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観測できない場所
霧の奥は、音がなかった。
足音も、呼吸も、
自分の心臓の音すら、遠い。
「……静かすぎるな」
英雄の声が、少し遅れて届く。
遅延している。
音が、この空間で“正しく処理されていない”。
【観測精度、低下】
観測者の声が、弱い。
今までとは、明らかに違う。
【警告】
【これ以上の進行は、推奨されない】
俺は歩みを止めない。
「初めてだな」
小さく言う。
「止めるんじゃなくて、
お願いしてきたのは」
沈黙。
やがて、声が返る。
【……正確性、喪失】
空間の奥に、巨大な“穴”があった。
底が見えない、黒い断層。
そこに刻まれていた文字は、
これまでの壁の記録とは違う。
【初期設定】
【死を再試行可能とする】
【失敗を資源に変換する】
英雄が、息を呑む。
「……ゲーム、だったのか」
違う。
俺は、もっと嫌な可能性に気づいていた。
「実験だ」
人が、
どれだけ死ねば、
前に進めるか。




