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全てはここから始まった〜最後には根源、断ち切らせて頂きます〜  作者: 虹乃懸橋


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64、ディセンサス(意見の不一致)


 ゆっくり更新・・・。




 栗林は保健室を出た後、重たい体を引きずりながら理事長室まで移動した。

 若い頃から栗林自身が宇崎邸によく出入りしていた関係で真一とも顔見知りだった。


 アポもなく尋ねた栗林に真一は理事長室に入ることを承諾し、彼の話に耳を貸した。

 絵梨がここに栗林を寄越した意図を理解し、質問に対し事実を伝えた。


 栗林は仲嶺の次女の言葉通り、恩人であった宇崎隆二の透視を数日前に行ったが足取りが全く取れなかったことを真一から聞かされ愕然とした。


「警察はマリンの事件や仲嶺夫婦の捜査を終了し、宇崎隆二の捜索も表立って動くことは出来ないでしょう。今まで通りこちらで秘密裏に捜索しますので栗林刑事は仕事に戻られて結構ですよ」


 切り捨てられるように真一に言われた栗林は、なんとも言えない顔をして理事長を見たが状況は変わらない。


 真一は栗林を見て、絵梨から託された任務のためにさらに口を開いた。

「私情を挟むのはやめて頂きたいですね。現場の鬼らしく持ち場に戻って職務を全うして下さい」


 こんな所に来る暇があったら、その足で事件に繋がる何かを探して来い。

 絵梨はそれを栗林に言いたかったのだろう。


 その意図に気づいても、それでも動かない栗林に真一の方が痺れを切らした。

「あなたがそんなだから、仕事を放棄して父親探しに没頭する恭二を止められないのですよ」


「俺のせいだって言うのかよ」

「宇崎隆二が絡まなければ公平な判断ができるあなたが、あの人が絡んだ途端、秩序も何も吹っ飛ばして行動しているのです。9年前に1度その捜査から担当を外されたにも関わらずです」


「俺にとって隆二さんは!」

「知っていますよ。だからこそ公平に判断出来なくなると誰もが判断し担当から外されたほど、あなたにとって叔父は大切な人であることは重々承知しています」


 この数年同じやり取りをしている関係で、苦虫を潰したような表情の栗林に真一はため息を吐いた。

「あなたから見れば我々は冷たい人間に見えるかもしれませんが、冷静に理論的に見つめることはしていますが、お忘れですか。私もエリンにとっても彼は大切な人だったのです」


