61、2面生
久々連日投稿。
『感じられないってどういうことだよ!』
憤る恭二とは別に、その部屋にいた他の3人の表情は強張っていた。
絵梨と真一は地図を凝視するしかなく、響子は口元に手を当てて涙ぐんでいた。
『考えられるのは2つですね』
真一の言葉に絵梨は頷いた。
『1つは、すでに国外に逃亡しているか。もしくは・・・・』
亡くなっているか、だ。
昼間の出来事を思い出した絵梨は、顔を強張らせて俯き持っていた缶酎ハイの缶を凹むほど握り込んだ。
次の瞬間ソファの座席が傾き、体が右に寄った瞬間、肩と頭をそっと抱き締められた。
いつも間にか右横には要が移動して来ており、落ち着かせるように頭を撫でられた。
「あの電話の後、何かあった?」
「なんで分かるのよ」
呆れて言う絵梨に要は笑った。
「なんでだろうね。俺に言えるとしたら〈鍵〉だから?」
疑問系なところ見ると、要にもその原理は謎なんだろうな。
術者にとって〈鍵〉が精神に関わっている以上、以心伝心に近い力が働いているのかもしれない・・・。
従者と〈鍵〉として公の部分ではその能力は言うことないが、私の部分では隠し事が出来ないのは、正直しんどくないか?
その感情を機敏に察した要が、憤慨した。
「公私だろうとオープンで何が悪いの?」
「悪くはないけど、隠したいことだってあるじゃない」
「そんなものなくていいよ」
「じゃあ、サプライズとかなくていいってこと?」
サプライズ?と首を傾げる要に絵梨は半眼で言った。
「誕生日とか、特別な日の準備とか情報筒抜けは頂けないし、つまらなく無い?」
相手を驚かしてやろうと思っているのに、相手に悟られる事程さえないことはない・・・。
「そ、れは嫌だね」
「要くんが感じた隠し事は嫌な方向での懸念事を意味してるんだろうけど、受け入れた以上そういうことはないから」
一瞬目を見開いた要が絵梨を見つめて来た。
「一族が〈鍵〉と見定めたことより、私個人が受け入れると決めたの。逃げようとは思っていないから、あなたもどっしりと構えて欲しいの」
「じゃぁ」
そう言って頭に置いていた手を絵梨の手を握って来たが、その手は遮った。
「それはおいおいで」
なんですぐに体の関係に持っていくかな。
「蛋白どこ行った?」
「エリンを前にしたら、そんなもの吹き飛んで行ったよ」
「戻して。私を大事に思ってくれているなら、半年は様子見します」
「今更!?」
「だからよ。それに惚れさせて見せるって轟々したんだから、そこはブレずにね。要くん」
「スキンシップくらいはいいよね」
「・・・・あなたが苦しくない程度ならいいわよ。ただし私はそっち面の精神が中学生並みだから、そこは考慮してね」
「エリン、最近の中学生の保険体育をなめてない?」
ソファに座り直しながら呆れ顔で要が言えば、絵梨も虚無顔になった。
「知ってるわよ。インターネットの普及でその辺のハードルが下がってしまってるのは立場上よく知ってるわよ!でも知識があることと実行しているのかは別問題でしょう」
「半年ってことはエリンが学校の任期が終わる頃だね」
「そうね。ちょうどその頃ね」
今までの傾向上、捜査に進展が早々にあるとは思えないけど、その前に全ての謎が解けたならその時期も繰り上がるかもしれないけど、今それをここで言うのは時期尚早だ。
事件を解決しながら彼との心と物理的な距離を少しずつ縮めていくことは、これから捜査を行う上でもプライベートでも大事になってくるだろう。
「亀の歩みでお願いね」
横目で婚約者に釘を刺せば、当の本人は肩を落とした。
「兎のように突っ走っても心を閉ざされたら元も子もないことは実感しているから、その言葉の意味は理解しているよ」
「私たちの関係性が突発だった事と、姉や両親のことが何一つ解明されていないことが私の全てのことが時間が止まったままで前に進められないの。面倒くさくてごめんなさい」
「いいや、エリンの気持ちを汲めずに俺こそごめん。エリンが動いていたこの4年間と宇崎が動いていた9年間を軽く考えていたわけではないんだ。ただ俺が浮かれ過ぎていただけだから。身近な人が容疑者として疑われている現状を知った以上は俺も気を引き締めるよ」
「うん、ありがとう」
「その上で何があったの?」
忘れてなかったか・・・。
仕方ないとお昼にあったことを説明すると要の表情が曇った。
「あまり良い傾向じゃないね」
「ええ、宇崎は隆二さんが国外に逃亡したか空港各所の防犯カメラを調べようとしてるようだけど、難しいでしょうね」
「宇崎のことだから前からその辺の情報は調べてあるはずだろう?」
「宇崎隆二としてはね。国外に逃亡しているのなら宇崎を知る彼なら姿形を変えて移動しているはずだから。そうなると調べるのは至難の業よ」
