アマミコの来歴と宿敵との因縁
「改めてお疲れ様でした。ご降臨なされてから時も立っておりません。さぞかし戸惑われたことでしょう」
最初に梅宮が、アマミコに対してねぎらいの言葉を掛けた。
ここは、居酒屋である。運転手以外は皆、生ビールのジョッキを手にしている。
「乾杯!」
アマミコは、他のメンバーの真似をしてビールを口にする。初めての味ではあるが、のど越しが心地よい。
「――良いな」
てジョッキをテーブルに置く。
次いでカイトが、喫茶店では話しきれなかったアマミコの来歴について語った。
「アマミコ(アマミキョ)」の名は、奄美・沖縄においては創世神に対する一般的な呼称であった。本名は、「マツカネ」である。トカム(徳之島)に生れた。トカム国王の妹で、当初、島の巫女集団の長を務めていた。
島の巫女集団は、マオが「越」から人々を率いて壱岐島に到達し、そこを自分たちの「蓬莱」と定めて建国した国「壱岐国」の巫女集団の流れを汲む。よって、マオの奉じていた「御つるぎ様」とは、無縁ではなかった。今回の招へいに応じたのも、そうした所縁があったからである。
カイトとの出会いは、トカム時代に遡る。預言に従い、前山洞を通じてタイムトリップしてきたカイトを出迎えた。
その後、姪である美華とカイト、さらに攫われてきたところを救出したリンレイを沖縄へ送り出す。理由は、国王の後継者たる標である「聴き耳頭巾」を沖縄の巫女から受取り、ついでにリンレイを故郷へ送り届けるためであった。この「旅の仲間」は、多くの苦難を乗り越え目的を達成した。
アマミコは、その旅の過程を見守り、助けた。また、宿敵である吊用之と雲海の上で対決し、相打ちとなった。
地上に落下し、気づいたときには、泉の側に倒れていた。記憶を失っていた。泉で身を浄めているとき、通りがかった男に衣装を隠されてしまった。頼る処もなかったので乞われるまま、男の妻となった。一男一女の母となる。ある時、衣装が男によってトウグラ(穀物倉庫)に隠されていことを知った。
その衣装(飛び布、トビギン)をまとうと記憶が戻った。しかし、すでに年月が過ぎており、トカムに帰ることはかなわなかった。時を超えたらしく「琉球王国」の時代(初期)となっていた。
そこで、「国をまとめ、世の平穏を保つ」という宿願を果たすため、息子を王に、娘を国を霊的に支える巫女集団の長にすることにした。陰から二人を助け、目的を達成した。それを見届けたアマミコは白い大鳥に変じて、いずこへか飛び去った。
ちなみに吊との因縁の始まりは、少女時代にあった。巫女としての能力を高めるため大陸の聖地に留学していたとき、通りがかった吊の目に留まってしまった。吊は悪戯心を起して、マツカネに呪術を仕掛けた。しかし、彼女は巧に術を避け、やり返す。吊は驚き、その名を心に刻んだ。
やがて大陸からの侵略軍参謀となり、正面から激突することとなったのだ。相打ちとなり吊も落下したが、怪物と融合した。その姿で、沖縄の抵抗軍と戦った。だが、カイトとゼンによって打ち取られ、魂は「地獄」に封じられた。
一同は料理に手を付けることもなく聴き入っていた。
「さあ、料理を召し上がってください」
話が終わったところで梅宮が、アマミコに促す。
ちょうど揚げたての「天ぷらの盛り合わせ」が運ばれてきた。天つゆ・塩・ソースなどの調味料も並べられた。世話係の女性が、天つゆに大根おろしを入れる。
「現代の食べ物は、美味であるな」
アマミコは、興味深そうに天ぷらをほうばった。彼女の時代には、多様な調味料などなかった。
「あの時代は新鮮な魚介類が豊富で、素材そのものはおいしかったですよ。ただ、ワサビがなかったのは残念でしたがね」
カイトが、フォローを入れる。皆も、うなずいた。その後は気楽な談笑が続き、場は盛り上がった。アマミコは、微笑みを浮かべながら静かに耳を傾けていた。
翌日、カイトに案内され、源造の家へ向かった。居間では、いつもの協議会幹部が顔を揃えていた。
「遠いところまでお越しいただきまして、ありがとうございます」
まず源造が、両手をついて挨拶する。他の者も、それに倣った。それぞれ自己紹介と感謝の言葉を述べた。
「さて、事態は迫っておりまする。我らも準備を急いでおりますが、秘密裏に進めなくてはならぬので、手間取っておるところです」
政府筋の年配者が、現状を伝えた。
「とくに米軍との共同歩調を阻もうとする勢力が現れまして、頭を痛めています」
梅宮が、補足した。米国政府と日本政府の軍事的野心を強調する虚言情報をSNSに書き込んだり、沖縄基地の米軍兵士にスキャンダルを引き起こさせて悪評を広めようとしたりするなど、あの手この手で妨害活動を仕掛けてきているという。




