58、本質を問う
愛犬の容体急変で天に召された・・・・。
ペットロスではありますが、現実逃避のように執筆してます・・・。
週明け職場に赴き、始業前に理事長室に向かえば、部屋の主である真一とすでに恭二と蘭丸がいた。
恭二は絵梨の顔を見るなり「瀧田さんの事で報告がある」と告げられ、先を促した。
「まず、あの日、あの時間」
あの日とは絵梨が瀧田を呼び出し喫茶店で話をした日のことだ。
あの時間とは絵梨と別れた後のこと。
「瀧田さんと立ち話をしていた女性だが、昔、白芭に出入りしていた家政婦だった」
記憶のある瀧田は、白芭の女帝に付き従いその行動の全てを白芭に捧げ個人の時間を持っていたようには見えなかった。
故に、見立て通りの回答に頷くしかなかった。
「名前は道明寺喜美子。親の代から白芭で従事していた人だ」
恭二の説明後、蘭丸も口を開いた。
「ただ辞めたタイミングは白芭が解体されるよりもかなり前。大病を患い13年程前で、白芭を去ってるよ」
「大病?」
絵梨の質問に蘭丸は頷いた。
「乳がんだったらしいよ。誰かに指摘されて病院行ってみたら、ステージ3だったらしい」
ステージ3。
がん原初の場所から周囲の組織や近くのリンパ節へ広がっている状態。肺や肝臓などの臓器への転移は認められない段階。
しかし誰かに指摘されて、か。
姉である可能性が高いな。
蘭丸がそこを濁したのは恭二がいるからか・・・。
現に真一と蘭丸は遠慮がちに恭二を盗み見ている。
「手術による局部切除と抗がん剤の組み合わせ治療だったみたいだけど、思いのほか治療に時間がかかった上に、その副作用で手の痺れ等が残ってしまったために、その後の仕事は一切していないそうだよ」
「この短時間でよくそこまで調べたわね」
防犯カメラから個人を特定。そこから彼女の素性を数日で調べるにはあまりに短い時間だ。
だから宇崎は侮れないのだが・・・。
絵梨の言葉に、恭二はため息を吐きながら蘭丸を親指で指した。
「そりゃ、こいつがいるからな」
どう言う意味だ?
「おば様キラーなんだよ」
へ?
「年配女性から非常に好かれる体質なのか、その辺の対象者に彼を当てがうと100%の成功率を誇ります」
真一の言葉に驚き絵梨が蘭丸を見れば、ニッカリ笑って親指を立てた。
直接話を聞きに行ったらしい。
不審がられなかった時点で確かにその好かれる体質には驚きを覚えるが、その情報はどうでもいい。と絵梨はスルーした。
「肝心の瀧田さんの情報は?」
エリン姉ちゃんひどい!と言いながら、蘭丸は拗ねながら口を開いた。
「聞いて来たよ。瀧田って人は42、3年前かな。それまで補佐官を務めていた人がいなくなった後、突如として現れた謎多き優秀な人物って認識らしいよ」
絵梨はその発言の中に気になるフレーズがあり蘭丸を見た。
「それまで務めていた補佐官がいなくなった、とはどう言う意味?」
「最初その話を聞いた時は白芭の女帝が追い出したのかと思ったんだけど、違ったよ。その前任者って人が急にいなくなったんだってさ」
「理由は?」
「駆け落ち?」
は?
「って言うのは的外れなのかな。結婚もして子供もいたようだし」
「???不倫した挙句に浮気相手と逃げたってこと?」
「蘭丸。エリンが困惑するから順序立てて話しなさい。余計ややこしくなります」
「だってエリン姉ちゃんが質問してくるから」
「それ遮ってでもその最初の補佐官が誰かを先に言うべきだったんだよ」
3人がわちゃわちゃと話ししているが、何?私が悪いのか・・・?
迂闊に質問もできんのか、と思いながら話の先を促す。
「その前任者って誰なの?」
恭二は気にすることなく淡々とすぐに答えた。
「白芭なぎさの母親だ」
以前の報告との違いに違和感を覚えながら追及する。
「いなくなった?亡くなったではなく?」
「家政婦のおば様が言うには、子供を産んですぐに夫と白芭を去っているらしいよ」
〈鍵〉を受け取った術者が次代を産んですぐに〈鍵〉と逃避行?