「そうか。宇崎内部の人だからこそ、裏を掻いて逃げ仰ることも可能なのか」
「味方の時は心強いけど、敵に回れば恐ろしい一族の1人だからね。だからこそ悪用された可能性は否めないのよ」
「悪用?」
「両親の死に関わっている可能性と姉さんのデーター消去の暴挙に出たことを考えても、単独行動とは思えないのよ」
「例の負の連鎖に関わっているかもしれない因縁の相手のことかい?」
「相手が術者であるなら、暗示をかけて彼を手足のように使った可能性があってもおかしくはないわ」
「暗示で言うなら、エリンの両親に暗示をかけられた可能性もあるんじゃないか。それならブレーキ痕がなかったことにも説明がつく」
「つまりブレーキが効かないと思い込まされたってこと?」
「暗示って“思い込み““刷り込み“のようなものだろう。完全犯罪になり得るから連鎖を誘発しようとしている者からすると便利な能力だよね」
初心者の絵梨ですら、出来るのなら相手も簡単に出来ると思った方がいいだろう。
捜査を行えど、全容が見えてこなかったのにも説明がつく。
「警察の発表に嘘はなかったと?」
「警察を疑う何か気になることがあるのかい?」
「捜査本部が立ち上がり、捜査を始めた当初から現場で動く刑事と上層部とでいざこざが絶えなかったと報告は受けているわ。姉さんが亡くなってからは撤退判断も夜逃げ並みに早過ぎて担当刑事が怒りを滲ませていたと聞いているわ。つまりどこからか圧力があったと現場の刑事も宇崎を感じている」
「よほどの権力の持ち主がバックで動いている、と?」
「それかここでも暗示が有効打になっているのか、よ」
「後者の場合、雲を掴むような話だろう」
「そうね。実行犯を追っても正解は出ないでしょうね。支持役を捕まえない限りはね」
「その場合、暗示で動いた人たちは罪には問えないよな」
「宇崎隆二が本当に暗示によって裏切り行為が行われていたとしても、刑事沙汰にはならない。少なくとも両親の死は事故死と処理されているから、罪には問えない。データー消去に関しても宇崎が訴えない限りそれも難しいでしょうね。一族の恥を晒す行為をするとは思えないしね。けど」
「誰もが彼が本心から裏切っていると思いたくない気持ちはあるけど、最悪を想定して動かなければいざとなった時に動けなくなることだけは避けなければいけない。彼自身が自ら考え行動したことも含めて捜査する必要があるわ」
「そう、だね。三段論法や対偶の考え方は基本だからね」
要の言葉に絵梨は頷いた。
三段論法
2つの事実(前提)を組み合わせて、新しい結論を導く推論方法。
『AならばBである』『BならばCである』という2つがわかっている時、『AならばCである』と繋げることが出来る。
対偶
『AならばB』と言う命題(ルールの文)に対して、結論を否定して順序を逆にした『Bではないならば、Aではない』と言う関係のこと。
例を挙げるなら、『雨ならば、地面が濡れる』の対偶は、『地面が濡れていないならば、雨ではない』となる。
どちらも意味として正しく成り立つのである。
「恭二くんの父親を悪く考えるのは気が進まないが、人の悪意はいつどう転ぶかわからないからな」
「それもあるけど、正直宇崎隆二に関してはその評価は二分しているのよ。私のように良い印象を持つ者と、彼の若い頃同様に晩年も悪い印象を持っている者ときっぱり分かれているのが現状なのよ」
「なぜ?」
「彼はこうと決めたらとことん突き詰める人だった。そのやり方が直球すぎていざこざが絶えなかったのも1つの原因みたい。正論であっても押し付けは誰も受け入れないし反発を招くわ。融通が効かない人でもあったと真兄は言っていたわ」
微妙な表情の要に、絵梨も眉を下げた。
「基本的に隆二さんを悪く言う人の方が多い理由の一つに、彼は同世代から上の人には強気の姿勢を取っていたそうよ。問題が起きた時は兄弟の族長がいたから説得していたけれど、『石頭』が彼のあだ名だと聞いているわ」
石頭・・・・。
そういう人いるよね。と虚無顔の要に絵梨は淡々と口を開いた。
「でも恭二世代の私たちには常に愛情を持って接してくれていた。あの姉さんですら、隆二さんを信頼していたから」
「マリンが?」
「恭二のことは避けていたのに、その父親には随分心を開いていると私は感じていたから」
「へ〜。珍しいな」
鋭い視線を前方に向けて考え込んだ要に絵梨は首を傾げた。
「何が?」
「マリンは・・・基本、人を信用しない」
「・・・・・え?」
「あいつの周りにはいつも誰かがいて人気者ではあったが、誰か個人的に強い繋がりの人物を側に置こうとしなかった。幼少期から中学時代を振り返っても誰とでも浅い関係性を貫いていたように見えた」
「だから人を信用していないと感じたの?」
「あいつの関心事は常に、エリン。君だった」
っ!!
