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全てはここから始まった〜最後には根源、断ち切らせて頂きます〜  作者: 虹乃懸橋


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6、姉の行動と深まる謎


『もし私の初恋が要くんだと思ってる人がいるのだとしたら作戦勝ちね』

 そう言ってあいつは笑って更に言ったんだ。


『私、彼に嫉妬して欲しくてあえてそう見えるように振る舞ってたから。要くんも私にそんな風な目で見ていないから安心して実行出来たんだけど、気分を悪くしたならごめんなさい』

 悪戯いたずらっぽい表情を浮かべたマリンを思い出し要は笑ったが、絵梨は違った。


「姉さんの初恋の相手があなたじゃない?」

 呆然と呟く絵梨に、要は頷いた。

「ああ、あいつが昔っから好きだった相手は、榊原さかきばら雅俊まさとし。マリンの・・・・婚約者だった男だ」

(!!!!!!)

 あり得ない!嘘だ!


 手元を凝視したまま動かなくなった絵梨に気が付かず、要は続けて言った。

「大学3年の時にマリンと再会した時に、あいつの隣に榊原がいることに気がついて、マリンに『初恋が実ったのか?』と聞いたらあいつ満面の笑みで『ええ、そうなの!』って言ったんだ」


 絵梨の困惑表情を見て、要は悲しそうに眉を下げた。

「だからあんな事件が起きたと俺は思ってたんだが・・・・違うのか?」


 そんなの知らない。

 絵梨も宇崎達も皆、知崎要が真梨の初恋の相手だと思っていた。


 姉は本来20歳で受ける一次開花の儀式を手違いで6歳の頃に受けたために、彼女は幼い頃から勘が鋭かった。

 小学校低学年の頃から要にだけ頬を染めて話しかけていた真梨に、身近で警護していた現在の理事、宇崎真一もそれを見ていて彼こそが真梨の初恋の相手と言っていたほどだ。


 だから成人し婚約者の選定の儀で、知崎要以外の人間が選ばれたと聞いた時は誰もが驚いたのだ。

 なのに初恋の相手が婚約者だった『あの男』だと、当の本人である知崎要から聞かされて絵梨は頭が混乱した。


 私も宇崎も根本から見間違い、あの事件の背景を正しく見れていなかったのか?

 ショックで言葉にならなくなった絵梨は、頭を抱えた。

 もしかしてこの9年間事件の進捗しんちょくが進まなかったのも、その辺を見誤った考えで動いていたから膠着こうちゃくしたのかもしれないと思うと苛立った。


「それが本当なら私も宇崎一族も皆、姉さんに騙されたわ」


 ただ疑問は残る。

 姉の初恋の相手が婚約者となっていたということは、姉の見立ても白芭の占いでも、あの男が真梨にとって最適な相手だと、能力では示されていたということだ。


 基本白芭の予言や直感は外れない。これが世間での評判評価であり、事実これまで外れた事例は一度もない。

 だから政治家や名家と言われる当主達は後沿(ごそ)って白芭を支援し、助言を求め続けて来た。


 これまでも、白芭の後継者であれ、依頼であれ、結婚相手を選定するにあたり白芭はこれ以上のない相手を選んで来た。

 特に姉の相手に関しては祖母が最善の注意を払って予言したはずだ。

 なのに真梨の相手は不義を働き、婚約破棄した上に浮気相手との間に子まで作っていた。


 白芭の二人の能力が不発するなどあり得るのか?

 白芭の女帝と言われ死ぬまで現役だった祖母。全盛期ほどではなかったにしろ、歴代最強の予言師だ。

 ましてやその後継者と言われた姉の見立てが狂うことがあるのか。


 どうも腑に落ちない。


『だからあんな事件が起きた』か。

 そもそもなぜ白芭の予言が外れたのか。そこを前提に考えるべきだ。

 白芭の能力がなくなったのか。

 はたまた白芭の能力を上回る何かが発生したのか。


 白芭の能力は祝福と言われるが、見方を変えれば呪いだと祖母は言っていた。

 その辺と関連があるのか?


