14話 久しぶりの日常
カヤマは残って、リアンナを見に行くそうだ。これからだもんな、がんばれ!
ミントは目を真っ赤に充血させながら「今なら何でもできますわよ……!」と言い自社へ帰還していった。頭から湯気が出ていたのは目の錯覚ではないよな?
ルビィはずっと幸せそうな表情だ。口角が吊り上がって、時々思い出したかのように、にやけている。俺も、本当に食べたかった……!
念願のシルオム……。食堂は一般開放だが、俺は入れないんだ。
正確に言えば入れるが、入った瞬間各社員が社長室に俺の来訪を報告することになっている。
これはシルカンの基本的ルールであり、義務である。そう入社説明会で伝えているらしい。
なので、俺はシルカンに入ったとき、実はかなり注目を浴びていたのだ。周りが鈍感すぎて気にしてなかったが、行きづらいからやめてほしいです、師匠。
今後はリアンナの製造工程を鑑みた、カヤマの魔鉱石錬金のお手伝いが主流になるはず。
あいつ等が動いてくれたおかげで、とんでもない規模になっちまった。俺にできることなんてまだ少ない。
師匠のお願いが何なのかはさておき、一度初心に帰って露店巡りでもするか。
商売人は、歩いているだけでも掘り出し物に出会えるからな。
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中層の露天通りを歩く。
どの層よりも活気があり、人々の交流と物流の要所だ。
野菜、果物、肉、魚、装飾品に本、服、家電、その他諸々許可さえもらえれば何でもあり。
俺も何度か出店しているが、客も目ざといもんで良い品は買う、悪ければ買わないと素直なもんだ。
この辺りは商品自体もそうだが販売能力も求められる。棚を出さない口達者な露天商の腕の見せ所ってもんだ。
「せんぱい、あそこ盛り上がってるっすよ!」
お、どれどれ。
ルビィの指さす方を見ると、ひときわ熱を帯びた一角を見つけた。
店主は……見ない顔だ、新入りか?
「さぁさぁ!ご覧ください!どんな食材でもスッと切れる。今流行りの魔鉱包丁!試し切りにご一席下さい!」
あらかじめ用意してあったまな板の上に、取り出したのは専用器具を使わないと身を取り出せないドドドリアン。硬い殻の中に芳醇な甘さを持つフルーツだ。うまいんだよなぁ、あれ。
いきますよー!と言いながら店主は大げさに息を吸い、ゆっくりドドドリアンの真ん中に包丁を押し当てる。
すると、すぐに亀裂が入り、あっというまに包丁の刃はまな板へと到達し、ドドドリアンが真っ二つになっていた。
おおーーーー!と歓声が上がる中、店主はここぞとばかりに言う。
「ご覧になってわかるように、私は一切力を使っていません!力を使わずにこの硬度を切れる刃の鋭さには秘密があります」
なんだ、気になるな。
「それがこの小さな魔鉱石!ご覧のように目に見えないほど小粒ですが、この小さな魔鉱石をいくつか包丁の内部に組み込んであります。」
「そのおかげで対象物の認識を明確にし、硬度に対して、適切な切れ味を出せるようになっております!」
へぇー、すごいな。でも全部を入れないのには理由があるのか?いや、あの魔鉱石高いからか。
なんでその魔鉱石を全体に施さないんだ?と客から一声。こう言えるのは露天の醍醐味だよな。
「旦那ぁ、お目が高いですねー!一つは小粒なので、たくさん取り込むと対象の認識が難しくなって逆に切れ味が落ちちゃうんですよ。職人がどこに組み込めばいいかを考え作り出しました」
「もう一つは、魔鉱石の価格も値上がりしてるんで。あんまり組み込みすぎると皆様のお手に入らなくなってしまいます」
と、見ていた客にひと笑い起きる。落ちが上手いな。やり手だ。
そこからはすぐに買う客、値下げしようとする客、もっと話を聞きたい客と反応は様々だが、これだけ盛り上がってるんだ。売れ行きは順調だろう。
しかし、銀貨3枚か。相場が分かってないのか?このあたりの相場は高くてせいぜい銀貨1枚だぞ?とてもじゃないが、庶民の味方ではないな。俺でも値下げ交渉する。
「せんぱいっ!あれほしいっす!」
「いや、いらないだろ」
「なんでっすか!?」
「料理するのか?」
「あれ買ったらするっす!」
「食材切った後はどうするんだ」
「切りたいんっす!」
「そこだけ聞くと怖いからやめなさい」
「気にならないっすか!?」
気になるけど、料理しないし。そもそもあの魔鉱石、あんな小粒で機能果たせるのか。価格的には天然物だけど―――うーん、細かく削るか、人口なら多少量産できたと思うが。どれだけの魔素が内蔵されてるんだろう?感知とかできないかな。……やってみるか。
対象:魔鉱包丁
【魔素感知】
【魔素感知を適用するため一時的に筋肉生成を中断します】
は?
まて待て待て、一旦待って。やめ!魔素感知やめ!!
見ると、自分の体からうっすら霧のようなものが出ていた。体は……よし、骨、見えない。
うわーーーー、あっぶない!そうか、確かに鉱脈で魔素感知しているときは常に骨化の状態だった。人化の場合だと魔素感知できないのか。冷や汗どころじゃないぞ。
人化のときでも魔素の流れみたいなものはぼんやり見えていた気がするから、できるものだと思っていた。できたら楽なのに!商売の役に立つのに!
街中はそもそも魔鉱石が至る所に点在しているから、魔素の流れをくみ取るどころじゃないんだよな。川の中で稚魚を見つけてくださいって言ってるようなもんだ。
俺が何とも言えない表情を浮かべながら魔鉱包丁の露天を見続けていると、また目新しいものを見つけたのか走り出すルビィ。
また何か見つけたのか?それにしてもいつ来てもここは飽きないな。
人通りが多い中、ルビィに追いつくためにも、あいつが転ばないようにするためにもルビィに声をかける。
久々にこういうのも楽しいもんだ。今日は目いっぱい露天を見て回るか。
【和冬のどうでもいい露店知識】
露店は商品を売る場所ですが、実際は話術を売る場所でもあります。
同じ商品でも、人によって売れたり売れなかったりします。
ちなみにルビィは「なんか良さそう!」で買います。
モルは「なんで良いのか」を考えます。
そして和冬は屋台に行くと予定になかったものを買います。
これを、屋台の魔法と言います。




