56、ご対面・・・ならず!?
地面に近い墓石間隔が狭いところに移動すれば、墓標下に小さな石のプレートが設置されており、31代目、32代目、33代目、35代目と表示されていた。
墓標が8つなのはその当主と〈鍵〉が一緒に眠っているからか。
そして34代目は白芭の女帝の母、幸恵曽祖母を指す。
その墓標がないのは、伊代の言っていた通り、呪い呪われた者の遺体はこの辺に埋葬できないからだろう。
ではその遺体はどこに厳重に保管されているか、だ。
35代目の墓標の前に立ち、祖母に話しかけた。
生徒経由で『当てにするな』と忠告は受けたが、一応言葉をかける。
「無事〈鍵〉を受け取ったから、報告に来たわよ」
・・・・・・・・。
まじで無視かよ。
「〈鍵〉の方から挨拶がしたいっていうから連れて来たんだけど、それでも無視するつもり?」
・・・・・・・・・。
おい!
〈鍵〉と一緒なら反応があるかと思ったのに、まさか〈鍵〉に対しても無反応とは思っても見なかった。
姿を見せるどころか声すらもかけない現状に絵梨は苛立った。
「祖母ちゃん!」
抗議の声を上げれば、祖母とは違う場所から声がした。
「朋恵は頑固だからなぁ。一度決めたことは梃子でも動かん。諦めい」
か細い声だがはっきり聞こえたのは絵梨だけではなく、要も同様だったようだ。
2人でその声のする方にバッと顔を向ければ、33代目当主の横の墓標の上に白い着物を来た年配の男性が浮いていた。
その姿はもう消えそうなほど薄く、その体の向こうが透けて見えていた。
33代目当主と横並びの配置から見て、その〈鍵〉方。
「実曽曽お祖父ちゃん?」
「おお、わしのことを知っておるとは嬉しいのぉ」
つまりこの人は祖母の祖父ということだ。
透き通っていても表情はわかるのは不思議だが、相好を崩した爺さんはフォッフォッフォと笑った。
「50回忌は終わってるはずよね。ここにいるって事は未練でもあるの?」
淡々と質問する絵梨に爺さんは急に、憤慨!と声を荒げた。
「なんじゃ!とっとと成仏しろと言うとるのか!」
沸点低いな。
「そうじゃなくて、基本土に帰る時間として50年が目安と言われているから仏教でも50回忌までお経が上がるんでしょう。実お祖父ちゃんはもうとっくに50回忌終わってるでしょう。祖母ちゃんからそう聞いてるけど」
「なんじゃとー!」
「私が頼まれてるのは、俊明お祖父ちゃんと女帝だった祖母ちゃんの供養だけだもん。それ以外は全て済ませてるって言ってたよ」
理路整然と答えれば、面白くなさそうに腕を組んでふよふよと移動し、35代目の二つの墓標の上まで移動して来た。
「ふん、可愛げのない子じゃな。わしはこの男の話し相手をしていたからまだここにおるんじゃよ」
「この男?」
質問した絵梨の目の前に大柄な男性が姿を現し、驚いた要が絵梨の体を引き寄せて警戒したが、遺影で見たことのあるその顔に絵梨が要に警戒を解くようにその腕を取った。
「大丈夫。この人は35代目の〈鍵〉俊明お祖父ちゃん。つまり女帝の夫よ」
警察から自衛官になった正義感あふれる厳つい男。
寡黙で何を考えているかわからない人物だったと聞かされていた。
しかし目の前の祖父は、思っていたより顔に出やすいのか、申し訳なさそうに眉を下げてオロオロとしている姿に拍子抜けである。
「絵梨だね」
優しい声色に一つ頷くと、にっこり笑ってくれた。
厳つい背格好だが、笑った姿はティディベアだ。
「朋恵ちゃん、挨拶くらいはしなよ」
祖父ちゃんに言われても、無視を決め込む祖母ちゃんにもう良い。と要に向き合った。
「普通の墓石に話しかけるように、もう一方的に話して良いから。思いの丈を存分に言っちゃってちょうだい」
眉を下げてショックを受けている要に、絵梨はフォローするつもりで言った。
「こんな状態に陥っていることは、間違っても要くんが気に入らないとかそう言うんじゃないから。自分(祖母自身)で選定しておいてNGはないから。この無言もどうせ私に文句言われると思って背を向けてるだけよ」