確かに姉には可愛がってもらった記憶しかないが、友を作らないほどとは思っていなかった。
幼少期から残る写真たちを見ても、特定の人物と写っているものはそう多くなかった。
邸宅内での行事で写されたものには宇崎の面々と2ショットで映るものは存在したが、学校関係の中には真一と要以外のものはなかった。
だからこそ。
それからすると、高校時代のあの3ショット写真が異彩を放つ。
「じゃあさ、要くんは姉さんの高校時代のあの写真見てどう思った?」
絵梨の言葉に要はブルブルっと体を震わせた。
何!?どうしたの!
見れば要はトレーナーの袖を捲って腕を出したのだが、寒いぼが出ていた。
何で!?
「正直に言っていいか?」
「う、うん」
「キモい」
はい?!
「正直あいつがあれほど相貌を崩して笑っている姿を見たのは初めてだった。しかも同性の友人らしき人物とだろう。信じられず最初C Gなのかと思ってしまったほどだ」
そ、そんなに・・・・?
「ただ違和感を覚えたのは、それほどまで心を開いた相手がいたにも関わらず、マリンはエリンや両親にその2人を紹介しなかったんだろう?それどころかそういった話題すらも触れてこなかった。エリンが絹谷を知らなかったということはマリンはそれを隠していたことになる」
要は自身の膝に肘を突き、両手を交差させて前を見据えていた顔を絵梨に向けた。
「エリンには誠実に接していたあいつにしてはおかしな行動を取っていると感じたよ」
で、あるなら・・・。
紹介したくなかった。あるいは紹介出来なかった・・・・?
どんな友人関係だったんだろう?
「そういえばもう1人写真に写っていた人にも面識はないのかい?」
「そっちの人も私は知らないけど、宇崎の面々は見知っているらしいわ。姉さんのお墓に毎年お参りに来ている人らしいわ」
「墓?ああ、それなら俺あの墓地で会ったことあるかもな」
「え?」
「何年前だったかな。俺が行った時に先に来ていた人がいて、マリンの墓に手を合わせている人には初めて会ったから挨拶をしたんだけど、その女性は慌ててその場を逃げるように走って帰って行ったんだよ」
「要くん、何したの?」
「普通にマリンの知り合いですか?って聞いただけなんだけど」
それがまずかったのか?と頬を描く仕草をする要に絵梨は首を傾げるしかなかった。
おかしな質問をしたわけではないのに、なぜその女性は逃げるように走り去ってしまったのか?
それなのに毎年お墓に参っているのも気になるな。
「やっぱりその彼女に会って、姉さんの高校時代の話を聞かないことには先に進まないような気がするな」
「彼女が気になるの?」
「異常に、何故か、ね」
「妬けるんですけど〜」
「・・・・捜査上気になるだけで、そんなんじゃないからね」
しかも女性相手に何、ヤキモチ妬いてんだ。
「エリンの頭の中を全部俺で埋めて欲しいだけだよ」
「姉さんの事件の真相解明と白芭の負の連鎖が止まれば、それも可能かもね」
「道のり、長い〜・・・」
と、ソファに倒れ込む要に絵梨は笑ってその上に身を預けた。
「だから、みんなで頑張ろうね」
「もちろん手伝うよ。でもたまにはご褒美欲しいと思ってしまうんだ」
飴と鞭は必要か・・・。
体を起こし要の頬に軽くチュッと唇を当てたが、要は不満だったようだ。
「どうせならここに欲しかった」と、唇をトントンと触れる要に絵梨は苦笑いした。
「・・・軽く1回だけだからね」
前置きを置いて実行すれば、要はご機嫌でその後ギュウギュウと抱きしめて来た。
絵梨から自発的にキスされたことがよほど嬉しかったらしい。
絵梨も歩み寄りは大事。と、そっと要の背に腕を回した。
次回は数日空けて投稿になると思います。
よろしくお願いします。




