最強の引きこもり防衛システムの完成
「――申し訳ございませんが、当総本山では、現在いかなる口頭での謁見要請も受け付けておりません。御用の方は、こちらの指定書類に全て記載の上、本部受付へご提出ください。内容を精査し、数ヶ月から数年以内に追ってご連絡いたします」
一ノ宮総本山の受付ロビーに、カレンの冷徹な声が響き渡った。
その隣では、ジークリンデがロボットのように精密で、一切の感情を排した、機械的な一礼をピシッと決めている。
提示されたのは、前世のデパ地下でひじりがよく見かけていた、お役所仕事全開の『お問い合わせ・ご要望受付書(複写式)』に酷似した怪文書(※ひじり自作)だった。
それを突きつけられた5区の「氷結女王」エレナと、11区の「剛腕女王」バルバラは、その場で全身の血の気が引いていくのを感じていた。
「そ、そんな……! 私たちは各区を代表して、新総帥へ直接ご挨拶に伺ったのよ!? 書類対応なんて……しかも数年待ちだなんて、そんな非礼な扱いがあるかしら!」
バルバラが思わず声を荒らげる。
だが、カレンの瞳はピクリとも動かない。完全に光の消えた、冷酷な暗黒監査官の目だ。ひじりから伝達されたマニュアルの第二条――『こちらの過失は一切認めず、終始一貫して、無表情かつ機械的な一礼のみで対応すること』を完璧に遂行している。
「それが、我が一ノ宮総本山のルールでございます。不服であれば、今すぐお引き取りいただいて構いません」
「くっ……!」
エレナがガタガタと震えながら、カレンの手元にあるマニュアルの『追加項目』に目を留めた。そこには、ひじりの手書きでこう記されていたのだ。
『※なお、本日お詫びとしてお出ししていた「特製チキンカレー」ですが、材料の在庫が完全に切れたため、今後の支給予定は一切ございません。何卒ご理解のほどよろしくお願いいたします』
――それを見た瞬間、二人の女王の脳内で、パズルのピースが最悪の形で噛み合ってしまった。
(――ッ!!! そういうことか……!!)
エレナの頭脳が、恐怖によって急速にフル回転を始める。
(ひじり総帥は、私たちの裏の思惑(マウントを取ろうとしたこと)を最初から全て見抜いていたんだわ! だからこそ『お前たちのような不届き者に、直接会う価値など一分もない』と書類対応で切り捨てた……! そして、2区を瞬殺したあの神の兵糧の支給を『今後一切しない』というのは――『我が傘下に入る資格すら与えず、兵糧攻めで5区と11区を物理的に干し殺す』という、冷酷な宣戦布告なのよ……っ!!!)
バルバラもまた、己の浅はかさを呪って歯を剥き出しにしていた。
(2区のレイラは、あのカレーの美味さに気づいてプライドを捨て、その場で全面服従したからこそ、命を救われて私兵として取り立てられたんだ! なのに私たちは、廊下で品定めなんてくだらないことをして時間を無駄にした……! 総帥の逆鱗に触れたんだ! 逆らえば、4区の本家のように、明日には特捜部がクランに突っ込んできて組織ごと消される……っ!!)
ただの「事務的なクレーマー対応」と「カレーの売り切れ報告」が、新総帥ひじりによる【冷徹な経済・武力・精神の完全抹殺宣告】へと、極限まで超解釈された瞬間であった。
「ま、待って、待ってちょうだい……! 誤解よ!! 私たちは総帥に敵対するつもりなんて毛頭ないわ!!」
氷結女王の異名を持つエレナが、ついにプライドをかなぐり捨てて受付のカウンターにすがりついた。
「5区の全資産、および魔力結晶の流通権をすべて一ノ宮総本山へ無償譲渡するわ! だからお願い、私たちを見捨てないで! 書類対応なんて言わずに、どうか総帥の直属の犬として働かせて頂戴……っ!!」
「11区の武闘派護衛団、総勢三千名も今日から全員総帥の私兵だ!! どんな汚れ仕事でもやる! 飯は白米と水だけでいい!! だから、我が区を滅ぼすのだけは勘弁してくれぇええ!!」
剛腕のバルバラが、床に額を叩きつけて号泣し始める。
カレンとジークリンデは、心の中で(やはりひじり様……! 一歩も部屋から出ず、紙切れ一枚で他区のトップをここまで完璧に調教されるとは……なんと底知れぬ絶対覇王か……!)と、五体投地したいほどの感動に震えていた。
――その頃、絶対覇王(と勘違いされている男)は、お布団の中でぬくぬくと白湯を飲んでいた。
「ふぅ……。やっぱり、前世のクレーマー対応マニュアルは最強だな。これだけ事務的に冷たくあしらえば、いくら他区の偉い人たちでも『あ、このクラン、めんどくさい官僚組織だな』って呆れて、怒って帰っていくだろう。これで俺の平和な引きこもりライフは守られた。よし、完全勝利だな!」
ひじりは、外で「5区と11区が完全服従し、一ノ宮総本山の総資産が国家予算レベルに膨れ上がった」という地獄の報告が上がってくることなど、まだ1ミリも知らなかった。
後書き
いよいよ本日夜19時の更新をもちまして、完結を迎えます!
実務ゼロ、完全非課税、誰も近づけない最強の引きこもり聖域(お布団)の玉座で、ひじり君が白湯を飲みながら微笑む、最高の勘違い大団円をお届けします! 文字数も大台の【10万文字】を堂々突破!
今後の展開などは【活動報告】に記載しておりますので、ぜひそちらも合わせてご覧ください!
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