54、やっぱりね!
私事で申し訳ないのですが、3年前にリウマチを患いまして薬との相性がなかなか合わず現在も痛みと闘いながら、パートの仕事が実質制限され働けなくなった時間を利用して小説を書いております。
最近体調が思わしくないため、手首の痛みが引かず執筆活動が難航しております。
先月投稿をお休みし経過を見たのですが、一向に痛みが引かない・・・。
毎日投稿したいのですが、構想はあっても文字にすることが叶わず、以後は間隔を開けて投稿となることをお許しください。
よろしくお願い致します。
石畳を移動し墓地がある方向に、伊代の後ろを着いて2人は移動した。
風も木々の匂いも何もない空間。
要も不思議なのか、周りをキョロキョロ見回し絵梨の視線を感じては目を綻ばせていた。
門扉から目視で確認出来ていた緩やかな上り坂を登りきったところで、分かれ道に差し掛かった。
前方の本家の墓地に繋がる道と左右に分かれた道。
「この左右に分家様方の墓地が点在しております」
伊代は一言そう言うと、前方に足を向けた。
その後ろを着いて行きながら、絵梨は質問した。
「分家は本家の墓にお参りのために入ることは出来るんだよね?」
「出来る方と出来ない方がおられます」
まさか・・・。と足を止め伊代の背中を凝視した。
「つまり悪意あるものは遮断されると?」
「“遮断“、は生ぬるい表現です」
伊代も足を止め、くるりと向きを変えた彼女はニーッと笑った。
「排除です」
その発想がもう怖いのよ。
「排除?」
要は意味がわからず呟けば、伊代は言った。
「本家、分家とはいえ、そこにはご両親のお墓が本家側にある方々の方が多いのです。そこは分け隔てなく誰でもお参りは可能ですが、分家方様の中には野心を持って生きていた者が一定数存在していました」
やっぱりね。まぁ、郁三爺さんのようにその資格がない者でさえも虎視眈々と本家の座を狙う者がいるんだ。
しかも紋を持って生まれた者の中に、その座を奪おうと思う者が昔からいたとしてもおかしくはない。
「先ほど絵梨様にもお伝えしましたが、白芭の血肉には呪いがかかっているため死してその身は呪物と同じ扱いになるのです。その為悪用されないようにこのように厳重に管理しているのですが、実は他者よりも厄介なのが身内からの簒奪なのです」
陰陽師が衰退した今、確かに1番気をつけなければいけないのは、身内。分家だろうな。
明治に入り、その当時の当主が分家の術者輩出を制限したのは〈鍵〉の奪い合いもあったのだろうが、お墓の管理のしやすさもあったのかもしれないな。
どの時代にも不平不満、承認欲求を理由に下剋上はあったということなのだろう。
そこは日本の歴史が物語っているので驚きもしない。
ただその手段は苛烈と言わざるを得ない。
「遮断ではなく排除ねぇ。その言葉通りなのかしら?」
「はい、悪意ある者がここに一歩でも踏み込んだら吹き飛ばされます」
吹き飛・・・・?
「「どこまで?」」
絵梨と要が唖然と呟けば、伊代はにっこり笑顔で「結界の外まで」と宣った。
だから苛烈なんだよ、その発想が。
そしてそれをマジで実行する高彬が!
要が絶句する中、絵梨はスン顔になっていたが憤っていた。
だが次の伊代の言葉で考えを改めた。
「考えてみてください。ここに眠ることになった絵梨様や大事な人の遺骨を盗もうとする身内がいたとして許せますか?」
そんなもん論外だ。
「人として疑う鬼畜の所業だ」
そう呟く要に、確かにそうだと絵梨も思った。
野心のために遺体や遺骨を盗むのは、すでに常軌を逸している。
正常な判断が出来なくなった者に配慮はしないと言うことか。
「ちなみにその戒めを施した高彬様と二代目様ご夫婦のお墓はそこです」
道端に落ちた石ころのように言う伊代の、そこと指差した先は石畳の通路からかなり離れた木々に囲まれた場所。
ただその先には清らかな水辺、小さな池が存在しその淵に沿うように、三つの人の頭の大きさ程の石が並んでいた。
ここから本家の墓はまだ見えない。
分家の墓地に繋がる通路と目と鼻の先にある墓標に違和感が募る。
初代の〈鍵〉と2代目夫婦の墓がこんなお座なりに通路の端っこの方に追いやられていいのか?
