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第2話 門出

広場に集まったのは、僕とアメリアだけではなかった。

重厚な足音を響かせ、三人の男女が僕たちの前に立った。


「君たちがアレンとアメリアだね。待っていたよ」


爽やかな笑顔で手を差し伸べてきたのは、腰に大剣を帯びた青年、勇者エレクだった。

彼は僕の「自爆魔法」を知っているはずなのに、偏見の欠片もない、澄んだ瞳で僕を見つめてくれた。


「僕はエレク。この剣で仲間を守ると決めている。よろしく、アレン。……君の覚悟に、敬意を表するよ」


「……あ、よろしくお願いします」


続いて、物陰からひょこっと顔を出したのは、真っ赤な杖を抱えた少女、魔法使いのマリアだった。


「……ひっ! 爆発し、しないわよね!? ……ご、ごめんなさい、私、自分の火魔法も怖くてたまらないの……。あうぅ、よろしくお願いします……」

彼女は小刻みに震えながら、深々と頭を下げる。


その隣で、岩のようにどっしりと構えた大男が、低く太い声を出した。


「戦士のギークだ。」


堅物そうな顔立ちで、2mを遥かに超えているであろう巨体は少し怖いようで、頼もしく見えた。


自己紹介が終わり、エレクが僕に真剣な眼差しで告げる。


「アレン。君一人に背負わせるつもりはない」


「安心しろ、君の出番は無いと思う。…いや、無くす。良い旅にしよう。」


勇者が、僕に頭を下げた。

仲間思いの彼らは、僕を「兵器」としてではなく、「重荷を共に背負う最後の仲間」として迎えてくれたんだ。


「――さあ、勇者一行の門出だ! 万歳! 万歳!」


突然、耳を刺すような大歓声が響き渡った。

見上げれば、広場の周りには、色とりどりの紙吹雪をまき散らす国の人々がひしめき合っていた。


「魔王を倒してくれ!」「世界を救ってくれ!」


彼らの笑顔は、純粋で、無邪気で……そして、ひどく無責任だった。


「……アレン、行きましょう。」


アメリアが僕の隣に立ち、そっと囁いた。

彼女の手から、淡い光が溢れる。


「あんな声、聞かなくていいわ。私たちは、私たちのために歩き出しましょう」


暖かい光に包まれる。

彼女の癒やしの光には、傷を塞ぐことはできても、心を癒す効果はない。

それでも、その温もりだけが、今の僕には唯一の癒しだった。


「……はい」


僕は、自分でも驚くほど穏やかな声で答えていた。

狂乱のような歓声の中、僕たちはゆっくりと歩き出す。

背後で泣き崩れる母さんの姿を、振り返って見ることはできなかった。


「行くぞ、みんな。必ず……魔王を討ち取って全員笑顔で帰ってくるんだ。」


勇者エレクのその言葉が、僕の胸に深く沈んだ。

それが、全員で笑い合えた、最初の、そして数少ない記憶だった。




王都を出て三日。馬車に揺られ続けた間にいくつかわかったことがある。

まず、聖剣の存在。どうやら魔王には通常の攻撃は効かないようだ。なので、エレクが使う聖剣を僕たちは入手する必要がある。そこで、どうやらキリスという街に聖剣があるらしい。最初の目的地はキリスになりそうだ。そして、その聖剣エレクにしか使えない事。他の人間が持ったら塵になって消えてしまうらしい。恐ろしや……。エレクは生まれた時から聖剣の存在を本能的に直感していたらしく、12歳の旅立ちの日に勇者と診断された時もあまり驚かなかったそうだ。

次に現在の世界の状況の事。

平民だったので、詳しい事を知れる教育を受けていなかったがアメリアに教えてもらった。

いつもは僕が街に着いていろいろ教えていたのに立場が逆転してしまったようだ。ムムムム…

長い長い講義の末、ある程度のことは理解ができた。

魔王城と僕たちの出発地点、ムルガンド王国は大陸の真反対にあるようだ。数年前までは複数の国が存在していたが、現在は一つに纏まり共通の敵、魔王を倒そうとしていること。僕たち勇者パーティは人類の中から選ばれた選りすぐりの人間のようだ。

