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全てはここから始まった〜最後には根源、断ち切らせて頂きます〜  作者: 虹乃懸橋


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59、一進一退


お待たせして申し訳ありません(汗)

体調と相談しながら執筆を行なっています。

応援して頂けたら嬉しいです。



 微妙な空気の中、真一が淡々と話を進めた。


「どちらにしろ遺恨を取り除くのは、事件解決を迎えた後です。その上でこの件はもう幕引きなさいますか?それとももう少し深掘りしますか?」


「そうね。もし可能なら前任者と一緒に姿を眩ませたという〈鍵〉の行方を追ってほしいわ。情報通りなら瀧田と一緒にいる筈だけど、瀧田は独り身のはずなんだよね」


「一緒にいないのかよ?」

 驚く恭二を他所に絵梨は昔の記憶を呼び越して見るが、やはりNOだった。


「見たことも聞いたこともない。それに白芭が解体されるまで彼女は女帝と一緒に暮らしていた。そこに男性の影はなかった」


「そうであるなら、どこまでが本当でどこが嘘か見極める必要がありますね」

「ええ、それより彼女のDNA鑑定はどうなってるの?」


「研究機関に出してあります。2週間程で出ると聞いています」

「取れる情報は一つでも多い方がいい。捜査終了後、どこかのタイミングで分家筋のDNAが採取出来たなら照合してみよう」


「わかりました」


「ただ〈鍵〉の情報は入りにくい可能性はあるから無理そうなら引き上げてもらって構わないわ」

 絵梨の言葉に真一がもう一度頷く中、蘭丸が頭の後ろで腕を組んで質問して来た。


「仮説通りなら瀧田って人、姿形を変えているなら整形だよね。その辺は調べなくていいの?」


「おそらくそこは女帝が手を回していると思った方がいい。暗示をかけられている場合、その辺調べようとしても私以外の人間が動くとなると全く手掛かりが見つけられないと思うわ。無駄骨だろうからそこは調べなくていい。どうやって変えたかよりそこまでに至った過程の方が大事だから」


「そっか」

 蘭丸が納得する中、真一が口を開く。


「そういえば、大学で情報提供のあった写真ですが、後2、3日で拡大・人物特定出来るほどの映像解析が終わるようです」


「わかったわ。出来上がったらまた声をかけて」

「もちろんです」


 始業時間も迫り、各々仕事と学業に戻ろうと理事長室を出ようとその場から離れようとした時、理事長机の上に置いてあった真一の個人用の携帯が震えた。


 その画面を見て、真一が驚いた。

「要?」


 前回絵梨が、簀巻(すま)き状態で宇崎邸に運ばれ、瀧田が来訪後に2人で部屋に引きこもり話し合いが行われていた頃、真一と要はいくつかの話し合いを行ったらしい。


 その一つがお互いの呼び名だ。

 真一は知崎姓で見知った人物に、要と生徒の静波、その保護者の一心と絢音がいる。

 要は宇崎姓で見知った人物に、真一と恭二、そしてその配偶者である響子だ。


 家名で呼び合うのはややこしくなるので、お互い個人名で呼び合うことになったと絵梨は双方から聞いていた。


 退出しようと背を向けていた絵梨は(え、要くん?)と振り返り真一を見れば、困惑顔でその電話に出ようとしていた。


 それを見た恭二が絵梨を見てニヤッと笑った。

「何、お前もう愛想尽かされたのか?」


 今朝も円満にそれぞれ仕事場に向かった絵梨は呆れ顔を幼馴染に向けて言ってやった。

「アンタじゃあるまいし、そんなわけないでしょう」


「愛想尽かされてねーわ!」

「禊(みそぎ)やったからっていい気になるんじゃないわよ。同じようなことやったらマジで息の根止めてやるんだから」


 真一は電話を出たくても外野がうるさいと眉を顰めた。

「2人とも黙りなさい!電話に出れないでしょう!」


 真一の激に2人が黙った所で通話ボタンを押しスマホを耳に当てた。

「はい、宇崎。何かあったのか、要?」


『急に悪い。こちらでわかったことがあったんでデーターを真一のパソコンに送っておいた。そっちですでに情報収集出来ていたなら無駄骨だろうが、エリンからその辺の情報を聞いていなかったから一応送ったよ』


「何の情報だ?」


『マリンらしき者が取り憑いていた女性。うちに勤務する秘書の履歴書をひっくり返して判明したことだ』


 その話から真一は一旦要に断りと入れ、スマホを置き宇崎陣営の方に顔を向けた。

「ここからは私とエリンで対応に当たります。2人はすぐに退出後、各々の本分を全うして下さい」


 何で!と言いたそうな蘭丸には「学業優先」と言い、恭二には「始業前に一度、花凛とコミュケーション取るよう族長に言われていたでしょう」と釘を刺せば、2人は納得いかない顔をしながらもスゴスゴと出て行った。