「嘘でしょう?功労者の高彬や琴子の功績を考えてもあり得ないところに墓標が置かれているじゃない」
「致し方ないのです。高彬様に関しては初代様と離縁され白芭でなくなったことが弊害になり本家のお墓には入れなくなりましたので、初代様が他の子供達にも気軽に参れるようにとこちらに埋葬されました」
絵梨も要も眉を顰めて聞いていると伊代は2代目についても言及した。
「初代様の功績として残すために2代目であることを隠すと決めた琴子様は表立って本家の墓地には入れませんので、夫婦揃って高彬様のお墓の隣に墓標を立てるように言い残されたのです」
「本当は?」
「琴子様は最後まで渋られましたが、朧様の懇願により折れた形でここに収まりました」
やっぱりね。
琴子の性格上、最後まで初代の近くに眠りたかっただろう。
だがその母のために功績を譲ると決めた以上、本家の墓に眠るわけにはいかない。
ではどこに埋葬するか。で夫婦で揉めたはずだ。
だが高彬崇拝者の朧なら、1人眠る高彬の隣を所望したはずだ。
「ここから1番手前が高彬様、真ん中が朧様、奥にあるのが琴子様の墓標になります」
その位置関係で3人の関係性が見えるな・・・。
苦笑いしながら絵梨がその3つの墓標に近づいた時、後ろを着いて歩いていた要に腕を取られ引っ張られた。
体制を崩され後ろに倒れかけた絵梨の体に回り込み要が頭を抱き抱えるように覆い被さった。
次の瞬間ボッ!ボッ!ボッ!と鈍い音が響き、その後要の体に沿って落ちて来た小石が視界に入り絵梨は顔を上げた。
小石が飛んで来たの!?
「要くん!」
「エリン頭を下げて!また何か来る!」
今度は何よ!
と、身構えた瞬間要がコートの裾を持ち上げ、広げた。
するとバシュッ!バシュッ!と言う音と共に要のコートを貫通し絵梨の顔前に矢の先が迫った。
真っ青になった絵梨をよそに要は冷静に当たりを見渡し、もう攻撃されないことを確信して絵梨を解放した。
「エリン、怪我はない?」
「私は要くんが守ってくれたから大丈夫よ!それよりあなたは大丈夫なの!?」
「服以外は問題ないよ」
そう言って要は、コートに刺さった先端の矢尻を掴むと引き抜いた。
(ぎゃー!!要くんのブランドコートに2つも穴が空いてんじゃない!!)
1つ1つコートから矢を抜いている要に申し訳なさと、誰にとは言わないが怒りが込み上げてきた。
「伊代」
このことを知っていたのか、少し離れたところにいた伊代が「はい」と返事をする。
「このトラップ仕掛けたのはどっち?」
「どっちとは?」
「高彬!?それとも琴子!?」
「そう言う意味でしたら、矢が琴子様、小石が朧様です」
似たもの夫婦が!!
「一歩間違えれば死んでたのよ!」
「大丈夫です。あくまで余興です」
「余興で済むか!」
このコートいくらすると思ってんのよ!
憤慨する絵梨とは違い、要は平然としていた。
「荒い歓迎だけど、白芭らしいね」
どう言う意味?
「昔されたマリンのイタズラを思い出したよ」
嘘でしょう!
今まで何やったのよ!姉さん!!
真一が幼い頃からされていた悪戯を思い出し、自分の範疇を越える事を要にも施していた事実に深々と頭を下げた。
「重ね重ね申し訳ありません」
「エリンは関係ないから謝る必要はないよ。それよりその琴子って人、マリンの前世での人物なんだろう。やっぱり通ずるものがあるね」
全くもって同感である。
前世の方がより過激ではあるが、と地面に捨てたれた矢を視界に入れ別の怒りが湧いた。
っていうか、やっぱりあったよ!イタズラの範疇超えたトラップが!!
白芭のイタズラ好きの原点はここだな!
