イクナイクナ2
「おー! 先生の嫁さん見つかったか!!」
「は?! いや嫁じゃ」
「勇太くんよかったねえ」
「さすが鈴木の家系だわ」
勅使河原さんと手を繋いで暗い日本屋敷から出ると、真っ暗なお堂に出た。さらに外へ出ると、懐中電灯を持った村の人たちが遠巻きにこっちを見ている。それぞれ安堵したり、笑顔だったり、勅使河原さんに向けて手招きしたりしている。おしゃべりしながら解散していく村の人たちはほとんどお年寄りばかりだけれど、服装もいたって普通で、暗い中見える家もごく一般的なものだった。庶民的な様子がなんだかホッとする。
村長さんらしきちょっと豪華なおうちにお邪魔し、梅昆布茶を差し出されたときには、もはや小古路村の不自然に豪華な風景や、迷い家や鬼の住む家の不自然な様子がただの夢だったかのように感じてくる。
「今年もお勤めご苦労さんでしたなあ。風呂も沸いてるし布団も準備してるから」
「小腹空いてるかね? 今おにぎり用意してるからね」
「ありがとうございます」
「しかし勇太くんいい嫁さん見つけたなぁ」
「いやだからよよ嫁さんじゃないから! 早乙女さんは助手だから!」
勅使河原さんのしっかりした否定を、村の人は「大きくなって」と笑って流していた。勅使河原さんを見ると、ちょうどこっちを向いた勅使河原さんと目が合う。顔を赤くした勅使河原さんがまた頭を抱え出した。
「勅使河原さん、本名勇太さんなんですね」
「ああぁバレた……早乙女さんの前ではカッコつけてたかったのに……!!」
「良い名前じゃないですか」
除霊ネームが勅使河原信臣な勅使河原さんは、本名にちょっとコンプレックスがあるらしい。普通の名前が一番だと思う。
「御荷古路村の皆さん、親切ですね」
「でしょ。いい人たちだよ。真面目だしねえ」
御荷古路村と小古路村は、元々は同じ集落だったようだ。色々あって大変な中で、貧しいながらもみんなで知恵を出し助け合って頑張る人たちが御荷古路村、生贄と引き換えに豊かさを求めた人たちが小古路村へと別れたらしい。交流はなかったけれど、御荷古路村の人たちは小古路村のことを心配していたようだ。なんか解決したっぽいことを伝えると喜び、心配なので様子を見に行こうと話し合っていた。いい人たちである。
勅使河原さんとふたりでまたおにぎりを食べていると、神主っぽい姿の中年男性が部屋に入ってきた。その人は入ってくるなり、私たちが座っている背後の方を向いて驚いている。
「……これはまた、すごいオーラだね」
「早乙女さん、こちら鈴木のおじさん。俺と遠縁の人だよー」
「お世話になってます。あの、見えるんですね」
「私は随分力が弱い方だけれども、さすがにこれだけ強いとね」
ロマンスグレーなその人は、勅使河原さんと親戚なだけあって龍がいることがわかったようだ。視線が随分下だなと思っていると、勅使河原さんが「畳でゴロゴロしてるからね」と解説してくれた。確かに私の部屋のボロボロ年代畳とは違う綺麗で立派な畳だけれど、人様のお家でゴロゴロする龍はなんかちょっと申し訳ない。
「今年はあまり良くない予感がしていたけれど、無事に終わってよかった。お嬢さんも恐ろしい人喰い鬼に連れていかれるだなんてさぞ大変だったでしょう。きちんと結界を張り直したから今夜はゆっくり休んでください」
「いえ、私は何もしてないので」
何も見えてなかったので恐ろしいも何もなかったし、どちらかというとレトロゲームで盛り上がって楽しかっただけだ。労られるとちょっと気まずいので首を振ると、勅使河原さんがそれを制してきた。
「早乙女さんいっぱい頑張ったでしょ。今日はゆっくり休もうね。龍もうたた寝してるからさ」
「……もしかして龍がうたた寝してる間に離れたら」
「取れたりしないから。しっぽめっちゃ絡みついてるし伸びるからねこいつ。あとで頭痛肩凝りが大変なことになると思うよ」
「ゆっくり休みます」
私が諦めてそう言うと、勅使河原さんと親戚の方が深く頷いた。




