女王たちの反省会と、絶対皇帝の生存報告
金曜日の夜更新、まさかの緊急番外編スタートです!
先週、無事に第2章が完結した本作ですが、なんとひじり君の「引きこもり覇道」はまだ止まっていませんでした。
今回は、あの書類一枚で完全に脳を破壊された5区のエレナと11区のバルバラの視点から、新総帥ひじり君の「これまでのおさらい」と、彼らが今どれほど恐怖(と狂信)に震えているかをお届けします!
「――信じられるか、エレナ。私たちは、あの御方の手のひらの上で、最初から踊らされていただけだったのだ……」
一ノ宮総本山の高級な応接室。
11区の武闘派クランを率いていた「剛腕女王」バルバラは、ガタガタと指先を震わせながら、目の前の高級な紅茶に手を付けずにつぶやいた。
その対面に座る5区の「氷結女王」エレナもまた、普段の冷徹な仮面を完全に剥ぎ取られ、青ざめた顔で深くうなずく。
「ええ……。本当に恐ろしいお方よ、一ノ宮ひじり総帥は。思い出すだけで、自分の浅はかさに心臓が止まりそうになるわ」
二人が思い返しているのは、先週末に起きた、あの【一ノ宮総本山・受付の悲劇】だった。
元々、圧倒的な男性希少社会であるこの世界において、男というものは「生きているだけで年収千万円」の特権階級だ。他のクランの男どもはどいつもこいつも傲慢で、女を虫ケラのように扱い、気に入らなければ料理を床に投げ捨てるのが当たり前だった。
だからこそ、二人は新総帥に就任したという「ひじり」という男を品定めし、あわよくば裏からコントロールしてやろうと、不敵な笑みを浮かべて総本山の廊下を歩いていたのだ。
だが、ひじり総帥は、そんな俗物どもの次元にはいなかった。
「あの御方は、最初から全てを超越していらっしゃったのよ」
エレナが胸を押さえ、うっとりとした、しかし恐怖の混じった吐息をもらす。
「思い出して頂戴。総帥が世に現れた最初の事件を。お世話係の女性に、息をするように『ありがとう』と感謝の言葉を述べ、食べ物を一粒も残さず、美しく気品に満ちたマナーで食してみせたという、あの伝説を……!」
「ああ。現地の傲慢な男どもへの、無言の痛烈な批判だな。あの社会性と圧倒的なレディファーストの前に、ネットの掲示板は大爆発し、誰もがあのお方を『男装女子の皮を被った、本物の聖母』だと確信した。そこから総帥の伝説は、光の速さでバズり散らかしていったんだ」
バルバラは拳を握りしめ、ひじり君の「前世の一般常識(派遣社員マニュアル)」がいかに世界を震撼させたかを熱弁する。
「それだけではないぞ! 2区のレイラがマウントを取ろうと軍勢を率いて突撃した際も、総帥は部屋から一歩も出ず、前世のコンビニチキンを再現したというあの【神聖なるスパイスカレー】を配っただけで、2区の胃袋と精神を完膚なきまでに調教し、一瞬で配下の私兵へと変えてみせたのだ!」
「そうよ……。極めつけは、私たちのクランが挨拶に向かった、先週のあの瞬間だわ」
エレナの脳裏に、カレンとジークリンデから突きつけられた、あの冷徹な『クレーマー対応マニュアル(複写式書類)』の光景がよみがえる。
『御用の方は、こちらの指定書類にすべて記載の上、提出してください。内容を精査し、数年以内にご連絡いたします。なお、カレーは在庫切れです』
あの時は、ただの事務的な拒絶かと思った。
だが、今ならわかる。あれこそが、世界最高峰の戦略家による【絶対の死刑宣告】だったのだと。
「『お前たちのような不届き者に、直接会う価値などない』という徹底的な無視! そして、2区を狂信させたあのカレーの支給を『在庫切れ(兵糧攻め)』と称して永久に断つという、冷酷無比な宣戦布告……! もし私たちが、あの場でプライドを捨てて『全財産と全戦力を無償譲渡します!』と土下座していなければ……今頃、我が5区と11区は、4区の本家のように影から完全に消滅させられていたわ……っ!」
エレナは恐怖のあまり身震いした。
ただの「デパ地下のクレーマーあしらい」と「カレーの売り切れ」が、彼女たちの脳内では、未だに【国家を揺るがす暗黒の経済制裁】として120%の超解釈を維持し続けていた。
「だが、バルバラ。私たちは生き残った。全財産を差し出したことで、かろうじて総帥の『直属の犬』として存在を許されたのよ。……それで、総帥の『現在の御様子』は?」
エレナの問いに、バルバラは居住まいを正し、敬虔な信者のような顔で静かに報告した。
「ああ。カレン監査官から聞いた話だが……総帥は今、全国23区のすべての富と権力を手中に収めながらも、一切の傲慢さを見せず、ただ最奥の総帥室にて『白湯』を飲み、お布団という名の聖域から一歩も出ずに、静かに世界の行く末を見守っていらっしゃるそうだ」
「まあ……! なんという無欲。なんという絶対的な王の器……!」
「さらに、総帥の生存報告(生存バイブス)によれば、近々、誰も見たことのない『燻製の神聖儀式』をさらに大規模に執り行う準備を進めているらしい。その煙がひとたび世界に満ちれば、次は国家の経済そのものが総帥の足元へ平伏することになると、カレン殿たちも徹夜で備えている!」
女王たちは、お互いの手を握りしめ、固く誓い合った。
「私たちはもう、二度とあのお方に逆らわない。ただあの『最強の引きこもり聖域』をお守りするために、命を捧げるのよ……!」
――その頃。
世界から神のごとく崇拝されている男は、お布団の中でスマホの画面を見ながら、盛大に首を傾げていた。
「あれ……? なんで5区と11区から、頼んでもいないのに超高級な『燻製用サクラチップ3トン』と『特大チーズ100玉』が総本山の倉庫に届いてるんだ……? 怖いんだけど。俺、ただ部屋でコッソリ趣味の燻製チーズを作りたいだけなのに、なんでこんな業者レベルの在庫が山積みになってるの!? 嫌だ! 誰にも見つからないように、静かに引きこもらせてくれぇええ!」
小市民な引きこもりニート(予定)の叫びは、防音の行き届いた総帥室の外へ漏れることはなく。
周囲のバグった狂信がさらに加速する。
金曜夜の緊急番外編、第1話でした!
先週完結したはずのひじり君ですが、5区と11区の女王たちは未だに脳内バグが限界突破しており、頼んでもいないのに業者レベルの燻製資材(チーズ100玉)を貢いできてしまいました(笑)。
本人はただ怯えているだけなのですが、周囲の狂信は止まりません!
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