かげのおり5
「偶然だね。もしかして早乙女さんもこの辺住み?」
「はい。浦上さんも最寄り駅ここなんですか?」
ここのドラッグストアはなかなか大きいけれど、この辺の住宅地はそもそも家賃がそんなに高くないエリアだ。浦上さんは髪も綺麗に染めてるし服装にもお金をかけてそうなので高い部屋に住んでると思ったけど、好きなものにお金を回して節約するタイプなのだろうか。ちょっと親近感が湧いた。
「うん。駅の向こうの高層マンションわかる? 最近そこに引っ越してきたんだよね」
「そうなんですか」
「そう。前住んでるとこでちょっとストーカーされてね。人通り少なめのとこに越してきた」
湧いた親近感が消えた。
この駅前に唯一の高層ビルは、駅のこっち側からも見えるほどに高くそびえ立っている。見るからに高そうというか、値段も座標も高そうというか、とにかく私には縁のない感じだ。しかも前に住んでいたところは都心ど真ん中だった。この人も金持ちか。
「早乙女さんは家どの辺?」
「あー……あの、ここからずーっと向こうに行ったあたりです」
「そうなんだ。この辺長いの? 引っ越してきたばっかだからオススメの店とか教えてほしいな」
一人暮らしを始めてから一度も引っ越ししていないのでそこそこ住んでいるけれど、私が知っているオススメの店は値段が安いスーパーとか、特売が多いスーパーとか、おまけでパンの耳をくれるパン屋とかしかない。
若くておしゃれな男性が求める「オススメの店」とは程遠い気がするのでスーパーだけ教えると、意外と喜んで感謝された。
「浦上さんも自炊するんですか?」
「え、普通にするよ? 外食多いから体調崩さないように、家で食べるときはほぼ自炊かな。野菜中心で」
めちゃくちゃ健康的だ。半額惣菜を買う私よりも家庭的だった。
「教えてくれてありがとう。そうだ、これも何かの縁だし連絡先交換してもらっていい? この辺の話聞きたいし仕事も当日現場で連絡とるかもしれないから」
「あの、そんなに情報教えられるほど詳しくないんですが」
「いやストーカーのこともあってちょっと外探索しにくくてさ。ちょっとでも教えてもらうと助かる」
「あ、そうですよね」
打ち合わせの雑談で、有名になって人に声をかけられることが多いと言っていた。せっかくトラブルを避けてさびれた街に来たのに、無意味にウロウロしたらファンの人に見つかってしまうかもしれない。
私は浦上さんと連絡先を交換した。有名な人は大変だ。
「お礼っていうほどでもないけど、帰り送っていこうか? 横ちゃんが車で待ってるから」
「えっ、いいですいいです。歩いてすぐなんで」
「もう外暗くなるし、僕も帰るついでだから」
「全然平気です。あの、これから買い物するし、お気持ちだけで」
わざわざ送ってもらうほどの距離でもない。駅向こうの高層マンションも正直歩いてすぐだけど、マネージャーとかいる人は車移動に慣れているようだ。
正直、うちのボロアパートに車でご帰宅はちょっと恥ずかしい。私はしっかり断ってから浦上さんに別れを告げ、殺虫剤を持ってレジへと向かった。
浦上さんはここに引っ越してきたから、近くで事務所を開いている勅使河原さんを見つけて依頼をしたのかもしれない。お祓いは怪しい仕事だけに口コミで探す人が多いようで、遠方から遥々やってくる人もいるけれど、逆にこれほど近所の人は初めてな気がする。
浦上さんの場合、持っている不動産や個人へのお祓いというわけではないので、1回きりで終わらない可能性がある。勅使河原さんとの撮影がうまくいったら次の機会も連絡してくれるかもしれない。勅使河原さんも浦上さんとの仕事を楽しみにしているようだし、お祓い中は意外としっかりしているので撮影でもヘマはしないだろう。
依頼料も良かったのでリピーターになってくれたらいいなと願いつつ、私は店を出た。
「うっ?」
またぎゅうぎゅうと肩が重い。
殺虫剤はしっかり買ったのに、と思いながら肩を揉むと、コンビニが目に入った。
何故コンビニ。
夕飯の買い物はスーパーで買うので、コンビニで必要なものはない。というか今までも仕事中くらいしか入ったことがないのに。
肩凝りを感じつつもそのまま家に帰る。やはり肩の重みは龍の合図だったのか、その後は一晩中ずっとミシミシパキパキとラップ音がうるさかった。