 やはり1度あの家を訪れないと、状況は見えて来ないのか?

 このタイミングで祖母の遺言書公開の知らせも、偶然ではない可能性が出て来たな。

 深刻な表情で考え込んでいた絵梨に、それまでじっと見つめていた要は口を開いた。


「何をそんなに悩んでいる?」

「色々とね」

「マリンの事件のことか?」

「それもある」

「それも?他にもあるのか?」

 二人とも食事に手が伸びなくなり、気温のせいもあり料理が冷めたようで湯気が消え去っていた。


「随分根掘り葉掘り聞いてくるけど、なーに?教えたら協力してくれるの?」

「マリンの言葉の意味がわかるなら、協力してもいいと思っている」

「なぜ?姉さんに淡い気持ちは持っていなかったと言っていたのに、親友と言っても腐れ縁みたいなものでしょう。そこまで干渉するのはどうして?」


「正直俺にも分からない。ただ今までは漠然と、あの事件が起こる直前にマリンに言われた言葉がいつも脳裏にあって気になっていた。そして昨年末に報道されたあの番組で君たち姉妹が白芭の血筋であると初めて知った時、あの言葉には聞いた以上の何か違う意味合いがあるのかもしれないと考えるようになったんだ。そして今年マリンのお墓参りでエリン、君に会った。奇しくも今年、俺はマリンが言っていた30歳になる。これを偶然と片付けるには出来過ぎていると思わないか」


 聞いていて絵梨もそう思った。

 それならこれは偶然ではない。


 白芭の予言が外れたと分かった瞬間、2人の予言師はそれぞれ何かの伏線を張ったと見るべきだ。

 姉は、知崎要を私の前に連れ出した。

 そしてこのタイミングでの祖母の遺言書の公開。

 2人がこの時点を示唆した意味が必ずあるはずだ。


 ただ今の私には、その意味を知る術がない。


 一つ言えることは、姉がこのタイミンでこの人を私に会わせるために伏線を張ったのだとしたら、この人の差し出す手を振り払うことは避けた方が良いと言うことだろう。

 そう判断した絵梨は盛大にため息を吐いた。


「協力してくれるのはありがたいけど、姉の事件、両親の事故、共に何か大きな闇に包まれている。白芭や現仲嶺とも関わりがあり政財界への影響も無視できなくなるかもしれない。それでも協力してくれるの?」

「知崎は関係ない、これは俺個人が関わることだ。どんなことになっても君を見捨てはしない。マリンに誓ってもいいし、信用できないと思うのであれば、これを君に預けよう」


 そう言って要は首に下げていたチェーンネックレスを服の中から取り出し、チェーンに繋がれた一つの指輪を渡して来た。

「エターナルリング?」


 渡されたリングを見て、驚いた。

 かなりの年代物ではあるが、全周についている石が全てプリンセスカットのダイヤモンドで合計すれば2カラットは超えている品物だった。


「これは俺が小さい頃に亡くなった母の形見なんだ。小さい頃は母が恋しくてずっと持ち歩いていたが、今は癖で持ち歩いているだけで深い意味はない。ただその辺に置くのも気が引けて持ってはいたが、ヴィンテージジュエリーと思えば君なら身に着けられるだろうから指輪も喜ぶだろう」

 物が物だけに預かりにくいのだが。


 よそ様の結婚指輪だったものを預かるというのも気が引けるし、着けろと言われて、はいそうですかと着けた日にはヴィンテージとはいえ結婚指輪ですよ?

