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歪んだ世界の利権構造

至条総理が「聖母……聖母……」と限界オタクのようなうわ言を漏らしながら帰っていった翌朝。


俺は自室のベッドで、国家から支給された超高性能な情報端末を眺めながら、改めてこの世界の『構造』について思考を巡らせていた。


ネットの掲示板(5ちゃん風)は、昨日総理の公用車が我がクランに突入した件で、お祭り騒ぎを通り越してサーバーが物理的に悲鳴を上げている。


画面をスクロールしながら、俺はふと思う。


男女比1対50。


前世の感覚で言えば、1クラスに女子50人に対して男子が1人って感じなのかな。


確かに超絶モテるだろうし、貴重なのは間違いない。


だが、一国の総理大臣や、昨日出会った皇様のようなトップ麗人が、男が「普通に優しくしただけ」で、一瞬で脳をバグらせて跪くまでの狂気(神聖視)に至るだろうか?


実は、この世界には、現代日本の小市民マインドのままでは気づけなかった『ドス黒い現実と利権』が存在する。


それを知ったのは、俺がこのクランに配属(?)された初日のことだ。


国家の管理官である怜華さんから手渡された、分厚い契約書と世界情勢の資料。


そこに書かれていた事実は、この世界の歪さを物語っていた。


まず第一に、1対50というのは、あくまで『出生率』の話だということ。


この世界の男という生き物は、染色体の関係か、生まれつき身体的にも精神的にも極めて脆弱なのだ。


成人するまでに病気や、ちょっとした精神的ストレスで大半が脱落してしまう。


結果として、五体満足で元気に生きている「成人男性」の実質的な比率、社会全体でみれば【1万対1】に近い。文字通りの絶滅危惧種なのだ。


だからこそ、国は天文学的な国家予算を投じて、俺たちが住む『クラン(シェルター)』を作り、ただ生きていてくれるだけでベーシックインカムをジャブジャブ与える。


そして第二に、なぜ現地の男たちが全員「料理を床に投げ捨てる」ほどのクソ野郎に育つのか、そしてなぜ女性たちがそんなクソ野郎のお世話係クランに命懸けで応募するのか。


そこには、純粋な恋慕などではなく、『圧倒的な現実のメリット』が存在した。


この世界の法律では、男様を預かる「クランの職員」に選ばれた女性、およびその親族一族は、『あらゆる国家税金が免除され、一族全体の社会的ステータスが最上級に跳ね上がる』という、チート級の特権が与えられるのだ。


つまり、女性たちにとってクランの仕事は、恋活ではなく『一族の繁栄を賭けた、絶対に失敗できない国家ビジネス』。


現在の男たちが「飯がまずい! 床に捨てるぞ!」とキレ散らかすのは、いわば猛獣が元気に吠えているようなもの。女性たちも内心では、

(よしよし、今日も元気にワガママを言っているわね。これで我が一族の免税特権は安泰、ビジネス成功ね)

と、割り切って、猛獣の機嫌取り(ビジネス奉仕)をしていたに過ぎないのだ。


そう――俺が現れるまでは。


「はぁ……」


俺はベッドの上で、大きくため息をついた。


そんな冷徹なビジネス構造、あるいは猛獣使いの心理で武装していた彼女たちの前に、前世でデパ地下のクレーマー対応とホテルのバックヤードで『極上の社会性と感謝の癖』を叩き込まれた俺が放り込まれたら、どうなるか。


俺は床に飯を投げ捨てない。


綺麗にテーブルマナーを守って「美味しい、ありがとう」と料理人の裏方の苦労を労う。


着替えさせてもらえば「助かったよ、ありがとう」と、相手を一人の人間として尊重する。


街で人が転べば、前世のホテルマン仕込みの流麗なエスコートで無自覚に助け出す。


ビジネスとして、猛獣の飼育員として、冷徹に心を殺して奉仕していた怜華さんやツグミ、皇様や至条総理は、俺のその「普通の気配り」を喰らった瞬間、心の防壁ビジネスメンタルを木っ端微塵に粉砕されてしまったのだ。


『な、何このお方……ビジネスの機嫌取りじゃなくて、ガチで私を一人の人間として愛して、気遣ってくれている……っ!?』と。


結果、彼女たちは「ビジネスでの奉仕」から、本物の「狂信的なガチ勢(限界オタク)」へと一瞬でジョブチェンジしてしまった。


他区の男がただの『猛獣』なら、俺は文字通り、凍りついた彼女たちの心を救済する『聖母(神)』になってしまったというわけだ。


「……気づくのが遅すぎた。そりゃあ、国が大騒ぎになるわけだわ」


前世の職業病が、この世界の歪なシステムと噛み合って、とんでもない化学反応を起こしてしまっている。


コンコン、と部屋のドアが控えめにノックされた。


「聖様、怜華です。……少々、よろしいでしょうか」


「あ、はい、どうぞ」


入ってきた怜華さんは、昨日総理大臣を前にしていた時とは打って変わり、頬を微かに桜色に染め、借りてきた猫のようにしおらしい態度で、一枚の書類を差し出してきた。


「聖様……昨日の至条総理の視察の件ですが。……至条様より、我が第7区のクランに対し、『国家最高機密・第一種聖母保護指定』の通達が下りました。今後、当クランへの予算は従来の10倍となり、聖様が望まれるあらゆる物品の調達が、国家優先ラインで動くことになります」


「……じゅうばい」


予算10倍。もう数字が大きすぎて意味がわからない。


「そこで、聖様。……至条様より、深く反省を促す伝言がございます。『昨日は、聖様に最高品質の緑茶などという、淹れるのに多大な労力がかかるものを自ら用意させてしまい、国家として本当に申し訳なかった。聖様の手を煩わせた不徳、万死に値する』と……。つきましては、聖様が今後、一切の手間をかけずに水分と糖分を補給できるよう、国費を投じて新たな開発を行いたいと」


「……え?」


嫌な予感がする。


俺は昨日、総理にお茶を出した時、前世の癖でつい「胃に負担をかけないお茶を……」とこだわってしまった。それが、彼女の脳内で妙な形に変換されたらしい。


「聖様が、前世(伝説の聖職者時代)において、自販機と呼ばれる鉄の神殿で、安価に、かつ手軽に親しまれていたという『かんこーひー』という聖水……。その存在を至条様に報告したところ、直ちに動きがございました」


「え、待って」


「本日これより、国家最高峰のバリスタ10名、および日本の製缶技術の権威を集めた『聖母専用缶コーヒー再現・国家プロジェクト』が始動いたします。予算は初期投資で三億。数日中には、我がクランの庭に試作品を持ったヘリが着陸する予定です」


怜華さんは、聖画に描かれる聖母を拝むかのような、極上の忠誠と愛に満ちた微笑みを浮かべている。


俺はそっと、枕に顔を埋めた。

違うんだ。俺はただ、前世の仕事帰りに自販機で買った、あの130円のちょっと安っぽい微糖の缶コーヒーが恋しいな、とリビングで一言ボヤいただけなんだ。


国家予算三億。バリスタ10人。


俺の「普通の日常」がもたらす天変地異は、国家の最高権力をバックにつけたことで、いよいよ誰も止められない次元へと突入しようとしていた。

昨日の一挙6話投稿、深夜にもかかわらずたくさんの方に一気読みしていただけて感無量です!


第7話は、読者の皆様も薄々気になっていたであろう『なぜこの世界の女性はここまで男に狂うのか』という、ドス黒い利権構造と世界の裏設定についてのお話です。

楽しんでいただけたら、ぜひブックマークや【★】で応援いただけると、執筆の爆速エネルギーになります!」




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