かげのおり3
動画は、まず現場の前で軽い挨拶や勅使河原さんの紹介、いわくつきの場所について軽く説明し、実際に中へと入っていく様子を撮影する。それほど広い敷地ではないので全体を回りながら撮りつつ、気になった場所については時間を割く。
カメラは浦上さん本人が持っているものの他に、撮影係がひとりついていって撮る。他にも小型のデジカメを渡すので、勅使河原さんや私に回しておいてほしいとのことだった。
「えっ私もやるんですか?」
「なるべく色んな画が欲しいんで、同行されるならお願いしたいです。顔出しNGであればマスクとかお面とかでご対応頂いても全然構いませんし、もしそれもダメだったらモザイクとか加工で切り取るとかもアリなんですが」
まさか自分も動画に映る可能性があるとは思っていなかった。
どうしよう。そんな気持ちで勅使河原さんを見る。
「早乙女さんが決めていいよ。この物件だと早乙女さんも入れると思うけど、動画に撮られるのが嫌だったら外で待っててもらってもいいし」
「えー……うーん……顔映されるのはちょっと嫌ですかね……」
「あ、じゃあ助手さんはお面とかマスクとかあれば大丈夫ですか?」
「そう……ですかね」
横瀬さんは、わかりましたと頷いて手元のタブレットに何か書き込んでいた。
主役は浦上さんと勅使河原さん、そして心霊スポットなので、脇役な私が映ったところで誰も気にしないかもしれない。けれど、そもそも動画に映ること自体慣れてないので、何か変なことをしてしまったりしそうという不安もあった。
必要がないならうつらないでおきたい。いつもなら何も気にせず歩いていくけれど、この件ではカメラの邪魔をしないようにする必要があるのだと気が付いた。殺虫剤も静かに使わないと。考えていると、浦上さんが話しかけてきた。
「早乙女さん、もし知り合いにバレるのが困るとかであれば、服装とか時計とか普段のものと変えるといいですよ」
「あ、なるほど」
「夏なんで長袖は暑いし腕とかは見えたりしますが、大きめのTシャツで体型隠すとか……もしよかったらうちのスタッフT貸すので」
「うちもスタッフTシャツはあるのでおかまいなく!!」
「えっ」
浦上さんの親切な申し出を遮るように、勅使河原さんがぴっと手をあげた。浦上さんはそんな態度にも気に障った様子を見せず、だったら安心ですねと笑顔で頷いている。
「……あの、そんなのあるんですか?」
「ある」
今まで一度も見たことないんですけど。
怪しみつつ聞いてみたけれど、勅使河原さんは力強く頷いた。
「2週間後なら絶対ある」
……今から作る気なのでは。
勅使河原さんの自信満々な頷きによって、結局私は当日はスタッフTシャツ着用、顔は何かで隠す形で参加することになった。
引き続き、横瀬さんが説明を続ける。土地の権利者の方に許可貰ってるので、立ち入りも撮影もかなり自由にできるらしい。隣の住宅とは距離があるけれど、不法侵入を疑って通報されても大丈夫なように管轄の警察にも連絡入れておくようだ。
想像している肝試しよりもかなりしっかり段取りされていて驚いた。廃墟の除霊などを依頼してくる人から「無断で立ち入って荒らす人が多くて困る」と聞いたこともあるので、問題にならないように気を遣っているようだ。
肝試しに入ってスプレー缶で落書き程度ならまだいいけれど、花火や焚き火は火事の危険性もあってすごく困るのだそうだ。万が一燃えたら周囲に迷惑がかかるし、放火だとしても犯人がわからなければ責任が問えない。有名な心霊スポットになるほどそういう迷惑行為が増えるので、さっさと更地にして対策する前に一応お祓い、という依頼は多かった。
「じゃあ、具体的な流れについては当日の現場次第ってとこもあるので、とりあえず大枠は企画書の通りで進めていいですか?」
「はい。こちらとしては問題ないです……が」
「が?」
順調に喋っていた横瀬さんが笑顔で首を傾げる。
書類に目を落としていた勅使河原さんは顔を上げると、横瀬さんではなく浦上さんの方を見て言った。
「浦上さん、わかってると思いますけど、神様に無用な手出しすると大変なことになりますよ」
「……はい、重々気をつけます」
真剣な勅使河原さんの眼差しを受け止めた浦上さんは、笑顔のまま少し固まったけれど、今までと同じ爽やか笑顔で頷いた。
企画書に載っている住所は隣県のもので、地名に見覚えはない。
ただ、注釈として「元神社跡」と書いてあった。




