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憑かれた私と怪しい男  作者: 夏野 夜子
第3章 マヨイヨマイ

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ヒロエヒロエ1

 開けっぱなしの戸の向こうから見える外が、ほがらかに晴れている。

 しかしこれが一歩土間に降りようものなら土砂降りに逆戻りし、風が容赦なく雨を屋内に運び込んできた。流石に知らない人の家をびしょ濡れにするのもどうかと思うので、私はたまに呼びかけつつも誰も答えない日本家屋でじっとしているしかなくなる。


「……」


 近付いてきている。

 座布団が。


 布製の座布団ではなく、なんか藁的なものを編んだ丸い座布団である。囲炉裏のすぐ近くにあったはずのそれが、部屋のヘリに座って土間の方を向いている私の方へ近付いてきていた。動いているところは見えないけれど、振り返るたびにじわじわと距離を縮めている。

 とうとう、私に触れるかどうかの距離にまで近付く。見回しても相変わらず誰もいないし、耳をすませてもゲームの音が鳴っているだけだ。


「……あの、おかまいなく。お邪魔しているだけなので」


 どこにともなく言ってみる。しかし座布団は私に近付いたまま動かなくなり、戻ってはいかなかった。それどころか、次はお椀が近付いてくる。熱々の汁物が入っているお椀。お箸付きである。

 お椀とだるまさんが転んだをしただなんて、さすがに勅使河原さんでも経験してないのでは。


「……あの、お腹も空いてないので、本当におかまいなく。雨が止んだらすぐに出ていきますので」


 早めに声に出してみたけれど、お椀は見るたびに近付いてやっぱり至近距離にまでやってきた。もう何なの。

 ゲームのBGMは、タイムオーバーが近付いてテンポが速くなったりしたものの、特に何も起こることなく水中面のテーマ曲やらボスのテーマ曲やらを勝手に流していた。ここまで当然のように流されると、こちらも普通の環境音かと思うくらいだ。


 相変わらず、勅使河原さんと連絡は取れない。

 こんな状況になるなら、私も除霊的な何かを習っておけばよかった。というか、勅使河原さんは今大丈夫なのだろうか。

 さっき電話したときは、勅使河原さんは自分の状況については何も言っていなかった。まさかまだ森を彷徨っているということはないと信じたいけれど、小古路村に迷い込んでいたりしないだろうか。


 勅使河原さん、電話でこっちのことを「なんかめんどくさそう」とか言って心配してたけど、もしかしてこのことだったのかな。


 電話したときはてっきり小古路村のことについてだと思っていたけれど、あの怪しげな状況は龍のジャーマンナントカでアッサリ解決してしまった。解決の兆しが見えないのはむしろ今の状況だ。というか、小古路村は大丈夫なんだろうか。今のこの状況が現実なら、はじめくんは村にひとりきりになっているわけだし、ちょっと心配だ。そもそも私は、どういう仕組みでこんなところに迷い込んだんだろう。


『早乙女さん、キツネやタヌキに化かされたときはね、タバコを吸って一服するといいんだよー』


 いつかの勅使河原さんの言葉が蘇る。煙だか火だかが効くとも言っていた。

 そして私は「勅使河原さんってタバコ吸うんですか?」と聞いたのである。答えはノーだったし、私もノーだ。いざというとき用に持ち歩いてもいないらしい。あの知識、勅使河原さん本人も活かすチャンスがないのでは。

 とりあえず、ポケットのスプレー缶を確かめた。聖水、と書かれたそれは、しっかりした感触で存在していたし、振ってみると容量もいっぱいある。とりあえずは大丈夫そうだ。


「あれ?」


 ポケットにまだ何か硬いものがある。

 探ってみると、冷たい感触がした。とりあえず握って出す。

 手を開いてみると、そこにあったのは金色の小判だった。


「……コイーン?」


 そういえばさっき、なんかコインを出したっぽい効果音がしていたけれど。

 音がしたと思ったらポケットに何かが、なんて、マジックショーか何かだろうか。


 とりあえず、コインを座布団の上に置いておいた。

 この家でコイーンとなったのだから、この家のものともいえるだろう。本物っぽい感触がするので、持って帰るのは気が引ける。

 出てきたのが大きくなるキノコじゃなくてよかったな、と思った。ポケットにキノコは虫を寄せそうでイヤだ。


 ゴトリ


 音に振り向くと、座っているところから3メートルの距離に花瓶が置いてある。なんか高そうな感じだった。


「……」


 なんか近付いてきそうなので、振り返るのをやめて膝を抱える。

 すると、足を置いていたところになぜか金色の箸が転がっていた。


「……」


 傷を付けないようにそっと拾って、座布団の上に置く。

 すると上から降ってきた何かが、カポっと私の頭にかぶさった。硬い感覚のそれを恐る恐る取って見てみると、漆塗りの大きなお椀だった。


「……」


 高価な品物を押し売りするタイプのゲームBGM付き無人の日本家屋。

 勅使河原さんなら、このカオス具合でももしかしたら楽しめるのかもしれない。

 後で見せよう、ととりあえずスマホのカメラを起動させた。カメラ越しに、ファサッと高そうな布が木の床に落ちてきた。

 いりません。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 歓迎してくれているのかなー? どうぞ使って♪(〃゜∇゜)っ”とばかりに過ごしずつ近づいてくるの可愛い。 …でもオカルト系は出された食べ物は黄泉戸喫の可能性高いから食べられないですよねー。 …
[一言] 迷い家なんかな。
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