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憑かれた私と怪しい男  作者: 夏野 夜子
第3章 マヨイヨマイ

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ヨコセヨコセ1

 ガラッとドアが開いた瞬間、音楽が止まる。静寂に飲み込まれるような感覚がした。

 ドアの向こうは明かりがなく、廊下から入る光もごくわずか。影の濃淡でしかよくわからないような空間にスマホを向けると、ようやく中の様子が確認できた。

 子供がいる。


「あのー、こんにちはー」


 部屋の奥、隅っこに座り込んでいる男の子がいる。今日はなんだか子供と縁があるな、と思った。

 その子は暗い部屋の中でひとり、顔を伏せてひっくひっくと肩を揺らしていた。泣いているところに申し訳ないけれど、おうちの人とかがいるなら教えてほしい。そう思って声を掛ける。


「すみませーん、あの、ちょっとお尋ねしたいんですけどいいですか」


 男の子の目が眩しくないように光を少しずらしつつ声を掛ける。泣いているせいで聞こえていないのか反応がないので部屋に入ると、男の子がパッとこっちを向いた。


 普通の子供だ。


 薄暗い雰囲気からして幽霊だとか、怨霊だとか、顔が死んだ当時のままだとかそういうことをちょっと想像していたけれど、特に怪我や死相もないごくごく普通の小学生だった。メガネをかけていて、それが涙で濡れている。長いこと泣いていたのか目の周りが真っ赤になっていた。

 親に怒られた、とかそういう状況だったら、親のところに案内してほしい、と言うのも酷かもしれないな。

 居場所だけでも教えてもらおうかと考えていると、その男の子が慌てたように立ち上がった。


「助けて!」

「え?」

「助けて! ここから出して! ここにいるよ!」


 そりゃいるのはわかるけども。

 男の子はその場で立ち上がり、多少フラつきながらも私の方を見上げて必死に叫んでいた。手を伸ばしては助けを求めている。


 私の部屋に比べたらこの部屋はかなり広いけれど、それでも私と彼の距離は数メートルだ。小学生の足でも30秒すらかからないだろう。なのにその男の子はその場から動かず、一生懸命に手を伸ばしながらジャンプをして声を上げている。


「お願い! 助けて!! 僕が見えないの?! ここだよ!」

「いえ、見えますけど」


 何かしら、動けない理由があるらしい。

 ふざけているようにも見えないので、私は中に入って男の子に近付いた。男の子は泣きながら私に手を伸ばしている。少しよろめいたりもしているけれど、足が痺れているとかでもなさそうだ。何が怖いのだろうと思いながら手を伸ばすと、男の子は私の手に両手でしがみついた。


「大丈夫ですか?」

「お願い助けて! ごめんなさい、助けてください! ここから出してください!」

「わかりました」


 あまりに怯えているようなので、とりあえず男の子の手を握ったまま部屋を出ることにする。廊下に出ると、男の子は呆然としたように「出られた……」と呟きながら涙をポロポロこぼした。

 私は部屋の中をもう一度照らす。どう考えても、出られた、と安堵するほど長い距離でもないし、部屋の中にはやっぱり誰もおらず、虫どころかホコリも落ちていない。それでも男の子は怖かったようで、涙を一生懸命拭いていた。


「ハンカチどうぞ」


 私がタオルハンカチを渡すと、男の子はしゃくり上げながらも「ありがとう」とお礼を言った。メガネを外し、顔を拭いてからこちらを見上げる。そしてポカーンと口を開けた。

 やや怯えた表情で後ずさるその男の子は、私の顔の斜め上を見ていた。


「あ……あぁ……」

「あの、もしかして金の龍みたいなのが見えてますか?」


 男の子は怯えた表情のまま小刻みに頷く。だと思った。


「すみません、見た目が怖いかもしれませんがこの龍は大丈夫なので安心してください。頭痛肩こりや就職できないなどの実害は私しか感じていませんし、むしろ悪霊とかいたら祓ってくれたりとかしてたまに役に立ちます」

「うわあ!」

「ちょっとガン見したりするみたいですが無害……ではないか。あの、甘噛みとかする程度なので」


 小学生の男の子は頭を両手で守り、ぎゅっと目を瞑って何かに耐えている。

 子供を怖がらせるのは流石にどうかと思う。

 私は手を合わせて「怖がらせないで、ガン見禁止で」と念じた。わずかに頭痛がしたので、私の頭を噛むために戻ったようだ。男の子は私の頭上を見てドン引きしながらも落ち着いた。


「ほらもう大丈夫です。あの、質問があるんですが大丈夫ですか?」

「……はい……」

「あなたはこの家の子ですか?」

「違います」

「えっ」


 前提からして覆された。


「この家の子供……じゃない?」

「違います……」

「あ、すみません、泣かないで、ごめんね」


 メガネの向こうの目がまたじわ、と滲んだので、私は慌てて謝った。


 閉ざされた暗い部屋にいて泣いていた、よその子供。

 かなりヤバそうな状況だ。


「あの、ご両親もここに? ここに来る用事があったんですか?」


 男の子は涙を拭きながら、ぶんぶんと首を横に振る。


「連れてこられたんですか?」


 男の子はやっと頷いた。

 ヤバそうというか、ヤバい状況だということが確定してしまった。


「えぇと……、私もここで迷ってまして、帰りたいんですけど、道とかってわかりますか?」

「……出られない……」

「ああ、雨が降るから?」


 この建物は、外に出ようとすると豪雨が阻止してくる。そのせいかと尋ねると、男の子はちがうと首を振った。


 どぉん、と地響きがする。


 ヒッと男の子が息を呑んで、私にしがみつくようにして隠れた。ぶるぶる震えている。

 地響きはどぉん、どぉん、と続いて、それが少しずつ大きくなってくるように感じた。


「鬼がくる!!」


 なるほど。

 鬼が来るので外に出られないらしい。


 原因がわかったものの、代わりにかなりヤバい状況だということが確定したのだった。






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― 新着の感想 ―
[一言] 本格的日本式ホラーゲームぽいのに、紛れ込んだ世界観の違うゲームの一般人感、たまらんすね(金龍くっつけた一般人がいるのかはともかく)
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