐ割れるのに、なんでこんなに膨らんでるの?
考えが何一つ纏まらないまま、ルビィの口の先のキャインバルーンを摘まむ。
―——か、固いっ!
なんで!おまっ、お前なにした!?
大木を押そうとしてもびくともしないような頑丈さがそこにはあった。
どうしたら切り取れる……。
あ。
一か八か――そう思って行動していた。
頭が妙に回るのに考えは全然まとまらない時にやってしまうことは、ろくでもないことだとわかっているのに。
【筋肉生成解除】
【筋肉生成を一時的に解除します】
骨化成功。
あの硬度、どんな武器でも壊せはしない。
でも、今の俺なら……!
骨切!
―——スパっと音を立てて、ルビィの口から少し離れたキャインバルーンを真っ二つにする。
その勢いでルビィはコロコロと後ろに倒れこみ、キャインバルーンは勢いよく萎んでいく。
ま、まずい……!
一気に空気が吐き出されると同時に、内部から空気の吸い込みが始まった。
その風力に耐えきれず、おれはキャインバルーンの中に、まるで蛇口の水を水筒に入れるかのようにスルっと吸い込まれていった。
そして爆音を立てて、吸い込まれた俺と一緒に、キャインバルーンが爆発した。
―—————————
…………ん。
……ここ、どこだ?
一面、真っ白な空間。
意識があるのに、どこかフワフワしている。
頭が冴えてるのに、心がここに無いような……。
コツ、コツ、コツ。
音を立てて、何かが近づいてくる。
不穏な音、だけど不思議と嫌な気持ちにならなかった。
その姿は、骨だった。
骨の、俺だ。
『よぉ』
「え、お前喋れるの?」
『喋れるも何も、俺はお前だろう?』
「あ、やっぱり俺か。俺の骨か」
『わかるか?』
「わかるも何も、俺のことだからな」
『…………』
なんだ、急に黙った。
いや、この状況なんだ?夢か?現実か?妄想か?
『なにがしたい?』
「え、なにって?」
『俺を使って、お前は何がしたい?』
「えっと、どういうこと?」
『肉体と精神はかけ離れた存在だ。お前は肉体、俺は精神。精神というものが、この世界の源であり、核だ。お前はこの俺、精神を使って何がしたい?』
「…………」
ごめん、どういうこと?
『聞こえてるぞ』
「あ、心の声も拾うのか!」
もう何も誤魔化せない。
『精神というのは、魔素から生じる。この世界に点在するありとあらゆる魔素は生物、植物、生けとし生きる者の精神から成り立っている』
「……つまり、人が死んだら魔素に帰るってこと?」
『そういうことだ』
「じゃあ、俺たちが今使っている魔素は全部人の精神ってこと?」
『生物は人間だけではないし、有機物にも無機物にも精神は等しく宿る。一概に一括りには捉えられない』
『だが、そう捉えても良い』
「…………なんてこった」
『魔素を喰らい、俺と共に生きるお前はこの世界をどう見ていくつもりだ』
「……」
『改めて問おう。お前は俺とどう生きていく?』
【和冬のどうでもいい人生知識】
人は答えが欲しい時ほど難しいことを考え、余計なことをして、足掻きます。
ですが、後から振り返ると「なんとなくやってみた」「勢いだった」ということが、前に進むきっかけだったことが多かったのではないでしょうか。
答えを得るには、自分を知ると同時に、世界に第一歩を踏み出さなければなりません。
ちなみにモルは今それどころではありません。
5分前まで風船に吸われていました。
人生って不思議ですね。




