第8話 動き出した影
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アイゼン山脈の吹雪が止んだその刻、遠く離れた魔王城の謁見の間では、一塊の氷が砕け散った。
「……ほう。氷晶竜が墜ちたか」
高座に深く腰掛けた男が、退屈そうに指を鳴らす。
男の傍らに控えていたのは、影のように実体の定まらない魔導師だった。彼は砕けた氷の破片を覗き込み、低く、湿った声で応える。
「御意に。守護騎士ギーク、聖女アメリア……そして勇者エレク。彼らが聖剣の封印を解いたようです。……ですが」
「ですが、何だ?」
「聖剣の放った光が、妙なのです。古の黄金ではなく、禍々しいまでの紅蓮……。まるで、誰かの怨念か、あるいは命そのものを燃やし尽くしたかのような色の輝きでございました」
男――魔王軍五冠のうちの一人、ザルクは、その言葉に僅かだけ口角を上げた。
彼にとって、勇者が聖剣を手に入れることなど、予定調和に過ぎない。だが、その剣が「変質」したという報告は、乾いた日々に小さな波紋を投げかけた。
「……面白い。高潔さを謳う聖剣が、泥に塗れたか。勇者一人の力では、我が配下の竜には勝てなかったはず。……誰だ? そのイレギュラーを招いたのは」
「報告によれば、名はアレン。魔法特性は『自爆』。本来なら最初の戦闘で塵となって消えるはずの端役に過ぎませぬ。……しかし、彼が聖剣の覚醒に深く関与している可能性が高いかと」
「アレン、だと?」
ザルクは、手元のワイングラスを指先で弄ぶ。
自爆魔法。それは一度きりの花火。
だが、その花火が消えずに、運命の歯車を狂わせている。
「……放っておけ。どうせ長くは持つまい。……と言いたいところだが、不確定要素は早めに摘んでおくのが私の主義だ」
ザルクが影の魔導師へ視線を送る。
それだけで、謁見の間の温度が数度下がった。
「『影の刺客』を放て。勇者を狙う必要はない。……その『アレン』という少年を、エレクの目の前で、一瞬で屠ってこい。絶望の中で手にした聖剣が、どれほど脆いものか、教えてやるのだ」
「御意。……すぐに」
影の魔導師が床に溶け込むように消える。
一人残されたザルクは、窓の外に広がる荒廃した大地を眺めながら、不敵に笑った。
「……一瞬の輝きで終わるか、それとも。……楽しみだぞ、アレン」
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