 蘭丸はともかく、恭二を追い出したとなると姉がらみか。

 察した絵梨は2人が出て行った後、理事長室の扉の内鍵を閉め、真一の前まで戻った。


 真一は机の上にあったパソコンを立ち上げメールボックスから要から送られたメールの添付資料を立ち上げ、画面を共有するため絵梨が見えるようにパソコンの向きを変えた。


 スマホの通話をスピーカーに切り替えた真一は資料を見て「何となくそうではないかと思っていたよ」と要に告げた。



 その30分程前


 週明けの始業時間前にメールのチェックをしていた要は、副社長室の扉のノック音を聞き「どうぞ」と声をかけた。

 入室して来たのは専属秘書の堂本で、いくつかの資料を持って目の前に立った。


「この後に必要な会議資料をお持ちしました」

「ありがとう」


 資料を受け取り、中身を確認していると堂本からもう一つ情報がもたらされた。

「それと」


 前おきを置いた堂本に違和感を覚え、資料から秘書に視線を送れば伏せ目がちに言葉が来た。

「絹谷秘書ですが、先週無断欠勤が続き、スマホも不通のため同僚が自宅に伺いました所、ご家族がいたようで行方が分からなくなっているそうです」


「・・・・捜索願いは出されているのか?」

「それが、彼女の母親曰くいなくなる原因に思い当たることは一切なく、うっかり職場に連絡しないまま旅行にでも言っているのだろうと。連絡がつかない以上、本人の真意は別として仕事を辞めさせる気はないので長期休暇を申請し処理してほしいと言われたそうです」


「随分と多干渉な親だな」

「同感です。しかし本人と連絡がつかない以上、その真意は不明のままですが、休暇申請で処理して構いませんか?」


「彼女の有休は残っているのか?」

「ほとんど使っていないので、二ヶ月分くらいは残っているかと」


「では本人の連絡があるまでは有休消化で。どんな形にしろ接触ができた時点で社会復帰するのか、辞表を提出するのか本人に確認を取って下さい」

「わかりました」


 一礼して去る堂本に、要はふと気になることを口にした。

「堂本」


「うん?」

 仕事中は『堂本秘書』と呼ぶ要が呼び捨てしたと言うことは個人として呼び止めたことに堂本は驚き、扉の取手に手をかけていたのをやめて向きを変えた。


「絹谷秘書は俺たちと同じ大学ではなかったよな?」


 質問の意図はわからないが、堂本は返答する。

「違う。彼女は女子大出身だったはずだ。親が厳格で異性と接触することを極端に嫌ったとかで、大学も親にそこを勧められて決めたとか。就職して異性と接することになって戸惑っていると同期に言っていたのを耳にしているから」


「そうか。わかった」

「?何かあるのか?」


「いや、ふと気になっただけだ。彼女との面識は会社に入ってから知ったはずなんだが、彼女は初対面の時から俺のことをそれ以前から知っているような素振りをしていたと感じたんでな」


「そりゃ、お前は大学入学してからここでインターンで出入りしながらその能力を発揮して周囲にその実力を認めてもらえるように動いていたただろう。そのおかげで入社前にも関わらず企業雑誌とかに『次期社長候補』として取り上げられていたから、向こうが一方的に知っていてもおかしくは無いだろう」


「そういうものか?」

「内定した企業の情報が載ってるなら、誰でも目にするだろう。俺ですら内定決まったあの頃わざわざ雑誌買って確認してたんだ。的外れでは無いだろう」


 堂本は当時を思い出し笑った。


「ここに入社してからは自社の記事が載っている雑誌は、会社が購入して社内で閲覧出来るように各部署で回覧されてるから気軽に見れるが、学生の頃は自分で買う以外選択肢はなかったから出費は痛かったけど、一部上場企業の情報は見逃せなかったからな。彼女の性格上、同じようなことはしてただろうよ」


