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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第二章『消失技術の記憶』
141/143

044(137) 『選別(セレクション)』

第二章044です。


投稿が予定より二週間も遅れてしまい申し訳ありません。


 シュメールのピラミッドから、ザラが住居を構えているメリーランドの空間断層へと足を踏み入れた。

「随分と濃い時間を過ごしてしまったせいか、ここへ戻ってくるのが懐かしい気持ちでいっぱいになるな」

 ダリウスが誰に同意を求めることもなく呟いた。随分と大きな独り言ではあるけれど、ダリウスの気持ちはよくわかった。

 シュメール文明が残した亜空間へ移動して此処へ戻るまで、探索と戦闘に新たな情報が盛り込まれすぎたせいだ。

 

 玄関を通り過ぎた辺りでザラが「私たちは先に作業に入ります。初めて顔を合わせたあの部屋で今しばらくお待ち下さい」と言い残して、ザラとフリージアは僕らと分かれた。

ザラに言われた通り僕らは初めて顔を合わせたリビングへと繋がる扉を開いた。初めて会った時は適正者が全員座れるほどの椅子と大きなテーブルがあったはずなのだが、しかし目の前に広がる部屋の内装は様変わりしていた。

 漆塗りのローテーブルにL字型の大きめのソファーが用意されていた。

 壁の色も淡い青で、眼にも優しかった。

 テーブルにはすでに人数分のマグカップが用意されている。ほのかに湯気がみえる。此処へ戻って数分と経っていないのに用意がいいとしか思えなかった。

 もう何度となく『突如として現れるナニカ』を目撃していたけれど、いまだに慣れない。

 みんな顔には出さないけれど内面は驚いているに違いないと確信しつつ、柔らかそうなソファーに腰を下ろしてマグカップに両手を添えた。

 包み込んだマグカップからは人肌よりもやや熱いくらいだった。香りからして紅茶で、一口飲んでみるとダージリンの香りが口内から鼻に抜けていく。その香りとともに溜め込んでいた疲れが溶けていくようだった。

 紅茶の風味を密かに楽しんでいると、僕の隣にはシルヴィアが座り、同じく紅茶を飲んでいた。

「これ、美味しい。ね?」

 先程のこともあり、即答はできなかったが「うん、そうだね」と紅茶を飲みながら場の空気を濁した。

「まったく、よく呑気に茶なんて飲んでいられるな」

 いつもの陽気な感じではなく、気が急いでいるようにも見える。

「俺たちの仲間がようやく復活するかもしれないっていうのに」

「私たちは待つことしかできないじゃない。色々とあったけれど、あとはザラたちに任せましょう」

 イリアがダリウスの肩を軽く叩いて、ソファーの恥に座り、用意されていた紅茶に手を伸ばした。

「イリアの言う通りだ。出産の立会でもあるまいし。だからこそ、ザラがこうして紅茶を用意したのだろう。つまり、いまは待てということだ」

 イリアに続いてハインも腰を下ろして、長い足を組んで優雅にマグカップを手にした。

「どいつもこいつも。悠長な奴らだぜ!」

 ダリウスはハインとシルヴィアの間に座り大股を開いたまま腕を組んだ。

 用意された紅茶が半分くらいになったころ、ハインが口を開いた。

「死んでしまった奴らが戻ってきたら、その後はどうするんだ?」

「それ、シンゴとも話したわ。色々と考えたけれど、やっぱりいっぱい怒って上げるつもり」

 シルヴィアが喜々として答えると、ハインは首をかしげて軽く笑って「それもあるけれど」と彼女の解答を肯定しつつ、質問の真意を口にした。

「俺が言う『その後』というのは、そういった個人的で私的な諸々が終わった後だ。みんな国に戻って一ヶ月後に備えるつもりなのか、それともやりたいことがあるのか、そういうことだ」

「そりゃ元の生活に戻るのが自然だろ」

 当然だと言わんばかりにダリウスが答える。

「ここは俺の国だから戻ると言い方にはならないが、奴らと一緒に生活した街に戻って旨い酒を飲んで飯を食って、バカやってその日に備えるさ」

「お前はそうだろうな」

 ダリウスの答えにハインは笑った。

「何がおかしいんだ?」

「待て待て。こういう時に喧嘩腰になるのはキャラクターで言えば俺だろ? お前がそうなってどうするんだ。第一、バカにしたつもりはない。お前は良いやつだよ。嘘じゃない。友人を思いやれる良い男だ。そう思えたから、そうだろうと言ったのさ」