「文句?エリンは言いたいことがあるの?」
「そりゃいっぱいあるわよ。ワンマンプレイすぎる白芭のやり方にも腹が立つし、何より聞きたいことは、34代目当主と、仲嶺の両親、そして姉マリンの遺体はどこに安置しているのか。聞きたい事はいくらでもあるからね」
「ちょっと待ってくれ。マリンの遺体ってどう言うことだ!?マリンのお墓はもうあるじゃないか!」
「私も要くんも、そして宇崎や世間一般も騙されてたのよ。あそこにあるお墓には姉は眠っていない。伊代の言い分が正しいなら、呪い呪われた遺体は邪気を含むために厳重に保管する必要があるって言ってたわ。つまり無闇矢鱈に葬るわけにはいかないと言うことよ」
絵梨は向きを変えて35代目のお墓の前で仁王立ちになった。
「私は祖母ちゃんから姉のマリンの遺体は留置場で死後、警察が勝手に火葬を終わらせたと聞かされていた。その上であそこの墓地に埋葬したと言われて、なんの疑いもなく毎年お参りに言っていたけど、あそこには姉さんの遺骨は埋まっていなかったってことよ」
「なんでそんなことをしたんだ?」
「考えられるのは、姉さんが誰かを呪ったという事実を隠すためと、どこかのタイミングで私と要くんが出会うきっかけを作るためだった」
確証はないが、考えられる事柄として口にしてみたが、要は納得がいかなかったようだ。
「でも遺言書の公開で充分縁通しは叶うのに、そんなことをする理由はないじゃないか」
「そこが上手くいく確証がなかったんじゃない?万が一でも遺言自体をすっぽかす可能性もあったからね」
祖母が亡くなった直後の19歳の絵梨はそのつもりだった。と告げれば、要は「な!」とあんぐりと口を開けて絶句した。
「だから保険をかけたんだと思う」
実際お墓参りで個人同士で邂逅し、行動を共にした事を考えればそのリスクヘッジは有効打となったのだから。
「その上でその4体の遺体を、どこに保管しているのか聞きたかったんだけどねぇ。この様子だと応える気ゼロで胸糞悪いわ」
人伝いに『当てにするな』と釘を刺して来た以上、祖母は絶対に応えない。
一度決めたことを覆らせるには、経験上それ相応の情報、ないし対価を持って来ない限り皆無だ。
絵梨は苛立ち、腕組みして言い放った。
「返事してくれるなら手を合わせて帰ろうかと思ったけど、ばあちゃんがそんな態度なら私はこのまま帰るからね。何せ全ての因縁を私1人に丸投げしたくせに真摯に対応してくれないんだもの。そのくらいは許してよね」
その言い分に要の方が慌てて止めたが、絵梨は聞く耳を持たなかった。
それを見て曽曽祖父さんの実が「似たもの同士じゃのぉ」と呟いたが、「一緒にしないで!」と絵梨が吠えると「そう言うところじゃぞ」と笑って消えて行った。
その間に俊明お祖父さんが妻に返事をするように説得しているようだったが、無反応を貫く状態に祖父は肩を落としていた。
「いいよ祖父ちゃん。そうなった祖母ちゃんは誰の言うことも聞かないから。それより私の〈鍵〉になった彼が挨拶したいって言うからここに来たの。聞いてあげてくれる」
絵梨の言葉に笑顔で頷く俊明に、要は挨拶をした。
同じ〈鍵〉同士だからだろうか。
俊明は寡黙な人らしく、口を開かず頷いたり、相槌を打ったり、身振り手振りをしていただけだが、要には意図が通じたらしく思っていた以上に時間を費やし、2人でやり取りをしていた。
その間、絵梨はそんな2人の間に入る隙が見当たらず辺りを見渡し、気になる場所を見つけた。
墓地正面の裏手が気になり、そちらに足を向けるとちょうど墓標が立ち並ぶ丘の裏手に差し掛かり足を止めた。
目の前にはただの砂丘があるだけだが、なぜかこの場所が気になる。
砂丘の表面に手を当て触っていると、ビリビリと何かを感じる。
「伊代」
「はい、お呼びでしょうか」
すぐ後ろに現れた伊代にダメもとで質問する。
「ここには何がある?」
これまで何度も問いに応えてきた伊代がここに来て口を閉ざした。
