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全てはここから始まった〜最後には根源、断ち切らせて頂きます〜  作者: 虹乃懸橋


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60、宇崎の異端児


ぼちぼち、ゆっくり更新。


今回話が長くなったので、2話に分けました。

後半部分は明日、投稿いたします。



 その日の夜、要のマンションで1人夕食を食べ、後片付けを済ませていた。

 本日、要は取引先との会食が入っており、先ほど終わって帰宅すると連絡が来ていた。


 絵梨は先にお風呂も済ませ、ちょうどお風呂場から出たところで廊下でばったり顔を合わせた。

 要はほろ酔いらしく、いつもよりゆっくりとした動作でぎゅっと絵梨を抱きしめて来た。


「おかえり、要くん」

「ただいま、エリン」


 首筋の顔を埋めスーッと息を吸い込む要に、ガッとしたから顎を突き上げてやる。

「変態っぽいから、やめて」


「石鹸のいい匂いがする」

「お風呂上がりだからね。要くんも入って来たら?」


「じゃぁ、そうしようかな。エリン、お風呂から出たら宇崎隆二って人の話を聞かせて」


 避けては通れないことは分かっている。

 デリケートな話だけに気が引けるが、黙って頷いておいた。


 30分後、お風呂から出た要は帰宅した頃よりはお酒が抜けたのか、これから話を聞くために意識をはっきりさせたのか、緩んでいた顔がシャキッとしていた。


「どんな人だったんだ?」


 絵梨は素面では話しにくいと、要にお酒がいるか聞いてから冷蔵庫から2本のお酒を取り出しリビングのソファに座った。

 要も向かい側のいつもの席に座って、テーブルに置かれたビールのプルトップを開けて一口喉に流し込んだ。


 絵梨は異常に喉が渇くのか、酎ハイを開け勢いよく喉に流し込み大きく一息吐いた。


「宇崎隆二。昔から宇崎の異端児と言われ、若い頃に一度家を飛び出した荒くれ者。幼い頃にその話はよく聞かされたわ」


「気性の激しい人だったのか?」


「ううん、私たちが物心ついた頃には落ち着いた善良な人だった。若い頃の話をすると黒歴史だと照れくさそうにしていた人だった」


 若い頃に粋がって家を飛び出し、グレて暴走族に入り警察にお世話になった事もあったという。

 高校を中退し友人宅や遊び相手の女性の家を転々としていた生活を続けていたが、生活のためにバイト三昧を送る日々の中、19歳のある日1人の人物との出会いが彼を真っ当な世界に引き戻した。


 それが恭二の母親との出会いだったと言っていた彼の顔を今でも忘れない。


 美しい思い出ではあるが、恭二を産んでから体が弱くなった彼女は絵梨たちが5歳の頃に亡くなった。

 その悲しみも癒えていない恭二の父親は、寂しさを滲ませており複雑な面持ちをしていた。


「若い頃に好き勝手した人だったからかな。同年代の人と比べても肝も座っていたし、人一倍落ち着いた人だった。その性格や生活態度を見て父は隆二さんを秘書に欲しいと言っていたけど、『学のない自分には不相応』だと辞退し、長年運転手をしていた人よ」


「疑わしいところがあると言うのは、そういう人生を歩んでいた人だからか?」


「疑い始めたのは姉さんが留置場で亡くなってからよ。以前も話したと思うけど、仲嶺の両親が事故死か他殺かはっきりしない中、本来運転手だった彼は両親をいろんなところへ送迎することを任された仕事だった。しかし姉さんの訃報に気が動転した両親に自家用車で行くように進言しただけでなく、その後その送迎車ごといなくなっている」