 ハインは熱くなるダリウスを柔らかい口調で諭した。

「お前はどうなんだよ。国には帰らないのか?」

 意趣返しのつもりでダリウスが問う。

「俺も帰るさ。でも、数日と居ないだろうな」

「家族とは過ごさないのか?」

「年の離れた姉がいるが彼女には新しい家族がある。旦那さんもいい人でさ。俺がおかれている立場を理解してくれているとは思うが、迷惑はかけられん」

「何を言っているのよ。迷惑を掛けるかもしれないのが家族なんじゃない。それともお姉さんのほうが受け入れてくれないの?」

 ダリウスの横からイリアが顔を出して口を挟んだ。

「いいや。姉さんも理解をしている、みたいなことを言ってくれた。でも、ダメだろ」

「ダメって。あんたも相当ひねくれているわね」

「違うだろ?」

「何が?」

「俺たちは適正者だ。そして命を狙われている」

 そう言って、ハインは最後の一口となった紅茶を飲み干した。

 ハインが作った重い空気が一瞬の間を作らせた。

「それは僕たちだけでなく家族までもが狙われる可能性があるということかい?」

 僕の一言で束の間の集中を浴びるが、その視線はすぐさまハインに戻された。

「大いにあるだろう。適正者でもないただの人間なんて、蟻を潰すよりも簡単だ。いや、すぐには潰さない。人質にするなり、なんとでもするさ。人らしさを残した適正者には合理性なんて働かない。どうしても感情を優先する。それが大きな穴だ。楽しいひと時が、一秒先には惨劇に変わっているかもしれない。俺はそれが恐ろしい。だから、一緒にはいるつもりはない」

「適性者と普通の人の住み分けはもう各国で行われているようだけれど、たしかに私達の家族も守ってもらわないといけないよね」

 シルヴィアは口に運ぶはずのマグカップを両手に持ったまま呟く。

「もし本当にそんな事をするのだとしたら、あいつら本当に人外ってことになるな」

「あくまでも可能性の話しだが、否定はできないだろ? シンゴやザラの話を聞く限り、黒の創造主の根源にあるのは『楽しむ』ことだ。非人道的であってもそれが奴にとって楽しめる催しであればそれでいい」

 実家にいる両親のことを思い出す。

 人である限り、誰かと関わりを持つ限り、人畜無害ではないけれど、それでも僕の両親はルーシェンヴァルラや白と黒の創造主のいざこざ、地球と異なる星との戦争なんて無関係だ。それなのに僕が適正者だからという理由で命の危険にさらされるのはあまりにも理不尽すぎる。

「違うか。戦争が始まっている時点で、地球人の誰しもが命を狙われているのか……」

「でも、真っ先に命の危険にさらされるのは、俺たちの関係者だ!」

 ダリウスは硬く握った拳をローテーブルにぶつける。

「その点は対策を考えています」

 いつのまにか、ザラが僕らの対面に現れていた。

「ザラ」

「具体的に何をするつもりなのか、教えてもらえるか?」

「まず、この戦争が終わるまでの間は各国の政府機関に適正者に深く関わる人達を集め守ることです」

「一か所に集めるほうが危険ではないのか?」

 ダリウスが怪訝な顔を見せる。

「完全なる安全保証はできません。しかし、護衛には私のクローンを配置します。覚醒状態の適正者に匹敵する能力を用いています。試作型、改良型であろうともすぐに打ち破ることは難しいでしょう。そして、彼もまた私がその対策をしていると踏んでいるはずなので、戦力を削いでまで適正者以外の人たちを襲うことはしないでしょう」

「……信用していいのか?」

 ダリウスの鋭い視線がザラを刺す。

「絶対、必ず、という約束は出来ません。ですが、出来る限りのことは行います」

「まるで日本人みたいなあいまいな答え方をするな」

「すみません」

「だがいい。わかった。俺たちは俺たちにしか出来ないことがあるんだからな……それでもだ。俺は僅かな時間でも構わない。家族と友人、そして恋人とともに過ごしたい。許された時間の中でな」

 それでも、とハインがザラに向けて手を向ける。

「俺は家族といるよりも、今後のことを考えたい。死んでしまった適正者の復活。それはただ蘇らせるだけでなく、これからの戦いに備えての頭数だろう。だが、実際に戦えるのはおそらく覚醒した適正者だけだ。残りの一ヶ月で俺たちがやるべきことは……ここから先はザラ、君が言ってくれ」

「どうやら、ハインさんはこちらの思惑をすべてご理解されているようですね」

「えっと、ごめん。あたしには話がぜんぜん見えてこないんだけど?」

 イリアがザラとハインの顔を交互に見る。

「覚醒因子を持った適正者の選別と、覚醒させるための訓練です」

最後まで読んで頂きありがとうございます。


来月の投稿は諸事情により確定することができません。

11月中の日曜日に投稿とさせていただきます。


お待ちしている方々には申し訳ないのですが、

よろしくお願いいたします。

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