 誰にとってもかけがえの無い存在であると言われ栗林は拳を強く握るが言葉が出ない。

「冷静な判断が出来す感情的になっている以上、あなたには引っ込んでて欲しいですね」


「見えて来るものも見えなくなる」と自分の年齢よりも一回り下の真一に言われ栗林は唇を噛んだ。


「こちらの方で進捗(しんちょく)情報が入りましたら連絡しますので、今日はお帰り下さい」


 平行線のやり取りに自分の分が悪いと判断した栗林は、勢いよく理事長室を出て、少し離れた廊下で佇んだ。


 数分間思考が右往左往して考え込んだが、ここでは何も出来ない。真一の言う通り自分の足で捜査するしかない、とゆっくりを歩を進めた。


 学園を出ようと階段に足を向けたが、屋上に続く昇降階段の踊り場に人の気配がして栗林は顔を上げた。


 そこに見覚えのあるシルエットが見え、顔を引き攣らせた。

「なんだ、さっきはさっさと追い出すようなことを言っておきながらまだ何か話すことがあったのか?嬢ちゃん」


 廊下の踊り場に立っていたのは、白衣を着た絵梨だった。


「苦情を言うのを忘れてたんでね。後を追って来たわ」


「あ?苦情だ?」

 顔を顰める栗林に、絵梨は親指で屋上を指差し誘導した。


 屋上扉の開閉音を聞いた栗林は舌打ちしたが、今後の捜査で絵梨の能力は欠かせなくなると踏んで渋々だが後を追った。


 屋上の分厚く重い扉を開けると、一気に寒い空気に晒され栗林はブルっと震えたが保健師の姿を見つけて表情を引き締めた。


 手すりへ背中を預け、栗林に無表情を向ける絵梨に話しかけた。

「俺が何をしたって言うんだ」


「年末の報道を誘導したのはあなたよね」


「あ?」

 屋上の重厚の扉が閉まる音と共に、絵梨の方へ足を進めれば鋭い視線を向けられた。


「遺言の関係で分家方を少し突いて欲しいと頼んだのに、なんであんな大掛かりなことをしでかしたのよ」

「ふざけんな。お前から依頼を受けた数日後の報道だぞ。あれに俺は関与していない」


 昨年末、姪の美帆の生活が安定し栗林が絵梨に感謝の意を示すためにお礼にこの学園に訪れた際に、個人的に依頼した。

 それが分家に顔が割れている栗林に情報操作で分家を誘導してもらうことだった。


 ところがメディアを通して大々的に報道してしまったために、絵梨も宇崎も行動を制限させられる羽目になった。

 その首謀者と思しき人物と仲の良い栗林の言葉に絵梨は不快感を滲ませた。


「不良弁護士と結託して事件を蒸し返したかったんじゃないの?」

 栗林と不良弁護士と言われる一条保(たもつ)は旧知の仲であると知っている絵梨は鋭い視線を送ったが否定された。


「俺にも刑事としての矜持はあるぞ。あんなこと企てるわけがない」

 姪の恩人にそんな大それたことをするはずがないと顔を顰める栗林に首を傾げた。


「じゃあ不良弁護士が勝手にしたって言いたいの?」

「あの報道後、俺も保(たもつ)に真意を問い正したさ。なのにあいつ詳しいことは言いやがらなかった」


 顔を強張らせ口走る栗林に嘘はない。

 先ほどから彼のオーラに黒いものは混じっていないと絵梨は表情を引き締めた。


「あなたたちは隆二さんに関しては対立はないと思っていたけど、そうでもなかったってこと?」


「俺もそう思っていたんだがな・・・」

 俯いて唇を噛み締める栗林に絵梨は冷静に見つめた。


 年末の報道に栗林が関与していた、とは本気で思ってはいなかった。

 ただあの報道の時にスタジオに出演し、絵梨に話しかけた不良弁護士と旧知の仲である栗林なら何か知っているだろうと問い正したのだ。


 栗林と一条は、若い頃やんちゃしすぎて街で暴れまくる不良だった。(らしい)

 その関係で宇崎隆二と顔見知りになった2人は以後、彼を「兄貴」と呼び慕うようになったと聞いている。


 宇崎隆二が恭二の母親と出会い改心してからも、後輩の面倒をよく見る人で似たもの夫婦は揃って後輩を可愛がっていたそうだ。


 家庭で孤立し親の愛情を知らずに育った栗林と一条は、隆二夫妻のその暖かさに触れ少しずつ改心し、2人して法律の勉強を始めた。

 その勉強を進めたのは他でもない隆二だったそうだが、学がない自分のような人生を歩んでほしくないと常々言っていたらしい。


 ただその後輩2人が進む道が違えるとは誰も思わなかったが、1人は警察官に。そしてもう1人は弁護士になった。


 その姿勢だけは2人思うところがあるのか、不良らしさはこの歳になっても貫き通している部分はどこか繋がりを感じるが、お互いの職業柄よく衝突している姿は絵梨が幼い頃から見て知っている。


 しかし兄貴のことに関しては、同じ気持ちを持って同じ方向を向いていると思っていた2人の間には溝があったようだ。


「『なぜあんなことをしたか』については答えなかった。では私に関しては何か言っていた?」


 一条は栗林同様、若い頃から定期的に宇崎隆二に会いに来ていた関係で仲嶺邸にも何度となく足を踏み入れていた。

 その関係で一条も絵梨の存在を昔から知っていた。


 だからこそ、あの報道での一条の発言は異彩を放つ。

『“仲嶺の真のご令嬢“。興味があるなら名乗り出たらどうだい?』


 あの言い回しは、一条本人は仲嶺の次女を知らない体(てい)で話を進めていた。

 だから一条は何か思惑あって行動していると感じていた。


「あいつは、依頼者のことは一切口を割らなかった。ただ遺言のことを口にしている以上、その依頼は白芭の分家の誰かがしたと考えていいだろう」

「彼から伝言は?」


「『相手側も一枚岩ではない』だとよ」


 分家の中にも本家側に肯定的な者が存在している、と?


「それを聞いた時、俺はもしかしたらそこに隆二さんがいるんじゃないかと思ったんだが、嬢ちゃんはどう思う?」


 少し前の絵梨がそれを聞いたら確かに同じ発想になったかもしれないが、ここ数日の出来事でその考察はNOだ。


「期待したい気持ちはわかるけど、分家ほどの能力では本家を欺けるだけの力は持っていない。そんなところに隆二さんがいるとも思えないし、何より宇崎は現在分家を監視していて、そこに分家当主である白芭郁三以外の男の存在は確認されていない」