 周りに変に誤解を生むようなことできるはずがない。


「その誠意だけで結構です。流石にヴィンテージとはいえ結婚指輪をはめるわけにはいかないので、お返しします」

 突き返した指輪を要は素直に受け取った。

「・・・そうか。それなら仕方ない」


 受け取り指輪をチェーンに付け直しはじめた要は逡巡した後、「デザインリングに加工し直したらいいのか?」と宣うので、呆れた。

「いらん。まずは指輪から思考を離してよ。そもそも私と要くんは指輪を送り合うような間柄ではないのだから」


「信頼の証にはもってこいだと思ったんだが」

 まあ確かに"人質"と思えば効果は絶大だが、豪華すぎて色んな意味で無理だ。

「それは要くんが結婚したいと思う人にあげなよ。私には豪華すぎてお洒落リングでも着けるのは気が引けるわ」


「欲がないな」

「どうでも良い代物なら売ることもできるけど、それは知崎会長夫人がつけていたものでしょう。大事にしなよ。それに今の私はただの田中だから。分不相応よ」

「そういえば今は田中絵梨だったな」

「ええ。白芭の叔母の嫁ぎ先が田中でね。私は十五の時からそこに預けられて育ったの」


 姉の真梨が事件を起こす予兆を感じ取った祖母はその日の早朝、それまで祖母から仲嶺には一切連絡も近寄りさえもしなかったのに、学校を休ませてまで白芭まで私だけを呼びつけた。


 その日姉の護衛担当だった宇崎真一はなぜか仲嶺邸宅で待機していて、絵梨を白芭まで送迎したのは真一だった。

 真一が白芭から仲嶺の本邸に戻って来た時、警察から一本の電話がかかって来た。

 それが姉、真梨が傷害で現行犯逮捕されたという知らせだった。


「叔母、ということは君は白芭には顔が割れているのか?」

「それはない。叔母はおばあちゃんの妹ではあるけど、腹違いの子なのよ。叔母には白芭の血は一滴も入っていないことから白芭親族には顔が割れていないし興味を引く話題でもなかったらしいから、誰も知り得ない。おばあちゃん亡き後、今となっては叔母の存在を知る者は私とおばあちゃんの補佐役だった人だけになったわ」


「まあ確かにそうだよな。そうでなければ昨年末の報道はなかったもんな」

 要はなるほどを頷いていた。


 叔母は子供が出来ない体質だったらしく、そんな妹を不憫に思ったのかおばあちゃんは迷わず私の預け先を叔母の元に決めた。

 家族を失い失意のどん底にいた私を、長年子供を持ちたかった妹なら大事に育ててくれると信じていた。

 そして妹にも擬似でも家族の幸せを感じさせてあげたかったのだと、亡くなる1ヶ月前に田中家に来たおばあちゃんはそう言っていたらしい。


 そのおばあちゃんの見立ては間違っていなかった。

 私を託された叔母はその真意を正しく理解していたのか、私が到着したその瞬間その心遣いに感謝して泣き出していた。

 私は私で姉や両親が亡くなったことを聞いていた状態の時で、叔母の涙に釣られて私も大号泣したのを覚えている。


「その人は今どうしているんだ?」

「今も元気で田舎で旦那さんと一緒に仲良く暮らしてるよ。農家で生計を立てていてね。毎日畑に出て頑張ってるわ」

 祖母と16歳も歳の離れた叔母は、祖母より母との年齢の方が近く絵梨にとって叔母は、第二の母だと思える存在だった。


「この9年間、お金には困らなかったけど贅沢もしてない。姉さんと両親のことを考えるとそんな気も起きなかったしね」

「マリンのことはともかく仲嶺夫婦のこととはどういうことだ?事故で亡くなったと報道では聞いたが・・・」


 そう。警察に遺体を引き取りに行った祖母もそう聞いていた。

 だが、と絵梨は顔を曇らせて言った。

「あの日、マリンお姉ちゃんの護衛担当だった宇崎真一は叔父である宇崎(うざき)隆二りゅうじの言葉に不信を持ったと言っていた」


 宇崎隆二は恭二の父親で、うちの両親の運転手を長年勤めていた人物だ。

「警察から姉の真梨が自死したと聞かされ、気が動転した両親にいつも運転していた送迎車ではなく個人の所有している自家用車を乗るように進めたのだと。普通気が動転した主人に自ら運転させるようなことを言う使用人はいないでしょう。その後、その車で出て行った両親は事故に遭っている」


 事故の連絡を受けて、真一はそのことを問いただそうと叔父の隆二を探したが、自家用車を勧めた直後、真っ青な顔で飛び出して行った隆二はその後、姿を眩ました。自分が普段運転していた送迎車ごと。


