居候男に説教されたしまったフウカ
フウカの脳裏の中で居候男は寝転がり、耳の穴を掘って、その指先をフッと吹いた。まったく態度が悪い。
「もまれて、ちょっとは大きくなったんじゃないか?」
下品かつテンプレなおちょくりを口にする。
「バカバカ、このスケベ男!」
フウカは顔面を紅潮させ、激高した。
男は身体を起し、胡坐をかく。
「俺が戦闘モードで表に出たら、お前の肉体などバラバラになっちまうぞ」
「ウグッ」
確かにそうだろう。言葉に詰まる。
男は、話を続けた。
「この際だから、言っておく。最近のお前は、周囲に甘え過ぎている。守ってもらって当然だと思ってはいないか?」
「そんなことないよ。でも、私、何もできないじゃない」
マオの力がなければ、普通の女の子だ。闘えるわけがない」
「そうかな? 闘うだけが、身を護る手段じゃないだろ。
今回のことでも、再度の襲撃がありそうだとわかっていても、陽が暮れるまで学校に残っていた」
「だって、仕方がなかったじゃない……」
「勉強会なんて、断れたんじゃないか? 自分の見栄を優先したんだろ」
「……」
「つまりリンコに護衛を丸投げした。彼女が『敵が多人数なら、かなわない』と言っていたにもかかわらずにな」
そうだった。しかし、その言葉を聞き流していた。
「……でもリンは、反対しなかったよ」
「できるわけないだろ。護衛を依頼されている。それに新参者だぞ。場馴れしていない彼女を気疲れさせた」
「……」
黙るしかなかった。全面降伏だ。
「わかった……」
うなだれる。
「今度、気を付ければ良い。俺も見守ることだけはしてやる」
そう言い残すとイメージから消えた。
沖縄の那覇空港では、二十歳くらいの女子大生と中年女性が、電光掲示板を見上げていた。中部セントレア空港行きの便を見ているようだ。
「これから飛行機というものに乗るのだな」
女子大生がワクワクした様子で、傍らの女性に話し掛ける。アマミコであった。本来は沈着冷静な大人の女性であるのだが、やはり現代社会は、物珍しいものばかりらしい。少し興奮気味だ。
降臨儀式を終えて、関係者と今後の予定について打ち合わせをおこなった。
「一度、名古屋へ飛んで、『霊的防衛協議会』の方々と顔合わせをしていただきます」
霊学協会の担当者が、アマミコに伝える。
「自分で、飛んでいくのか?」
「……いや、そういうわけではございません」
当初は、そんなトンチンカンなやりとりもあった。しかし、頭も切れる彼女なので、飲み込みは早かった。
「カイトと会えるのは、楽しみだな」
そんな言葉も、つぶやいた。
飛行機の中では窓際で、外の景色に見入っていた。かつて雲海の上で宿敵と闘ったことはあるが、こうしてノンビリと眺めていると別の趣があった。
中部空港に到着した。アマミコは、広さと人の多さに圧倒されてしまった。髪や肌、目の色が異なった人間も行き交っている。付添いの女性に手を引かれるようにして、名鉄電車に乗り換えた。そこでも車窓を流れる景色に目を奪われていた。
(時代は、ずいぶん変わったんだな)
驚きつつも安定した社会が築かれていることがわかり、安堵した。
(この穏やかな世は、ぜひとも守り抜かねばならぬな)
決意を新たにする。
新名古屋駅に着いた。改札口を出ると、人々が出迎えていた。その中に見知った顔を発見した。