 栗林も希望的観測に過ぎないことには気がついているのか、反論することなく俯いた。


 絵梨は白衣のポケットに手を入れて、タバコを取り出し一本口に咥えた。

「いる?」


 栗林の方にタバコの開口部分を向ければ、呆れ顔を向けられた。

「女がタバコなんて吸うなよ」


「恭二にタバコを勧めた人が何言ってんのよ」

「あいつは本当に碌(ろく)なことをお前に教えてないな」


 恭二に二十歳の時にタバコを勧めたのは栗林である。

 呆れて絵梨は言った。


「そのままクリリンにお返しするわ」

「クリリン言うな」


 小さく抗議しながらもタバコに手を伸ばす栗林に絵梨は小さく笑った。

 ライターで火を灯し、栗林にそのライター投げて渡した。


 絵梨は向きを変えて校庭側に体を向け、手すりに膝を着き寄りかかりながらタバコを吸い、ふーっと空に向かって息を吐いた。

 2本指でタバコを挟み、校庭で体育の授業をしている生徒たちを眺めながら絵梨は呟いた。


「ここ数日、白芭関係のことで色々情報が入って来たわ」


 絵梨の横に移動してきた栗林は背中を手すりに預け、タバコの煙を床に向かって吐いた。


「姉さんの事件や両親の事故に関して、不可思議な力が働いていることは祖母ちゃんが生きていた頃から感じていたと思うけど、そこに白芭の因縁が絡んでいることがわかったわ」


「女帝の母親と夫が非業の死を迎えていることか?」


「調べたの?」


「ああ、あの祖母さんが意味深なことを言ったことに違和感を覚えて少しばかり非合法な方法でだが、保とちょっとな」


 職権濫用もいいところだぞ、と絵梨は顔を強張らせた。

「両方の事件とも秘匿されているはずだけど?」


「ま、バレたら俺も保もクビだろうな。ただ例の報道の対価として保が受け取った情報の中にヒントがあったんだよ」


 分家側からの情報提供!?

 ・・・・確かにそれなら秘匿情報もこの栗林と弁護士の一条がいれば、赤裸々に暴かれるだけの能力を彼らは持っているから、バレたことにも納得だ。


「私でさえ数日前に知ったのに、あんたたちはそれを私に共有しようとは思わなかったの?」


「祖母さんの策略に嵌(はま)って、遺言前に能力開花してるなんて思ってなかったし、そもそもお前さんは白芭のことには一切関与したくないって随分前から言ってただろう。だから言おうかどうしようか迷ったんだよ」


 っ!

 それを言われると、ぐうの音も出ない・・・。


「分家じゃないなら、他の能力者の存在を疑ってるのか?」


 絵梨は気持ちを切り替えるように一度タバコを吸いゆっくり吐いてから口を開いた。

「十中八九、白芭と同じ、か。それ以上の存在がいる」


 場の空気が一気に重くなり、沈黙が続いた。


 タバコの煙がゆらゆらと上空に上がっていたが、急に寒風が吹き抜け煙がかき消された。

 急な風に煽(あお)られ校庭にいる生徒の方から悲鳴が聞こえて来る。


 思考が停止する中、2人の視界にはタバコの煙が大きく揺れるだけだった。


 曇天を見上げながら栗林が呟いた。

「目星は付いてるのか?」


「白芭の成り立ちに関与したと思われる術者だろうと祖母ちゃんは踏んでたようだけど、それがどこの誰かはまだ調べている最中よ。それに関しては今、響子がそれに繋がる文献を全力で解明中だから数週間後には判明するはずよ。だからそれまでは待機するしかないわ」


「それが本当なら俺らの出番はねーな」


「そうね。だからそれまでは自分たちの職務を全うするしかないわ。何かわかったらあなたたちに連絡するからこ(・)れ(・)以(・)上(・)先走ることはしないでよね」


「宇崎の坊ちゃんと同じことを言いやがる」


 何を今更、と呆れ顔で絵梨は言った。

「姉さんたちの事件に関しては被疑者死亡で捜査本部が解散している以上、職業柄あなたたちは表立って動けないんだからそう言う以外ないでしょう」


「はっ!中坊だったガキが、いっぱしなこと言いやがって」


「私たちの気持ちがあの時のまま止まったままでも世の中ではあれから9年も経ってるのよ。中学生だった私は社会人になったし、あなたたちもアラフィフになるほど時間は流れてるのよ」


 ましてやいつまでもガキのままではいられなかった!と絵梨がへの字口になれば、栗林は吠えた。

「俺たちはまだアラフォーだ!」


「私から見たらどっちも一緒よ」

 40代も50代もそう変わらん。

 とタバコをふかしながら言えば「若いっていいな!」と返されたが、幸せだとは思えない現状に絵梨は吐露する。


「心のつっかえがなければ、そうなんだろうね」

 タバコの煙を上空に向けて吐きながら言えば、栗林はガックリと肩を落とした。


「そこは軽快に肯定しとけよ。それ以上何も言えなくなるだろうが」


「これ以上の話し合いは必要ないから、仕事に戻って構わないわよ。あ、ライターは返してよね」

 2本指でタバコを挟み、その手で屋上の扉を挿せば栗林に呆れ顔を向けられた。


「お前・・・なんか仲嶺の長女に似て来たな」

 ライターを絵梨に渡しながら栗林に言われた。


 どう言う意味だ!?