あり得ない状況に思わず身を乗り出した。
「・・・・理由は?」
「そこは誰も知らないらしい。女帝はどうかは分からないけど、分家では子供を捨てた非情な母親として認識されているって言ってたよ」
その言葉に絵梨は腕を組み合わせ、利き手人差し指をトントンをしながら考え込んだ。
しかしどんなに思考を巡らせても、辻褄が合わない。
子供を産んですぐに〈鍵〉と逃避行?
自由を求めたなら、女帝の娘のように結婚する前に逃げていたはず。
〈鍵〉を受け取って子供まで産んでおきながら、置き去りにして白芭を去るのはあり得ない話だ。
そもそもあの郁三爺さんが、本家乗っ取りを画策する中で自分の味方をミスミス逃すわけがない。
「どう思う真兄?」
「郁三氏の娘に当たる人物です。逃げた、という表現には違和感を覚えます」
だよねえ・・・。
「だとすると、誰かが嘘をついてるってことよね」
「そんなの十中八九、白芭郁三だろう」
「だが裏付けが取れていない以上、根拠に欠けます」
憶測でものを言うのは危険だ。
だが、その方が確かに違和感はない。
逃げたのではなく、追い出したのなら生まれた子供を置いて行った行動にも説明がつく。
まあいい。
今は瀧田の情報が先だ。
「前任者のことは一旦置いておこう。瀧田さんは42、3年前に突如として現れたと認識されているってことね」
「おば様情報ではね」
絵梨は記憶の片隅にひっかかるものがあり、それが何なのか?
思考を巡らせながら、何気に真一の後ろの窓に目をやり宇崎の邸宅を視界に捉えた時、そこで絵画を受け取りに来た瀧田と対峙し会話したことを思い出した。
その会話の中で、祖母の前世の記憶が蘇った出来事の中で重要なヒントが隠されていたことに絵梨は眉を顰めた。
(そうだ!あの時瀧田は祖母ちゃんの話をしていながら自分の置かれた立場も口にしていたじゃないか!)
なんで気が付かなかったんだ!
昨日伊代に言われるまでもなく、瀧田は白芭の人間であったことを彼女自ら話していたというのに!
祖母の若かりし頃、初夜を迎え、前世の記憶が甦り困惑。
寝所にいた夫に対し錯乱した祖母を見た祖父が、その後取った行動。
『寝所を飛び出した俊明様に【私が呼ばれ、朋恵様の所にかけつけた時には】現実と過去の記憶と混ざった状態でした』
次期当主の寝所に一塊の使用人が出入りできる筈もなく、その場所は限られた人間だけが入ることが許された場所。
男子禁制(〈鍵〉は除外)な上、古来から伝わる書物も保管されている部屋も存在していることから本家の私邸部分には許可を得たもの以外は入れない。
そんなところに瀧田が出入り出来ていたのなら、その頃にはすでに白芭の女帝の懐に入っていたと言うことだ。
ただその時期が合わない。
祖母は現在生きていたなら70歳になる年齢だ。
新婚初夜の時期はおおよそ半世紀、50年前。
瀧田が白芭内で認識された42、3年前とはタイムラグが生じる。
絵梨は机に手を置き、顔を強張らせた。
「まず瀧田さんだけど」
絞り出すように言う絵梨に、皆が驚き視線を向ける中で情報を共有すべく事実を告げた。
「彼女は白芭の血筋の者よ」
「え?」
キョトンとする蘭丸とは別に真一と恭二は驚愕顔で言葉が出て来なかった。
「昨日白芭の墓にお参りに行った際に墓守と話をして、彼女がそこに出入りしていることがわかった。あそこは白芭でも限られた者。儀式と〈鍵〉を受け取った者のみが入ることを許された空間だった」
「それは・・・・瀧田さんが女帝の姉妹ということですか?」
真一の言葉に、絵梨は首を振る。
「それはない。本家筋の出生に関しては家系図とは別にきちんと記されているけど、祖母ちゃん以外は記載されていない。白芭の血が入っていない妹は存在するけど、叔母は対象外。そうであるなら分家筋の人間ということになる」
出生記録。
白芭郁三のように男児が生まれた記録も含め本家筋に関するものが存在する。
女帝の時代に無紋で生まれた者が存在したことで、記録が事細かく残っている上にその後、その無紋の娘から2人の紋持ちが生まれた事も記載されていた。
ただ残念かな。分家筋の出生記録は少なくともうちにはなかったと記憶している。
