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聖母様の『極上のおもてなし』は、戦闘狂の女傑すら一瞬で調教する

「おい! ジークリンデ! 何ぼさっとしてんだって聞いてんだよ!」


17区のクソ男――通称「床に料理投げる族」の怒声が響く。


 だが、彼の優秀な護衛であるはずのジークリンデは、完全に上の空だった。


なぜなら、目の前に立つスウェット姿の青年、ひじり・オオミヤから差し出された右手が、あまりにも白く、そして神々しかったからだ。


 この世界で、男が女に手を差し伸べるなどあり得ない。


男とは、常にふんぞり返り、女を暴力と特権で支配するもの。


(ああ……何という温かい眼差し。この御方は、戦うことしか知らぬ私を、一人の個として……女性として扱ってくださっている……っ!)


「ジークリンデェ!!」

 しびれを切らしたクソ男が、ジークリンデの肩を乱暴に突き飛ばした。


「あ、危ないですよ」


おっと、とひじりが自然に体を動かし、バランスを崩したジークリンデの体をそっと支えた。


 前世のデパ地下での物産展。押し寄せる客の波に押されて転びそうになったおばあちゃんを、サッとスマートに支え続けたひじりにとって、これは単なる「反射行動マナー」である。


――ガシッ。


 ジークリンデの逞しくもしなやかな身体が、ひじりの腕の中に収まった。


「ひゃ、あ……っ!?」


ジークリンデの口から、今まで出したこともないような可愛い悲鳴が漏れた。


戦闘狂として数々の修羅場をくぐり抜けてきた彼女の肌が、ひじりのスウェット越しに伝わる体温で、林檎のように真っ赤に染まる。


(だ、抱きしめられた……!? 私が、男様に……!? いや、違う、これは我が身を案じての『聖母の抱擁ホーリー・ハグ』……っ!!!)


ジークリンデの脳内麻薬が限界数値を突破した。


 一ノ宮クランの精鋭の女たちは、その光景を「やはりな」という冷徹な目で見つめていた。


 幹部の一人が静かに呟く。


「他区の哀れな戦闘狂よ。聖母様の『無差別全包容無双』の前に、貴様の堅物な防壁など1秒も持たんのだ……」


当のひじりは、胸中で冷や汗を流していた。


(危ねえ! お客さんを職場で転ばせたら、一発で本社にクレームが行って始末書ものだ。セーフセーフ!)


ひじりはジークリンデをそっと引き起こすと、何事もなかったかのようにクソ男に向き直った。


「さて、お客様。お立ち話もなんです。一ノ宮の最高のお茶と、我がクラン特製の『試食品』をご用意いたしました。どうぞお召し上がりください」


ひじりの合図で、一ノ宮の女たちが恭しく運んできたのは、昨日ひじりが作ったばかりの【自家製スモークベーコンのカナッペ】だった。


カリカリに焼いたフランスパンの上に、肉汁溢れる濃厚な燻製ベーコンが乗っている。


「チッ、一ノ宮の小作人が出す料理なんざ、食えるかよ!」


 クソ男は鼻で笑い、皿をひったくると、あろうことかその高級ベーコンを床に投げ捨てた。


――ビキッ。


 一ノ宮の女たちの間で、一斉に逆鱗が弾け飛ぶ音がした。


(聖母様が……聖母様が直々に作られた『聖餐せいさん』を……床に捨てただと……!?)

 応接室に、ガチの殺戮兵器のような殺気が充満する。


だが、一番最初に動いたのは、一ノ宮の女たちではなかった。


「……貴様、今、何をした?」


地獄の底から響くような声。


クソ男が振り返ると、そこには、般若のような形相で剣の柄に手をかける我が護衛――ジークリンデが立っていた。


「え? いや、ジークリンデ? いつもの床投げだけど……」


「万死」


「ひえっ!?」


「聖母様が……あの慈愛に満ちた聖母様が、我々のために心を込めてお作りになった至高の芸術を、床に投げ捨てるなど……! 貴様のような豚に、17区の若頭を名乗る資格はないッ!!」


凄まじい剣風が応接室を吹き抜けた。


ジークリンデは一瞬でクソ男の胸ぐらを掴み上げると、そのまま窓ガラスを突き破って、クソ男を外のコンクリートへと叩き落としたのだ。


「ぎゃあああああああ!!?」


 遥か下からクソ男の悲鳴が聞こえる。


ジークリンデは息を荒くしながら振り返ると、ひじりの前にバッと膝を突き、深く頭を垂れた。


「聖母様……ッ! 我が主(元)が、とんでもない非礼を……! このジークリンデ、不調法な主を罰し、これより貴方様の忠実な盾となることを誓います!」


ひじりは、目の前で起きた「内ゲバ落とし」に、完全に開いた口が塞がらなかった。


(えぇえええええええええ!? お客様が身内に窓から投げ捨てられたんだけど!? クレーマーの連れが急にブチギレてボスを粛清したんだけど!? 異世界の治安どうなってんの!?)


ひじりの心臓はバクバクだったが、前世の「癖」で、顔だけは完璧なビジネススマイルを維持していた。


「あ、はは……。お怪我がなくて、何よりです……(早く部屋帰ってゴロゴロしたい……)」


「ああ……なんという寛大なお心……っ!」


 ジークリンデは涙を流して震えた。


こうして、他区の有力クランの若頭は病院送りにされ、その最強の護衛は、一瞬で聖母の狂信者へとジョブチェンジを完了したのだった。

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