「勝手に呼び止めて一方的に話しかけてきて、用がなくなったら突き放すところだよ」


「クリリンも似たようなものなのに、言いがかりもいいところね。急に来てズケズケ人のテリトリーに入って来て言いたい事言って帰って行く人に言われたくないわね」


 反論しようとした栗林は思い当たるところがあるのか、開いた口から言葉が出てくることはなかった。


「ま、職業柄仕方ない部分はあるんだろうけど、気をつけた方が」

 いいわよ。と言おうとした時、屋上の扉がバタン!と勢いよく開かれた。


 驚いた絵梨と栗林が入り口を見て、2人して眉を下げた。

 そこには恭二が鬼の形相で立っていたのである。


 面倒臭いのが来た。と絵梨は校庭側に顔を向けた。

 栗林はバツが悪そうに視線を逸らしたが恭二はそんな栗林を許さなかった。


「ここで何やってるんだよ!クリリン!」

 仕事はどうした!と大股で近づく恭二に、栗林は「クリリン言うな!」と抗議するが、恭二は目をさらに釣り上げた。


「そんなことどうでもいいんだよ!」

「どうでもいいとは何だ!?」


「あんたといい、工務店といい何してくれてんだよ!」


 工務店とは、不良弁護士の一条保のあだ名である。


 彼が工務店の息子というわけではない。

 有名な工務店と同じ苗字のために、恭二が幼い頃に勝手につけたあだ名であった。


 ちなみに栗林のあだ名も恭二が命名したものだ。


「年末の報道のせいでエリンは行動をさらに制限させられて、こっちの対応も何倍も負担が増えてんだぞ!」

「俺は無関係だ!」


「あんたら2人は一蓮托生だろう。どっちかの単独行動だとしても共同体だろうが!」

「なんで俺があいつと共同体なんだよ!」


「「昔から同じ思考と似た行動力だから」」

 恭二の言いたいことを察した絵梨も口に出せば、意図せず恭二の言葉とハモった。


 栗林と一条は昔から連絡し合うわけでもないのに、双子並みに思考と行動力が同じで仲嶺に来る時も偶然同じ日、同じ時間に来ることが多多あった。


 毎回一緒になる本人たちも互いに「きっしょ!」と言いながら兄貴と顔を合わせていた。

 ましてや今回はその兄貴に関することだ。同じように考え連携しながら行動していると誰もが思うだろう。


「嬢ちゃんにも言ったが、今回俺は蚊帳の外だ」

「じゃあ工務店が1人、でしゃばってやったっていうのかよ」


「そうだよ!苦情は保に言え!」

「あの報道直後から何度の工務店に電話してるのに、あの人電話に出ねーんだよ!」


 まあ出るわけないわな。

 恭二や絵梨、宇崎に相談もなしで勝手に行動しているのだ。

 悪いことをしていると分かっていて、電話に出る阿呆はいないだろう。


 栗林も半眼で言い放った。

「俺の電話でさえ出ないから、直接会いに行ってようやく話を聞けたほどだからな」


「俺に限っては会いに行っても逃げ回って顔を合わせもしないがな」

 怒髪のご立腹恭二に、栗林だけでなく絵梨も視線を外した。


「何で足並み揃えねーかな!」

 ダンダンと肩足を地団駄を踏む恭二に、栗林が真っ青な顔で絵梨に声をかけた。


「おい、救世主呼べ」


 へいへい。

 悴(かじか)む指先でスマホを取り出し、親友にレスキューのメールを打った。


 頭に血が上った夫を迎えに来る妻を待っている数分間。

 屋上で絶叫し続ける恭二にどんだけストレス溜まってるんだ。と小さくため息を吐いた。


 触らぬ神に祟りなしである。

 怒り狂う恭二は栗林に任せ、絵梨は知らん顔して幼馴染に背を向けてタバコを吹かすのだった。




ここから少しずつ、彼のことに関しては何が起こったのか判明していきます。


面白いな、続きが気になると思っていただけたら、評価の方もよろしくお願いします。



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