表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/19

『葉の裏にある声』

「……今日は、風がすこし冷たいね」 


チヒロがつぶやいた。

校門の前、すれ違う生徒たちの声が、遠くに流れていく。


湊はうなずきながら、手のひらに包んだ“葉”を見つめた。 

白く、かすかに光るそれは、まるでまだ語りかけてくるかのようで──


「帰り、ちょっとだけ寄り道しようか」 

そう言ったチヒロの目に、少しだけ迷いがにじんでいた。 


けれどそれは、風にふるえる一瞬の葉音のように、すぐに溶けていった。



ふたりは並んで歩いた。 

路地の奥に、いつもの小道が現れる。


誰もいない、放課後の細い坂道。 

湊はふと、ポケットからその葉を取り出した。


「……この葉、あのときのままなんだ」 

呟くように言った言葉が、木々の隙間に吸い込まれていく。


「不思議だよね。あんなに光ってたのに……

枯れてもいないし、朽ちてもいない」 


「むしろ、前より……生きてるみたい」

チヒロが立ち止まり、湊の手元をのぞき込んだ。 


そのときだった。


ふいに、風が吹いた。

細い小径をすり抜ける風は、ふたりの間にそっと入り込み── 

湊の手から、葉をさらっていった。


「あっ──」


葉はくるくると舞いながら、森の方へと吸い込まれていく。 

ふたりは無言で、そのあとを追った。



林の奥へ進むと、風がやんだ。 

落ち葉を踏む音だけが、ふたりの足音に混ざって響く。


──そこに、あった。


小さな切り株の上に、あの葉が静かに横たわっていた。

だが、湊が手を伸ばしたその瞬間──


声が、した。


「それは、記憶の鍵だ」


ふたりは思わず立ち止まった。 

誰の声かはわからない。だが、それは確かに“ここ”に響いていた。


「君たちは、見てしまったのだ。  

葉の裏に、言葉よりも深い、“音”のようなものを──」


葉がかすかに震える。 

風ではない。呼吸のような、命のような、森そのもののざわめき。


湊は手を伸ばし、その葉にそっと触れた。


──すると。

景色が、すこしだけ、揺らいだ。


色が滲む。音がゆるむ。 

そしてふたりの背後に、**“もうひとつの影”**が現れかけ──


「……湊」 

紙織チヒロの声が、静かに空間を引き戻した。


揺らぎはすっとおさまり、葉は静かに湊の手のひらへ戻っていた。



帰り道、ふたりは言葉少なだった。 

けれどそれは、怖さではなく、“これから何かが変わる”予感のようだった。


「ねぇ……湊」 チヒロがつぶやいた。

「私たち、きっと……もう戻れないんだろうね」


湊はうなずく代わりに、手のひらの葉を見つめた。 

その葉の裏には、言葉にならない記憶が、まだ微かに温もりを残していた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