13話 しょうがない
「離れてください!」
「嫌っ!」
「もう行きますから!!」
「いーーーーーや!!」
師匠が俺の胴をロックして放してくれない。
泣きじゃくった後に「お騒がせしてすみません」と皆を気遣う様は社長然としていたのに。
「……いつもこんな感じなのか?」
「ご覧の通りです!」
師匠の悪いところは、俺以外見えなくなることだ。
本人は全然かまわないというスタンスだが、それで俺がどれだけ苦労したのかは言うまでもない。
「また来ます!」
「いつも一緒がいい!」
「仕事があるでしょ!」
「仕事も一緒がいい!」
「わがまま言わないでください!」
「わがままじゃないもん!」
さっきのことがあって尚これだ。もはや収拾がつかない。誰か、助けてくれ。
「シルヴィア社長、お取込み中のところ申し訳ありません」
気づけば、師匠の秘書の方が扉前に立っていた。いつの間に。
「別件で行われた魔素解析探査の報告にお立会いいただきたいと、先方からご要望がございました。至急、管制塔までお越しください」
「……………………わかったわ」
すっごい嫌そうな顔してる。今の聞いてよかった話か?
「モルちゃん……」
「はい」
「今日は結婚できなかったけど、次があるからね」
「は?」
「報酬は考えておくから」
「え、いや」
「わかった???」
こちらの有無を言わさない断固たる圧を感じる。
「…………はい」
「よろしい!」
上機嫌になり、秘書と共に部屋を後にする師匠。嵐に体を預けるような感覚だった。身が持たない。
「「「すごい(な)(っす!)(ですわね)」」」
三者三葉同じ言葉を口にする。あれがうちの師匠、シルヴィア・シルベルト。
仕事はできるんだけどなぁ。
ともあれ、会議は終了。リアンナの件はカヤマ頼りになってくる。どうして師匠との話し合いになったかは、後でじっくり聞くとしよう。
しっかし……疲れたな、いや、ほんとうに。
ここ最近の、リアンナ➡カヤマと対面➡骨化披露➡師匠結婚誤爆って数日で起こるイベントじゃないよな?一介の商人には堪えるぞ?
まぁ、やっちまったもんはしょうがない。
後悔先に立たず、だっけ?そんなかんじ。今は目の前を楽しんでいきますか。
「俺たちの仕事はほぼほぼ完成だ。カヤマはこれからだろうが、一旦飯にしよう」
「シルカン名物大食堂っすね!行きましょう!」
―—————————
シルベルトカンパニーは千人規模の大所帯。
食堂内には笑ってるやつ、一人で資料広げてるやつ、机に突っ伏して寝てるやつ……色んな社員がいた。
人が千人もいれば当然腹も減る。つまり場所も、飯もとんでもない規模になる。
日々の栄養と活力の源!仕事の重圧も吹き飛ばし!シルカンを支える屋台骨!それがシルカン大食堂!って公式ポスターで言ってた通りだ。初めて来たが、すごいな。
「美味しそうな匂いが漂っていますわ」
廊下からも漂ってきたが、食堂内はまた格別だ。肉を焼く匂い、香辛料、甘い匂いまで混ざって腹が鳴りそうになる。
「メニュー多くて迷うっすね~!」
わかる。歩くたびに色んな匂いが飛び込んでくるし……腹減ってる時の美味しい匂いって反則だよな?
「ドリンクの種類もかなりの数だ」
それな。ドリンクだけでも店が開けそうだ。……師匠、どんだけここにつぎ込んだんだ?
食堂内を見て回る。
だが正直、ここに来て食べたいメニューはすでに決まっていた。
どの場所に言っても、一番人気、名物を食べるのが一番。ここの名物と言ったら……
「せんぱいっ!私、シルオムにするっす!」
…………な。
「私もシルオムにしようと思いましたが、ルビィちゃんに譲りますわ」
「えぇ!一緒に同じの食べればいいじゃないすかっ!?」
「せっかくですし、色んなメニューをみんなで味わうのが得策ですわ。これだけの規模、名物料理だけでなく人々の生活を支える食事を堪能するなんて、今後の食品関連の視野が広がりそうですもの。商人としては当たり前の選択ですこと?」
え……えぇーーー。
「せんぱいは何食べるか決めたっすか?」
「あ、いや」
いや、別に被ってもいいんだけど。ミントなんで余計なこと言ったの?飯くらい好きなの食べれば良いじゃん!なんでそこに商人絡めた!?
「俺は……俺、あっちの方、見てこようかなぁ……」
「わかったっす!私自分の頼んでくるっす!席は取って置くっすから後で合流するっす!」
あーー……俺の……シルオム……。
―—————————
結局、俺は名物とまでは言わなくとも定番メニューを選んだ。
疲労回復定食!豚と玉ねぎの生姜焼き!
名前のところに少し癖があるのが、シルカン食堂の文化。他にも徹夜明け救済スープとか職人殺し丼とか色々ある。俺が選んだのは社員にも人気のド定番メニューだ。
「本当に種類が多いな」
と、カヤマ。持ってきたのは、世界を旅する七不思議丼!
師匠が実際に回った国々の美味しいものを詰め込んだらしい。不思議と味が重なり合うと評判だ。
「食で世界を知る、良いテーマだったんでな」
あんたも食に仕事を持ち込むな!いいけど!
「お待たせしましたわ」
えっと、なにそれ。
「商談前の激辛担々麺、ですわ」
すっごい匂い。辛い、というより痛そう。
「これを食すことによって、脳が刺激され思考の回転率を上げるようですの」
言いたいことはわかるが、いや大丈夫か?スープ、ポコポコ言ってるぞ?
「私には必要ないと思っていましたが、これを食した後の商談成功率は90%を超えると聞きましたわ」
マジ?
「皆様の覚悟、味わって見せますわよ!」
頼むから、火吹くなよ。
「あれ、最後っすか。お待たせしたっす!」
来た。
あれが、シルオム!!
外見から普通のオムライスではない。オムライスが、透明な膜に覆われているのだ。
あの薄くきめ細やかなヴェールのようなものが、シルオムの最大の特徴。
師匠が「オムライスを世界一美味しくする」と研究と実証を重ねた最終地点。努力そこ?
見た目もきれいで、卵もふわっふわらしい。はぁ、いいなーー。
「では」
「「「「いただきます!」」」」
【和冬のどうでもいいお店紹介】
シルカン大食堂は社員数千人の胃袋を支える大型食堂です。
朝昼晩いつでも利用可能。
料理、飲み物、甘味まで何でも揃っています。
なお、社長の思いつきで突然メニューが増えることがありますが、社員は慣れています。
シルカン食堂人気ランキング(社員アンケート調べ)
第3位
『職人殺し丼』
大盛り肉・卵・濃厚タレを限界まで詰め込んだ一杯。
「昼に食うと午後が終わる」ことで有名。
第2位
『徹夜明け救済スープ』
飲んだ瞬間「生き返る」と噂の定番商品。
なお、何が入っているかは誰も知りません。
第1位
『本日だけたぶん限定パン』
食堂のおばちゃんが気分で作ります。
二度と同じものが出ないため社員の争奪戦が起こります。
※シルオムは殿堂入りしているので、ランキングには掲載されません。