 困惑顔になった要は身を乗り出して小声で聞いてきた。

「つまり、車に何か細工がされていたと言うことか?それなら警察はなぜ事件とは言わず事故と結論づけたんだ?」

「そこも分かっていない。姉の自死に関しても世論の評判も姉にとっては良い方向に向かっていたのに、なぜ自死する必要があったのか。あの日事件が起きる前に祖母が異変を感知して血相を変えて使用人に留置場に向かわせ姉と面会させていた。この時、使用人は2つのことを目撃していたが、後にその2つとも警察は否定した」


「なんだ、その2つのこととは?」

「留置場で面会するために訪問者は、自身の名前と日時、面会する相手の名前を記載し許可が降りて初めて面会が許されるらしいの」

 絵梨は1つ。と人差し指を要に向かって立てた。


「使用人はその記載をしている時に、自分が来る少し前に“姉に面会した人物“がいることを目視している」

 ここで絵梨は中指も立てて、2つ目を示唆した。

「そして面会が許され指定された面会室に行くとそこにはすでに口周りを血だらけにした姉さんが横たわっていた。使用人の悲鳴で本来会話の内容を監視記録する警察官が初めて面接室に入って来て、まだ意識のあった姉を介抱しようと起こした時に、“姉の口の中に紙らしきものを含んでいる“ことを使用人は目撃している。ところが祖母がそのことを使用人から聞き、後に警察に確認した所それらの記録も物も何も存在していないことになっていた」


 怪訝顔になった要に絵梨も眉を下げるしかなかった。

「まるで煙に巻かれたように全ての証拠が消え去り、おばあちゃんも困惑していた。もっとも混迷したのは白芭の能力を使ってもまるで霞がかかったようにその全容が掴めなかったこと。全盛期であったならこんなことにはならなかったのにと祖母は側近には愚痴っていたらしいわ」


「それからしたら警察が隠蔽していると見た方がいいんじゃないのか?」

「そう思って警察に顔の利く宇崎に調べさせたけど、一切の証拠が消え去っていて担当刑事も困惑顔になるしかなかったそうよ。そういう意味でその担当刑事が白芭のおばあちゃんに面談して協力を仰いだこともあったらしいけど、何1つ見つからなかったと嘆いたそうよ」


 要は聞いた内容が内容だけに「警察も一枚岩ではないと言うことか」と次の言葉が続かなかった。

 そんな中絵梨は知っていることをさらに口にした。


「それだけではなく被害者と言われた元婚約者の身元は伏せられたまま、報道では彼は相当の遊び人で何人もの女性の影があったと言われていたのに、当時同じ大学に通っていた在学生のほぼ全員に確認しても遊び人と証言する割にはその女性達がどこの誰なのかを覚えていないと皆口裏を合わせたようにそう答えるそうなのよ」

 そう言いながら目の前の人物もその当事者だなと絵梨は気がつき、ダメもとで要に聞いてみた。


「ちなみに要くんはあの男が他の女性と遭っている所を目撃したことはない?」

「榊原の浮気現場?見たこともないなければ、正直あいつがマリン以外の女と浮気したこと自体が俺はいまだに信じられないんだ」

 眉間に皺を寄せて言う要に、絵梨は違和感を覚えた。


「どういう意味?」

「榊原は幼い頃からマリン一筋でただただ一途にマリンを見続けていた。そんなあいつが婚約も決まった相手のマリンを袖にして他の女を相手していたなんて考えられないんだ」


「でも・・・実際浮気相手のお腹には赤ちゃんがいたって報道されてたじゃない」

「今となっては警察の発表も怪しくなって来たんだし、その辺の情報をもう一度精査した方がいいんじゃないか?」

 それすらも情報操作されたと言うこと?

 でもなんで?


 謎が深まるばかりで絵梨も要も眉間に皺を寄せて固まるしかなかった。


 



明日1話投稿予定です。

ストック尽きるまでは毎日投稿予定です。





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