ヒロエヒロエ2
珊瑚のかんざし、大中小のお椀、箸、金糸の刺繍がある袋、高そうな漆塗りの箱、コイン。
「いりません。ごはんもいりません」
何度私が断っても、何かしらの物が私の元へと勝手に集まってきた。近付いてくるのはまあいいとして、勝手にポケットに入るコインはほんとやめてほしい。コイーンって鳴ったのも一回だけなのに、もう5枚くらい出てきている。うち一枚はなんか江戸っぽい大判小判的なものだ。
お金は確かに欲しいけど、こういうのは困る。私はお給料が欲しいのであって文化財は欲しくない。コイーンも欲しくない。
周囲がモノで囲まれ始めたので、私は立ち上がって移動することにした。土間は雨風で阻止されるので、奥に進むしかない。
「すみませーん、お宅の物がちょっとあの、困るんですがー」
声を掛けながら奥へ続く引き戸を開けてみるけれど、やっぱり返事はなかった。ゲームの音も相変わらず聞こえるし、後ろを振り向くとお椀やら座布団やら高そうな品物やらがだるまさんがころんだ状態。もう振り返らずに行こう。
奥へと続く長い廊下の左側には、上半分がガラス、下半分がすりガラスになっている格子の戸が並んでいた。外は森というよりは庭という感じで、手入れされている木が岩や池と合うように配置されている。蝶々が飛び、鳥の鳴き声が聞こえる。陽の光で柔らかな色合いになっていてとても朗らかだ。試しに開けてみたら土砂降りになったので、外には出られない仕様らしい。
反対の右側には、ふすまが並んでいた。これまた金箔が貼られて豪華なふすまで、それが長ーく続いている。ものすごく大きな部屋があるのか、何部屋かがつながっているのかはよくわからなかった。
なんとなくイヤな予感がするので入らず廊下を進むと、背後でふすまの開く音がする。振り向いてみると、金色の盃が追いかけてくる物群に加わっていたので見なかったことにした。
「すみませーん、お邪魔してますー。いらないんですがー」
ほがらかな景色、高そうなお屋敷、そしてゲームの音。しばらくそれが続いて、それから渡り廊下のようなところを渡った。石畳が敷かれていて屋根が付いているそこは、両側がとても美しい庭になっている。猫の鳴き声も聞こえていた。
大きい日本家屋だったけれど、流石にこれは長すぎじゃないだろうか。
10分ほど渡り廊下を歩いて反対側に辿り着き、またお邪魔しますと声を掛ける。やっぱり返事はない。振り向くと、付いてきていた高そうなモノもいつのまにかなくなっている。諦めてくれたようでホッとして、私はまたお屋敷にお邪魔した。
「すみませーん、どなたかいますかー」
豪華な襖や明るい廊下があった先程の建物とは違って、ここは木造だけれど重厚な感じがする建物だった。黒っぽい木の柱はゴツゴツと節が残っているものだし、壁は真っ白な漆喰で統一されていて寒々しさがある。廊下は広いけれど雨戸が閉ざされていて暗く、高いところにある小さい四角形の穴からかろうじて歩ける程度の明かりが入っていた。
なんだか全体的に雰囲気が暗い建物だ。
私はスマホのライト機能を使い、目を凝らした。
暗闇に飲まれている廊下の先をじっと警戒する。
「……よし」
とりあえず、怪しい気配はない。私は武器をポケットにしまって周囲を見渡した。
左右に伸びる廊下、正面には鬼が描かれた大きな屏風。その向こうに大きな階段。
どこを照らしてみても人の気配はない。空き家だともっと虫の気配がするので、誰かが住んでいるのは確実だと思うけど。
「あれ?」
右側の廊下に近付くと、ゲームの音楽が小さくなることに気が付いた。というよりは、いつのまにか音量が小さくなっていて、左の廊下に近付くとそれが大きくなっている。
左に何かあるのだろうか。スピーカーとか。
いくあてもないので、とりあえず音源がありそうなところを目指して進む。ひんやりとした感覚を足裏に感じつつ暗い廊下を進んでいくと、電子音が段々と大きくなった。やがて大きな木のふすまの前でそれが最大になる。
ここに何かがある。
深呼吸して、私は武器を構えるべく再びポケットに手をやった。
またコインが出てきた。
廊下に置いて、気を取り直して構える。一瞬置いてから、戸を思いっきり引いた。