口止めされてる時点でここに何かあると言っているようなものだろうに・・・。
「答えにくいなら別の質問をする。ここには何度利用した?」
無言ではあったが、伊代は右手でピースの形を作ってすぐに手を下ろした。
つまり2度ここを開けて何かを入れたのか。
憶測が正しいならここには・・・。
考え込んだ絵梨の耳に、要の呼ぶ声がしすぐに絵梨の視界にその姿を表した。
婚約者に手を伸ばせば、彼は駆け寄ってくれてその手を握ってくれた。
その上でもう一度砂丘に手を当て、何かを感じようと目を閉じ集中するとその奥の映像が脳裏に白黒の世界だが浮かんで来た。
見えない扉の先に人1人通れる程の狭い通路。
そしてその先にはそれほど大きくない空洞。
防空壕のような空間の中、シングルベットの3回りほど小さいストーンベットと棺が4つ並んでいる。
その棺の中に横たわる人影。
横たわるものから発する禍々しい気はそれぞれ異なり混沌としている。
特に両端にある2つはその原型が見えないほど黒いオーラを放っていた。
ただ1番奥の棺の中にいる人物の腕に着いているミサンガには見覚えがあった。
あれは絵梨が中学の頃に姉のために作ったものだった。
そして中央2つの棺は比較的穏やかな気を放っており、その顔を晒している。
15年間毎日見慣れた2人の顔がそこにはあった。
どこに隠しているのかと思えば、こんなところに保管していたのか。
探していた呪い呪われた故人達を見つけ、絵梨は収穫はあったとその手を離した。
「伊代」
「はい」
「答えられる範囲で良い。質問したいんだが、呪い呪われた遺体は燃えるものなのか?」
「無理です。祓わなければ、そこにあり続けます」
その返答だけで充分だ。
火葬したくとも燃えない辺り、呪物と言われる所以か。
もしかしたら祖母の証言通り、警察で姉の遺体は1度火葬されたのかもしれない。
その上で燃えなかった事で白芭がその遺体を回収し厳重に管理したのかもしれない。
9年間もこんな冷たく暗い場所にいたと思うと居た堪れなくなった。
白芭の女帝が祓えなかったということは、それぞれ願いが成就していないとこを意味する。
できるだけ早く究明し、みんなを解放に導こうと気持ちを露わにした。
ぎゅっと握り込んだ手に反応して握り返して来た存在に絵梨は目を向けた。
穏やかに微笑み婚約者を見つめる存在に絵梨も少し口角を上げて応えた。
伊代の言った〈鍵〉の存在意義。
意思疎通が成されれば成される程、術の効果範囲や種類が増えると言うのは本当らしい。
1人では漠然と何かある程度にしかわからなかったものが、要の存在を近くに感じただけで透視が可能になった。
恭二の時には術者の存在を感じる程度だったものが、昨日証言者と対峙した時には術者を顕現出来たのは、要が一緒にいたからかもしれない。
白芭の女帝は〈鍵〉を失い、その力の大半を失った。
という言は脅しでもなんでもなく事実だったのだと絵梨は顔を強張らせた。
その点は同情するが、だからといって現在自分が置かれた現状を許せるかというと別問題だ。
60過ぎで亡くなったのに、大人気ない。
しかし相手が向き合う気がないのに、もうどうしようもない。
「要くんは、もういいの?」
「欲を言えばエリンのお祖母さんと話したかったけど、今日は無理そうだからもう、ね」
本当、踏んだり蹴ったりな日だわ。
コートには穴は開くし、本命は無視を決め込むし・・・・(怒)。
「もう帰りましょう」
「うん、そうしよう」
「また来るからね」
黒いオーラを放ちながら呪言めいた言葉を残し、絵梨は要を連れ立って歩いた。
来た道を戻りながら2人で話をしながら墓地を後をにした。
墓地が見えなくなる寸前、1度絵梨は振り返ったがすぐに表面を向くと完全に墓地を後にした。
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次回作は短めのお話なので、明日投稿予定です。
訂正:すいません、投稿していたつもりができていなかったです。汗
16日投稿致します。