「ところで瀧田って人の年齢っていくつなの?」
蘭丸の質問に絵梨は記憶を掘り起こす。
「確か祖母ちゃんより5、6歳下だった筈だから現在64、5でしょう」
「白芭なぎさの母親以外に姉妹はいないのですか?」
「どうだろうね?分家筋の記録は見た事ないし、ただ居たとして術者を統制されていた時代に、ホイホイと儀式と〈鍵〉を渡したとは思えない。それに・・・・」
大きく目を見開いた絵梨に3人が口を閉ざした時、絵梨は脳裏で空白があったパズルのピースが嵌る感覚に戦慄が走った。
「・・・そうか・・・・そういうことか」
1人納得する絵梨に恭二はイラつき「情報共有!」と声を張った。
「まず瀧田が現れたと認識されている期間が42、3年前ってことだけど、でも彼女の話では白芭の女帝の初夜に、すぐ側に控えていたと言っていた」
「待って下さい。白芭の女帝の結婚は約50年前ですよね」
「そうタイムラグがある。ではなぜ42、3年前からしか周囲に認識されていなかったのか、よ」
「面倒くせーな。気づいたこと全部話せよ」
耳をほじりながら言う恭二に苛立った絵梨が、ああ!?それが人に尋ねる態度か!?と下から睨めつけようとした時、真一と蘭丸にため息を吐かれた。
「2人って本当似たもの同士だよね」
蘭丸の言葉に
「似てないし!」
「似てねーし!」
とハモる2人に、真一が「そう言うところですよ」とトドメを刺した。
絵梨は解せん!と思いながら、口を開いた。
「まず祖母が結婚した20歳の時、彼女を14歳と推定しよう。そして瀧田として周囲に認識された時期は42年前であるなら彼女が22歳の頃」
「8年のタイムラグって大きくない?」
眉を顰めていう蘭丸に絵梨は否定した。
「大きくない。14歳の彼女が白芭の分家として〈鍵〉を受け取るまで6年。妊娠出産に1年。その姿形を変え別人になりすますまでにもう1年かかったとするなら8年の差にも納得が行く」
「別人になりすます!?」
恭二が驚き声を上げ、真一も蘭丸も眉を顰めた。
「瀧田が白芭なぎさの母親の姉妹ではなく、母親本人であったなら、彼女が白芭郁三に何らかの理由で追い出され、遺恨を抱えているのなら納得するし、辻褄が合う。その証拠にその前任者と瀧田の年齢が一致している」
基本白芭は、本家分家関わらず〈鍵〉の受け取りを20歳とし、その後すぐに結婚する流れになっている。
血の制約なのか、歴代の術者たちは翌年には出産している記録は充分過ぎるほど記録が残っている。
もし不妊の者がいた場合、即刻記載されるほどシビアなもので思春期にそれを目にした時はドン引きしたのを覚えている。
「白芭なぎさは現在44歳。母親はその21歳年上であるなら確かに年齢は合いますね」
真一の言葉に絵梨は頷いた。
「次期当主の寝所に出入りが可能な人物はそう多くない。従姉妹の立場で女帝を幼い頃から支えていた人物が瀧田であるなら、行き場を失った彼女に手を差し伸べ女帝が死ぬまで重宝し側に置いていたのなら辻褄は合う」
「確かに・・・分家内部のいざこざとはいえ、本家が無視できずに女帝が死ぬ前にわざわざ彼女の幸せを願ったのなら納得ですね」
真一の言葉に、蘭丸と恭二は微妙な表情になった。
「でもそれってさぁ・・・分家方の問題を解決しろってことだよね?」
「それ完全に丸投げだろう。無茶苦茶だな、お前の婆さん」
いや。マジで本当にな(怒)
白芭の本質、まじクソだろう!
本家と分家が仲悪い上に、遺言書公開した今、マジであそこと関わりたくないんだが!?
関わっていいことはない。
欲望のためなら他人を誘拐してまで事を起こさせようとする奴らだぞ。
顔が般若のような顔つきの絵梨に、恭二と蘭丸が閉口し同情の視線を向けた。
今後も不定期に投稿になると思います。
(病状が落ち着いていれば、毎日投稿または2日に一回?下手をするといつになるのかわからない・・・・。)
予告投稿が難しくなると思います。
ブックマーク登録して頂けると投稿後通知が行きますので、すぐに読めて便利ですので、よろしくお願いします。
コメント等も受け付けていますので感想など頂けると嬉しいです。
それでは〜。




