かげのおり4
打ち合わせが終わると、あとは大体ヒマ……いやゆっくり仕事を進められる。
仕事内容が普通じゃないので、ご依頼主との打ち合わせは1日に1件2件あるかどうか。お祓いの仕事は、現場に出かけるものは1日につき1回で、それも週に3〜4回。依頼主自身が事務所に来てお祓いするときは多くて1日3人までだった。打ち合わせもお祓いも、それぞれ最長でも2時間いかないくらいである。9時5時の仕事なので、毎日のスケジュールには余裕がありまくりだ。
今日も打ち合わせの後は何もないので、適宜おやつ休憩を挟みつつ、私は今日の打ち合わせのスケジュールをパソコンに入力したり、依頼の電話を(2回くらい)受けたり、本棚に並んでいるオカルト雑誌のバックナンバーを読みふけったりなどの仕事をした。
ちなみに勅使河原さんはずっとパソコンの前でウンウン唸っていた。
「ねえ早乙女さん。ピンクのTシャツってどう? 着る?」
「着ませんけど」
「貰ったら着る?」
「貰いものなら何色でも着ますけど、あまり派手な色だと恥ずかしいので部屋着にしますね」
「そっか……派手じゃないピンクね……」
それから勅使河原さんはどこかに電話して「デザインが」だの「ロゴが」だのとあれこれ相談していた。これからスタッフTシャツを発注するような気がしたけれど、17時になったので頭を下げて帰る。
ちょっと暇だったりもするけれど、残業もなく、ノルマもなく、事務所にいれば虫もいない。まだ明るい街を職探しの絶望なくゆっくり帰れるのは、毎日噛み締めてもおいしいスルメのような幸福だ。
「うっ」
急にズシッと首回りが重苦しくなって、私は立ち止まった。細長いショーウィンドウのガラスで身なりを整えるフリをしつつ、手で肩周りを払う。
勅使河原さんによると、私に取り憑いている龍は、なんか力が強いらしい。そしてその強い力が周囲に充満することで、取り憑かれている私に微妙な慢性的体調不良が起こるようだ。
お祓いの現場に行くと龍が活発になるのでその力が発散され、そして私の慢性的体調不良が解消される。なので普段は健康になったけれど、その分突発的な頭痛(甘噛みらしい)や肩凝り(ぐるぐるに巻きついているらしい)に気付きやすくなった気がする。
見えないし触れないのだから、重さも感じないようになってほしい。
そう思いつつ肩あたりを払っていて、ふとガラスの向こうのお店に目がいった。
「あ」
薬局だ。そして、今日は殺虫剤を買おうと思っていたんだった。定時帰宅に心を弾ませていてすっかり忘れていた。
もしかして、龍はそれを思い出させようとしたのだろうか。
「……」
ありがたいような、もっと別の方法で教えてほしいような。
お礼を言ったらまた頭痛が起きそうなので、私は無言でお店の中に入ることにした。
スマホを片手に、棚を見渡す。
企画書には「神社跡」と書かれていたけれど、後で調べてみると神社を取り壊した後に住宅が建てられたらしい。広めの敷地に住宅があり、神社は裏庭に小さく建て直されたのだそうだ。現在はどちらも廃墟となっているとか。
「つまり雑草生え放題、かつ住宅だからアレが出て……生活感残ってると哺乳類の可能性も……そういえば前に木造でシロアリがいたんだった……」
最近の殺虫剤は、敵に合わせて様々なものが売られている。全部持っていきたいけれど、スプレー缶は音を立てやすいので撮影の邪魔になりそうだ。万能のやつの大きいサイズを1本、それから氷殺も持っていきたい。
もしかしてこのサイズ、ペットボトルカバーに入るのでは? だったら静かに取り出せる。用途がわかりやすいように上部にペンで印をつけておけば……
「早乙女さん?」
「はい?」
我ながらいいアイディアを思いついて考え込んでいると、横から声がかかった。
顔を上げて、あ、と声を出す。
「えーと、浦上……さん?」
帽子とマスクを被った男性にそう聞くと、浦上さんは目元を細めて頷いた。