「そういえばそんな話をしていたね。それが恭二くんの父親だと?」

「そうよ。両親が乗った自家用車には細工はされていなかったと警察からは告げられているけど・・・・・それすら疑わしいと宇崎は判断したわ」


「その場合、恭二くんの父親が怪しいこと前提で話を進めていることになるが・・・」

「無実なら姿を隠す必要はない。何らかの理由があって姿を隠したにしても一言あっても良いものなのに黙っていなくなったことが、一族の人たちに悪い印象を与えてしまった」


 持っていた缶酎ハイを煽り、絵梨は息を吐いた。

「それに姉さんの訃報の後、私はすぐに仲嶺を離れて5年間宇崎と連絡を取ってなかったから、隆二さんがそんなことになっていることも宇崎一族が彼とその家族を除籍を決定していたことも、その時まで知らなかった」


「除籍?つまり恭二くんは・・・」

「15の時に宇崎を追い出され、宇崎とは関係のない他県の児童養護施設に入所していたらしいわ」


 絵梨は缶酎ハイを持ったままソファに寄りかかり天井を見上げた。

「でも5年後あいつと再会した時、『悪いことばかりではなかった』とそう言って響子を紹介して来たの。その施設で出会い、『支え合える人が出来たことは幸いだった』と安堵に近い表情をしたあいつは本当に幸せそうだった」


 その時には妊娠発覚した直後で、2人とも嬉しそうだった。

 当時のことを思い出し、複雑な表情になった絵梨に要も複雑そうだった。


「再会した頃はまだエリンも恭二くん達も大学生の頃だろう。不安はなかったんだろうか?」

「あの頃の2人には明るい未来しかなかったのよ。2人とも不慮とはいえ家族を一気に失いゼロどころかマイナスからスタートせざるを得なかったから」


『同じような境遇だったから自然と惹かれ合い、寄り添うようになったの』

『人は傷の舐め合いだと笑うかもしれないが、俺たちは本気なんだ』


 そう言っていた2人は寄り添って笑い合っていた。


 そんな2人を見て、正直、羨ましいと思うこともあった。

 絵梨には祖母や叔母がいたが、どこか孤独だった。


 同年代の理解者がいなかったからといえばそうだが、思い合っている2人を見て無い物ねだりだとわかっていて隣の芝が青く見えたのだ。


 だからこそ分かり合えた存在を手にしたあの2人を、心の底から応援したかった。


「問題は金銭面だった。大学生な上に結婚出産となれば物入りだからね。だから私が再度宇崎の敷居を跨ぐタイミングで恭二だけでも不問にするように掛け合ったの。親の悪事を子供にも背負わせるのはナンセンスでしょう」

「そうだね。まだ15歳だった学生には酷な話だし、行き過ぎた処分だね」


「一族内でも賛否が分かれていた中、ずっと疑問を持って動いていた筆頭が真兄だったから事はすぐにひっくり返せた。そのおかげで恭二達夫婦は宇崎に戻れることになり、金銭面、育児面で後ろ盾を得て今に至るわ」


「最悪の結果にはならなくてよかったと言うべきだろうが・・・その隆二という人は今でも連絡はないんだろう?」


「ないわ。それどころか逃げるには資金が必要となる中、彼の口座は手付かずのままらしいわ」

「そうであるなら、支援者がいるってことかい?」


「宇崎はそう見てる。だから今でも隆二さんを追う部隊がいるけれど、その痕跡は一切掴めていない」

 表情が固い絵梨に続いて要も眉間に皺を寄せた。


「相当な後ろ盾がいるか・・・・最悪の場合、すでに彼は・・・」

「その最悪のシナリオを避けるために、宇崎内でも隆二さんを一刻も早く見つけようとはしている。悪いことをしたなら自首させ引き戻そうと躍起になっている」


「恭二くんには酷な話だな」

「そうでもないわ。その首に縄かけてでも罪を償わせようと先頭に立って指揮しているのが恭二なのよ」


「それは・・・」

「恭二にとっては実の父親ではあるけれど、汚点だと感じているのよ。私の父に拾われ恩義ある仲嶺を裏切ったと言われている父親は恭二にとっては血が繋がっているからこそ、絶対に許せないと今でも思っているようだからね」