「もうないでしょうね!」
伊代に確認すれば、「はい」と頷かれた。
黄金色であることから、ここからは大丈夫そうだ。
盛大な嘆息後、高彬の墓標の前まで行き、地面の盛り上がった土に手を置いた。
そこから感じ取れるものはない。
古来より【人は土から生まれ、死んだら土に還る】という自然の摂理や死生観に基づくと言われている。
人間の身体を自然の一部と捉え、土から育つものを栄養として命を構成されていることから、元の場所へお返しするという意味で土に弔うのだ。
ここが結界で覆われていても、自然の摂理までは捻じ曲げられない。
つまり、地の中の経過までは、神でない限りどんなことをしても留め置くことはできないということだ。
そういう意味で、すでに1000年近い月日が当然流れており、流石に霊魂も成仏している。
高彬の依代が絵梨のすぐ後ろにいることからもそれは明白だ。
ただ、何か記憶や残像でも見れればと思ったが、歳月が立ち過ぎて拾えるものはなかった。
ここには未練も遺恨も残していないのだろう。
琴子と朧の眠る場所にも手を当ててみたが、そちらも同じ状況だった。
周りを見渡せば、琴子の墓標の周りだけ低木が植えられている。
山吹だ。
本来なら春から初夏にかけて鮮やかな黄金色の花を咲かせる日本原産の落葉低木だが、ここは結界の中。
いつ来てもこの花は咲いているのだろう。
そっとその花に手を伸ばせば、いつの間にか近くに来ていた伊代が目を綻ばせた。
「この花は琴子様が好きだったお花です。朧様が琴子様が亡くなった後に植えたものです」
「・・・2代目は先に琴子が亡くなったのね」
「はい、呪詛に失敗したのです」
呪詛師としては一流と言われた琴子が失敗?
「琴子様の晩年のことです。すでにお孫様も成長され、最後の仕事になる予定でした。相手は罪人でしたが、高名な陰陽師が着いていたのか呪詛返しに合い、その身に呪いを受けてしまったのです」
伊代は琴子が眠っていたであろう地に手を着き眉を下げた。
「本来呪い呪われた遺体は厳重に保管されるのですが、琴子様に限っては自身で放った呪詛をその身に返って来たものでしたので、大したことにはならずここに埋葬されましたが、本来は許されないことなのです」
「なぜ許されないの?」
「もともと白芭として呪われた身を受け継いでいます。そこにさらに呪い呪われれば、その身は完全に呪物に成り果てる。厳重に保管しなければ放っておいてもいいことはありません。空気の汚染程度ならいいですが、その度合いによっては邪気が垂れ流され一般の人の中で敏感な者はそれが伝播し感化され犯罪の温床になります」
つまり呪い呪われた者達を収容する場所が本家の墓以外のどこかにあるのか。
「それからするとおかしいわよね。琴子がここにいることには問題はなかったの?呪物になったことを考えてもここに埋葬されたこと自体が解せないんだけど?」
「疑問はごもっともです。ですが琴子様の場合はご自分の呪詛を返されたに過ぎません。呪われた白芭の身に白芭の術が戻る。つまり自分で自分を呪った現象は、その血に宿る呪いを封印したに等しい状態になったのです。事実、呪詛返しに遭った直後から琴子様は白芭の能力は皆無になったそうです」
自身でこの能力は封印できると?
「この能力をなくすことが可能なの?」
思わず身を乗り出した絵梨に伊代は肯定した。
「はい。ですが過去誰1人として、それを実行しようとする方はおられませんでした」
能力有りきの白芭ならば、能力向上はあり得ても、無に帰すなどあり得ない・・・か。
まぁ、そりゃそうか。
「その教訓から隠の術はできるだけ行わない風習ができた要因でもあります」
陽の能力を重点を置いて白芭が行って来た理由はそれか。
呪い云々(うんぬん)で思い出したこともある。
その質問にあの人が答えてくれるか賭けだが、葬儀後、初のご対面だ。
絵梨は低木から手を離し、姿勢を正した。
「ここにいても3人の情報を取ることは出来ないようだし、念願の顔合わせと行きましょうか」
要を見上げて言えば、嬉しそうに頷かれた。
「伊代、本家の墓地まで同行よろしく」
「承りました。どうぞこちらです」
3人は本家の墓地に繋がる石畳に戻り、歩を進めた。
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次回作は明後日水曜日投稿予定です。