魔王城までの道のりは遠い。2年はかかるようだ。

その事を聞いてすこし嬉しくなってしまった自分に嫌悪感を覚えた。今現在にも苦しんでいる人々がたくさんいるというのに。


さらに数日が経ったある日。

僕たちの前に

巨大な石造りの門が見えてきた。

海からの風が城壁を越えて吹き抜ける、交易の要衝『キリス』だ。


門をくぐった瞬間、世界の色が鮮やかに塗り替えられた。


「わあ……アレン、見て! お魚がいっぱい!」


アメリアが僕の袖をぐいぐいと引いて、並んでいる露店を指差す。

そこには、僕たちの村では見たこともないような、銀色に輝く大きな魚や、山盛りの貝、見たこともない色鮮やかな南国の果物が並んでいた。


「本当だ……。あ、あっちには綺麗な布も売ってるよ」


「本当! 後で見に行きましょうね。あ、あっちの貝も美味しそう!」


彼女の弾んだ声につられて、僕の心も少しずつ軽くなっていく。

そんな僕たちの後ろで、勇者エレクさんが満足そうに腕を組んで頷いていた。


「ははは、若い二人は元気だね。ギーク、少し休憩にしよう。マリアも顔色が悪いしね」


「……ううぅ、馬車酔いが……。でも、あの焼き菓子の香ばしい匂い……あれなら、食べられそうな気がします……」


魔法使いのマリアさんは、杖にすがりながらフラフラしていたけれど、甘い匂いのする屋台をじっと見つめている。


「ふん。食える時に食っておけ。戦いが始まったらなかなか食えないぞ」


戦士のギークさんが、無造作に僕の手に握らせたのは、硬貨が数枚入った小さな革袋だった。


「おやつ代だ。好きなものでも買ってこい。……迷子になるなよ」


「あ、ありがとうございます……!」


ギークさんは照れくさそうに顔を背けると、エレクさんと一緒に今夜の宿の手配へと向かっていった。

二人きりになった僕とアメリアは、キリスの街へ踏み出した。


噴水広場では、旅の芸人が見たこともない弦楽器を奏で、子供たちがその周りを笑いながら走り回っている。

石畳を歩くたびに、潮の香りと、パンの焼ける匂い、そして誰かの笑い声が混ざり合って聞こえてくる。


「アレン、これ食べてみて。すっごく甘いよ!」


アメリアが差し出したのは、林檎を蜂蜜で煮詰めて固めたようなお菓子だった。

一口かじると、口いっぱいに温かな甘さが広がる。


「……美味しい」


「でしょ? ほら、あっちの露店にはもっと珍しいものがあるわよ!」


彼女はいたずらっぽく笑って、僕の隣を歩く。

ここでは、僕は誰からも避けられる存在じゃない。

ただ、幼馴染の女の子と一緒にお菓子を食べて、綺麗な景色を眺める、どこにでもいる一人の少年だ。


「……ねえ、アメリア。あの布屋さん、行ってみようか」


「ええ、行きましょう! アレンに似合う色のリボンとか、あるかしら」


「えっ、僕にリボン……?」


「ふふ、冗談よ」


「……ねえ、アメリア。あの布屋さん、行ってみようか」


「ええ、行きましょう! アレンに似合う色のリボンとか、あるかしら」


「えっ、僕にリボン……?」


「ふふ、冗談よ」


一歩足を踏み入れた布屋の店内は、天井からたくさんの帯が幕のように垂れ下がり、外の光を透かして幻想的な空間となっていた。


「わあ……綺麗ね……」


アメリアがうっとりと顔を上げ、色彩の天幕を見つめる。その時、ふと彼女の動きが止まった。


「ねえ、見てアレン。これ、あなたの瞳の色にそっくりだわ」


彼女が指差したのは、深く、どこか寂しげで、けれど透き通った青色の布だった。


「そうかな。……僕の目、そんなに綺麗な色をしてる?」


「ええ、とっても」


アメリアはその布をすっかり気に入ってしまったようで、迷うことなく買い求めた。幸い、国から支給された旅費はたんまりとある。

店主は僕たちに「聖剣」の噂を教えてくれた。

聖剣はこの街でもとても有名なようだ。

結局、予定外の買い物をしてしまったけれど……。

(エレクさんに怒られないかな……)

そんな小さな不安を鞄に詰めて、僕たちは店主が教えてくれた「聖剣」が奉られているという広場へ向かった


「……あれかな?」


広場の中央、立派な台座の上に、それはあった。

黄金に輝く柄に、精巧な彫刻が施された見事な大剣だ。


「わあ、すごい……! 本物かしら!」


アメリアが目を輝かせたけれど、近づくにつれて僕たちの足は止まった。

そこには行列ができていて、観光客たちが代わる代わるその剣を握り、ポーズを決めて笑っているのだ。


「はい、チーズ! 次、僕も触っていい?」

「お父さん見て! 聖剣持てたよ!」


子供たちがベタベタと手垢をつけ、酔っ払ったおじさんが寄りかかって鼻をかんでいる。

……塵になって消えるどころか、汚れ一つ払う様子もない。


「……アメリア、これ、違うね」


「そうね……。本物なら、あんなに雑に扱われて無事なはずないもの」


期待が大きかった分、肩の力が一気に抜けた。

『聖剣キリス・レプリカ:触り心地抜群!』なんていう看板を見つけて、僕たちは顔を見合わせて苦笑いするしかなかった。


トボトボと宿屋に戻ると、一階の食堂からは香ばしい肉の焼ける匂いが漂ってきた。


「おかえり。どうだった、聖剣様のご威光は?」


エレクさんが、すでにテーブルに並べられた料理を前に笑いかけてくる。

僕たちが「観光客にベタベタ触られてました」と報告すると、パーティの面々はそれぞれの反応を見せた。


「ははは! それは傑作だ。本物はそんなに安っぽくないさ。さあ、冷めないうちに食べよう!」


エレクさんは快活に笑い、一番大きな肉料理を僕の皿に取り分けてくれた。


「……よかった。本物だったら、私、緊張して喉を通らないところだったわ……」


マリアさんは、自分専用の少し焦げた野菜炒めをつつきながら、ホッとしたように胸を撫で下ろしている。彼女は本当に、強い力というものが苦手らしい。


「ふん。偽物で十分だ。小僧、これを食え。体を作らんと、本物を手に入れた時に腰を抜かすぞ」


ギークさんは、自分の皿にある特大のパンを半分に割り、僕のスープの中に無造作に放り込んだ。


「ほらアレン、これも食べて。キリス名産の貝のワイン蒸しよ」


アメリアは自分の好物を僕に分けてくれながら、先ほどの布をテーブルの下でこっそり見せて、僕にウインクをした。


みんな、僕が「偽物」にガッカリしたのを察して、それぞれのやり方で元気づけてくれているんだ。


「……美味しい」


口に運んだ肉は、王都の豪華な食事よりずっと温かかった。

勇者、魔法使い、戦士、聖女。

すごい人たちのはずなのに、ここではただの賑やかな家族みたいだ。


昔の事を思い出し、しばらく暖かい時間は続いた…

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