「秘書の鏡ってやつか?」

「いんや〜。内定した頃はどこの配属になるかなんてわからない中で、それなりに努力してたってだけの話さ」


「彼女の話をしつつ、自分を持ち上げてないか?」

「バレたか」


 ニヤッと笑って部屋を出て行く親友に呆れながら見送った要は、腕を組んで考え込んだ。


 マリンが取り憑いている相手である絹谷は、今の見解では“死して尚マリンが彼女を守っている“であろうと推定されている。

 その想定が正しいなら、あの2人は顔見知りだ。


 しかもそこまで擁護しているのなら、相当親しい間柄と見ていい。


 ただ・・・・と天井を見上げて、思考を巡らす。


 マリンとは幼稚園の頃から同じ施設に通っていた要は、小中大学と同校だった。

 その間、絹谷を身知っていないということは空白の高校時代にあの2人は知り合ったと見るべきだ。


『親が厳格で異性と接触することを極端に嫌ったとかで、大学も親にそこを勧められて決めたとか』

 先ほどの堂本の言い分が正しいなら大学だけでなく、高校も女子校であった可能性がある。


 マリンは、現在エリンが務める宇崎の運営する私立女子校に通っていた。


 まさか!とパソコン画面を切り替え、上層部のみが入れる暗証番号を入力後シークレット端末に繋げた。


 社員の履歴書が入っているファイルを開き、絹谷で検索し画面に出てきた履歴書の学歴を見て疑惑は確信に変わった。


 要(かなめ)やマリンと同い年の絹谷は、宇崎女学院高校出身者と判明。

 つまりあの2人は高校時代に親しくなった間柄ということだ。


 大学の頃に大きな事件が勃発し、皆が大学時代にフォーカスして動いていたが、実は高校時代も知る必要があるのではと画面の履歴書を宇崎真一のアドレスに転送した。


 宇崎のことだから、もしかしたらその辺の情報は持っているかもしれないが、絵梨からそんな情報を聞いていない要は万が一とスマホを取り出した。

 それが真一に電話した概要だった。


 宇崎学園の理事長室のパソコンを真一と共有しながら見た絵梨も眉を顰めて真顔だった。


「実はマリンが在籍していた頃のデーターがうちのサーバー内全て綺麗に消し去らていてな。マリンの交友関係を調べようにも一切情報がなくて困っていたんだ」


『消し去られたってどういうことだ?』


「うちの一族内に裏切り者なのか、はたまたマリンの回し者だったのかわからない者がその辺の情報を全部消していったようだ」


『その誰かは、わかっているのか?』


「IDが正しいなら、宇崎隆二。恭二の父親だ」

『防犯カメラに写っていて、まだそのデーターがあるなら間違い無いだろうが、誰かがIDを盗んで実行しているなら、はめられた可能性もあるんじゃないのか?』


「確かにな。ただ彼には他でも疑惑が絶えない人物なだけに、無実と言い切れない部分がある」


 スマホの向こうで要が息を飲む気配がする中、絵梨は自分のスマホの中にある一枚の写真を要のスマホに送った。

「要くん」

 絵梨の声に要が『エリン♪』と嬉しそうな声が返って来た。


「今あなたのスマホに写真を一枚送ったわ。その写真を見て、姉さんと一緒に写っている女学生2人の内どちらかが取り憑かれている人物であるかどうか確認して欲しいの」


『わかった。それなら一度電話を切るよ。その上でもしそのうちの1人がうちの秘書であったならメールで返信しておくよ。この後会議が入っていてゆっくり話している時間がなくてごめん』


「充分よ。私も始業時間が近づいているからその方がいいわ」

『じゃあ、また後で』


 ぷつりと通話が切れたスマホを真一が回収しながら絵梨に視線を向けた。

「例の3ショットの写真ですか?」


「そう花凛ちゃんが見つけてくれたUSBに入っていたデーターね」


 自身のスマホ画面に映る3人の女学生。

 姉を中心に両脇にいる女学生の内、左側に写ってるメガネの人物は毎年姉のお墓参りをしている人だと断定している。


 知崎の会社の秘書がその人物なのか。はたまた右の人物なのか。

 それとも、ここに写っていない人物なのか・・・。


 要は高校時代アメリカに留学していて、姉の高校時代を知らないから見せても無意味だと勝手に決めつけてこの写真を見せていなかった。

 こんなことなら情報共有も兼ねて彼に見せておくべきだった。とこの時絵梨は後悔した。


 数分後、要から送られて来たメールには[右側の学生が絹谷で間違いない]と返信が来た。


 絵梨はスマホ画面を無言で目の前の人物に見せれば、真一も考え込んだ。


「左に映る人物は毎年墓参りに来る御仁で、右側が絹谷姫奈ですか」


「右側の彼女はお墓参りに来たことはないの?」


「報告は受けていないので、一度も来ていないと思います」


 こんなに仲良さそうに笑い合っている関係性なのに?

「どこか歪よね」


「学生の中にはその時だけ楽しければいいと割り切る子も少なくありません。特に最近はリア友よりネッ友を重視する子が多いだけに薄情と思うのも時代背景の前には意味を成さないと思った方がいいかもしれません」

「私の考えが古いの?」


「それぞれの価値観の違いです。現にこの写真に映る1人はそのご縁を大事にしようと毎年手を合わせに来ているのですから」

 確かにね・・・。


「で、あるなら俄然その左側の彼女に会って話をしてみたいわ」

「絹谷ではなく?」


「要くん情報によると、その絹谷って人。現在行方不明らしいわ」

 要から送られたメールの下側に、彼女の近況が記されていた。


 驚く真一に絵梨はもう1つ依頼する。


「大変だろうけど、この絹谷って人が今どこにいるのか探してくれない?」

「会社には来ていないと?」


「先週一週間は無断欠勤。週末彼女の自宅で親と対面したはいいけど、親も連絡がつかないと言ってたらしいわ」

 スマホのメールを見ながら言う絵梨に真一の表情は固い。


「あの日エリンが要の自宅で彼女の後ろ姿を見た以降、姿を眩ませていると?」


「そうみたいね」


「マリンの件もありますから、最重要案件として指示しておきます」


 ちょうどその頃、始業時間になりチャイム音が鳴る中、絵梨は「よろしく」というと理事長室を後にした。


 保健室に戻る際、スマホ画面にまだ映る3ショットを目にしながら呟いた。


「なんでだろう。絹谷って人より左側のメガネをかけた人の方がなんで気になるんだろう?」

 絵梨は首を傾げながらスマホ画面を消して、保健室に急いで戻って行った。




 


不定期更新中です。


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