「仲の悪い親子関係だったのかい?」

「恭二が一方的に嫌っていたように感じてるわ。幼い頃に母親を失い、その分愛情を二倍以上にして接してくる父親に戸惑い、思春期に入ってからは鬱陶しい方が優っていた最中にあの事件が起きた。親族が周りにいたことで逃げ場があったことがあの親子の関係性を薄くさせたと誰もが感じていた程、よそよそしい親子関係だった」


「恭二くんはそのことを後悔しているのかもしれないね」

「でしょうね。親の立場に立って初めて思えた感情だったみたい。分かり合える機会を失ったことを心の底から悔いている。だからあいつは躍起になって父親の所在を必死に探していると身近な者達は皆感じているわ」


「それだけ愛情深い人が悪人になっていると思えないが・・・」

「誰もそう思いたくはないのよ。ただ姿を隠す必要があったのなら相談して欲しかったと思う者達からするとその秘密を打ち明けて貰えなかった寂しさややり切れない思いを持て余していることが悪い方向に考えてしまう要因なのよ」


「彼の所在さえ掴めればいうことないのにね」

 要の言葉に絵梨は、ぎゅっと固く目を閉じた。


 その考えに行き着いたのは何も要だけではない。


 今日のお昼に保健室に来た恭二に、父親の隆二が今どこにいるか。

 住職の孫捜索時にした透視をしてくれないかと訪れて来た。


 その表情は切迫し緊張と恐怖が入り混じり、流石の絵梨も突っぱねることが出来なかった。

 その前に誰が今朝の話を漏らしたのか。


 学園内のデーター消去の事実はごく一部の人間にしか開示していない。

 恭二には絶対に告げるなと真一には言っていたのだ。


『急に何?』

『急じゃねー。数日前から親父捜索の部隊が活発に動いていて俺が気が付かないと思っているのか。俺が指揮している部隊だぞ。俺の預かり知らぬところで動きがあったなら不審に思うだろうが』


 っ!!

 真兄、あの部隊そのまま動かしたの!?


 恭二に気づかれるのは、時間も問題だったということだ。

 他に動かせる部隊はなかったのだろうか?

 いや、ないからそこの部隊の尻を叩いたんだろうが、あの真一にしたら下手したな。と絵梨は内心頭を抱えた。


『ここの所、お前がいろんな依頼をしたことで動かせる部隊がなかったから仕方なかったんだろうが、俺にしたら幸いだったよ』


 座っている絵梨のつむじを恐ろしいほどの笑みで言われた絵梨は居た堪れず、視線を外すしかなかった。


『仲間外れにしたのは、マリン姉ちゃんのことが関係しているからか?』

『分かっているなら引き下がってくれない』


『無理だ。だが問題ない。頼む親父が絡んでいるなら捜索の指揮を俺にさせてくれ。あの馬鹿親父に一発お見舞いしてやらないと気が済まないんだ』


『前はボコボコになるまでボコるって息巻いてなかった?』

『・・・俺も親の立場になって、親父の気持ちが少しはわかるようになってからは、俺の態度にも問題があったと気づけたから。それでも裏切り行為があったのなら一発くらいは殴らないと気がすまねぇんだよ』


 恭二の覚悟を目の当たりにして、絵梨は真剣な表情になった。


『・・・前はすんなり探し人を見つけられたけど、今回も見つけられるとは限らないわよ』

『それでもいい。少しのヒントでもあれば十分だ』


『分かった。準備が出来次第、もう一度呼んで。すぐに向かうから』


 その数十分後、理事長室に呼ばれた絵梨は捜索するために隆二の写真を持って透視を行った。


 日本地図全体が乗った資料を前に手を翳(かざ)すが・・・・。


 以前は探し人がいたところが熱く感じることが出来たその行為で、日本中のどこにも、一切熱を感じなかった。


 つまり、宇崎隆二の痕跡は辿れなかったのだ。



 


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後半部分は明日投稿予定です。

よろしくお願いします!



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