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憑かれた私と怪しい男  作者: 夏野 夜子
第2章 夏の影

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かげのおり2

 マネージャーの横瀬さんも男性で、服装はオフィスカジュアルといった感じだった。髪も染めてカジュアルにセットしているし、おもちゃのブロックみたいな時計をしている。スーツ必須か制服の職場しか体験してこなかった私からすると珍しいタイプだ。

 その横瀬さんが薄いタブレットを取り出してテーブルへ置く。


「資料を持ってきたんですが、データで送ります? それとも紙?」


 なんか先進的な提案だ。

 私が勅使河原さんを見ると、勅使河原さんが笑顔で「紙でお願いします」と言った。

 勅使河原さんが新しいもの好きなのでこの事務所にもタブレットはあるけれど、勅使河原さんが暇なときに遊ぶ用だ。現場にタブレットを持っていくときは、待ち時間が予想されるときに映画を見る用である。勅使河原さんは観たい映画を外でダウンロードするので、データ通信恐怖症の私はいつも不必要にソワソワしてしまう。


 うちに依頼に来る人で現場の資料を持ち込む人は、大体がプリントだ。起きている現象や状況を手書きでメモしてくる人も多い。今回のようにデータで持ってきた人は初めてだった。

 渡されたA4サイズの紙を、勅使河原さんと一緒に覗き込む。

 最初のページに「企画書」と書かれた資料を持ってきた人も、初めてだった。


「ヤヒトチャンネルは色んな動画出してるんですけど、やっぱりメインは初期から出してるオカルト系でして」

「最新のオカ動まとめ、こないだ急上昇に載ってましたよね」

「あ、そうなんすよご覧になっていただいてましたか! ありがとうございます!」


 勅使河原さんは浦上さんの動画を見たことがあるらしい。横瀬さんと浦上さんが笑顔でお礼を言っていた。私もチラッと見られたけれど、もちろんよくわからないので笑顔のままでその場をやり過ごす。


「動画はヤラセとか言われることも多いんですけど、うちのヤヒトは本当にそういったものを見る力がありまして」

「あの、本業の方を前にしたらもう全然ってくらい、ほんとにごく軽く見えるくらいなんですけどね」

「いや、私が言うのもなんですが中々のものでして、心霊スポットのいわくとかを言い当てたりすることもあるんですよ」


 意外な事実だった。

 若者の街甘谷や渓袋で歩いていても周囲より一段オシャレな位置にいそうな若者らしい若者という外見だけれど、浦上さんも勅使河原さんと同じような力があるらしい。

 ここのバイトで見かける勅使河原さんの同業者は、ちょっと怪しげというか、世間とは少しズレたファッションをしていることが多い。しかも年代はちょっと上なことが多いので、普通の若者みたいな人は珍しい。午前に会った神宮寺さんもスーツだったけれど、その辺に売ってそうなスーツじゃないし、なんか本人が輝いていたので普通じゃなかったし。

 まじまじと見ていると、浦上さんが私の方を見た。


「あ、疑ってます? やっぱ怪しいですよね、こういうとこでいきなり『俺もですー』とか言うの」

「いえ、そういう意味じゃなくて、あの、珍しいなと思っただけで」

「こういうとこで働いてても珍しいって思うんですね。早乙女さんは……」

「あ、私はそういうのは全然見えないわからない何もできない普通の人です。事務のバイトです」

「えーそんな否定するの逆に怪しいなー」

「怪しくないです」


 私と会話している間、浦上さんの視線はずっと私を見ていた。霊は見えても龍は見えないタイプらしい。見えて逃げられて依頼がなかったことになっても困るのでそこはよかった。


「早乙女さん、浦上さんはほんとに見える人だよ。動画でも、かなり狙って心霊スポットの怪しい部屋とか踏み込んでるし」

「え、マジですか? ヤヒト本人もそう言ってるけどスタッフは全然わかってないこと多くて……やっぱそういうのわかります?」

「わかりますよ。刑場跡の動画とか、見る人が見るとかなり映ってますから」

「え! 2年前のっすよね? あれそんな撮れ高ないと思ってたけど、マジかー! 俺たまたま撮影ついて行ってたんですけど、なんか憑いてたりします?」


 勅使河原さんが肯定したので、浦上さんが「見える」タイプなのは本当のようだ。本業の勅使河原さんが肯定したのが嬉しかったのか、マネージャーの横瀬さんも笑顔で盛り上がっている。

 いつも依頼してくる人は緊張してるか恐怖や胡散臭さで身構えているかで打ち解けにくいので、勅使河原さんも和気藹々とした関係が嬉しいようだ。あの動画がとかいつの配信がとかあれこれ話している。いやこれは単に動画のファンなのかもしれない。

 黙っていると話が進まないようなので、私は資料をめくってきっかけを探した。


「えーと、今回のご依頼は、その動画撮影に同行するということでしょうか?」

「そうなんです。オカルト系動画でも人気なのが『殺人現場検証シリーズ』なんですけど、今回はちょっといわくがすごくて、ヤヒト本人もちょっと身の危険を感じるらしくて」

「スタッフとかの安全もありますし、万が一のためにも一緒に来てくれる方を探してるんです」

「なるほどわかりました。私が協力させていただきます」


 即答だった。

 殺人現場というだけで物騒だし、シリーズ化してるのもどうかと思うし、さらにいわくつきなんて見るからにヤバそうだというのに、即答だった。

 勅使河原さん、大丈夫なんだろうか。動画への憧れで即答したのでは。


 ちょっと疑いを持ちつつ勅使河原さんを見ていたけれど、資料の3ページ目に書かれていた料金を見て、私の心も決まった。今月のお給料大幅増額も決まった。

 勅使河原さん、頑張って依頼を達成してください。






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― 新着の感想 ―
[一言] 龍連れてっちゃって大丈夫なんですかねえ。 動画撮る前に全てを吹っ飛ばしちゃいませんかねえ。 逆に建物も壊してポルターガイスト扱いになるかもですが。
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